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林真理子×マキタスポーツ 「山梨」発「野心」経由のふたり【前編】|インタビュー・対談|「オール讀物」編集部

同じ山梨県出身で、マルチに活躍する二人が語る故郷で過ごした青春時代や、東京での日々、そして執筆への想い

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マキタ 真理子先輩、今日はよろしくお願いします。実は先輩のためにお土産をお持ちしたんです。

 わあ、私の大好きな浅草の「亀十」のどら焼き! ありがとうございます。マキタさんは私と十六歳違うんだよね。それで、同じ山梨県山梨市出身で、高校も同じ山梨県立日川高校の卒業です。マキタさんは二〇一四年のNHKの朝ドラの『花子とアン』にも先生役で出演されていて、後輩でこんなに活躍している方がいて嬉しいです。

マキタ 真理子先輩にそうおっしゃっていただいて感激です。NHKの朝ドラに出たら、ようやく山梨の人も僕の存在を認めてくれたようで、皆に「おめでとう」と言われました。でも、山梨弁でお芝居をするって、パジャマでパーティー会場に居るみたいな恥ずかしさがありました。「てっ」とか「何とかずら」って、完全に家の中の言葉なんですよね。

 方言って不思議で、私もふだん標準語なんだけど、中央線の特急で笹子(ささご)峠を越えると「霧が出てるじゃん」って言ってしまうんです。でも、山梨って東京の人の認識はすごく中途半端で、東京と隣接してるって言うと「ウソッ」とか言われるじゃない。

マキタ 「山梨出身です」って言うと、「ああ、フルーツがおいしくて、ほうとうがあって……」で話が終っちゃいますよね。富士山は静岡のものだと思われているし。

 沖縄や福岡と違って、山梨県出身の有名女優さんっていないんですよ。昔から“富士山の見えるところに美人はいない”っていうのが定説なんです。

引きこもりになり世間を呪った

マキタ 先日、日川高校の同窓会に初めて行きました。男性はみんなハゲていてビックリしましたね。僕は大学で東京に出て以来、生まれ故郷の山梨を否定しながら暮らしていたので、卒業してから三十年、同級生とほとんど会っていなかったんです。

 どうしてそんなことになったの?

マキタ 高校時代は目立つ方だったので、自分には山梨は狭すぎると勘違いをしていたんです。それで東京の大学に進学して、四つ上の兄貴が住んでいた明大前のアパートに一緒に住み始めました。でも大学は鶴川という町田市のマイナーな場所にあったので、井の頭線や小田急線の地獄のような満員電車に乗らないとならないし、準急や急行の違いも田舎者にはよく分からずストレスばかりでした。それで、ようやく学校に着いて、校舎の階段を友達と上っていたときに、うっかり「ああ、えらい」って言ってしまったんです。そうしたら、「えらい? 何が?」って言われたんですよ。そこで僕、もう心が折れちゃって……。

 しんどい、って意味ね。「ああ、えらかったじゃんね」って言いますよね。

マキタ 油断して口をすべらせた方言を指摘されて、顔が真っ赤っ赤になっちゃって。それで僕、五月以降、学校に行けなくなっちゃったんです。

 そんなことぐらいで!?

マキタ 自分はもっと豪快な人間だと思ってたんですが繊細だったんです。

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はやしまりこ/1954年山梨県生まれ。82年『ルンルンを買っておうちに帰ろう』でデビュー。86年『最終便に間に合えば』等で第94回直木賞受賞。

 私はいとこたちもみんな東京の学校に行っていたので、東京に行くのが自然でした。もともと父親が東京の人だったので、行けば何とかなるだろうと思っていた。進学した日大藝術学部では、一年生のとき結構ちやほやされていたのよね。私も勘違いの人だから、この人私のこと好きなんだろうと思った人もいたのだけど、二年生になったら一年生にみんな取られちゃって。「あれっ、おかしいな」と思いながらも、今になんとかなると思って、結構順応してきました。

マキタ 僕はそれから、ひたすら世の中を呪っていましたね。世間のバブルのはしゃいだ雰囲気にもついていけなくて、半年以上引きこもり状態でした。とにかく外に出たくないので、夜中に這い出して、近所のコンビニで廃棄処分になっている弁当をくすねたりして。だから、当時の自分が真理子さんの『野心のすすめ』を読んでいたら、先輩の不屈の闘志がまぶしすぎて逃げ出していたと思います。

 でも、私もそんなにしゃかりきに頑張ろうっていう感じではなかったですよ。就職できないから「困ったな。じゃあバイトするしかないよな」と思って、植毛クリニックで、頭に植える毛を注射針に一本ずつ入れる地味なバイトをしました。でも「これも長くやる仕事ではないし、もっといい仕事見つけなきゃ」って、だんだん階段を上がってきた感じなんです。そもそも、山梨県人って、こちらが貧しくても山の向こうには華やかな東京があると思っているから、独特の上昇志向はあると思いますよ。静岡の人はもっとのんびりしてるらしいの。

マキタ 僕も上昇志向はそれなりに強いと思うんです。今のポジションには全然満足できていないし、もっと何かやってやろうと思っています。ただ、比べるべくもないのですが、僕は真理子先輩とだいぶ違っていて、全く本を読まない子どもだったんです。真理子先輩のように実家が書店なんて、どれだけ恵まれていたんだろうと思います。

 そんなことないよ。山梨の人ってマウンティングしたがるので、商売をやってる家の子って必ず周りから何か言われるんだよね。恩着せがましく「おまえんちで買ってやった」とか。だから、みんなに愛想よくしないといけなくて、サラリーマンとか農家のお家の友達がうらやましかった。今でも私は、待ってるタクシーでワンメーターって申し訳なくて乗れないんですけど、公務員の息子だった夫は「別にそういうことだってあるんだから、しょうがないだろ」って言いますよ。

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まきたすぽーつ/1970年山梨県生まれ。芸人、ミュージシャン。2013年映画『苦役列車』でブルーリボン賞新人賞。著書に『一億総ツッコミ時代』など。

マキタ 僕の実家もスポーツ用品店を経営していたので、気持ちは良く分かります。その両親も既に亡くなっているのですが、真理子先輩のお母さまは百歳を超えた今もご健在で、すごい女性ですよね。教養が高くて、山梨高等女学校を優秀な成績で卒業された後、東京の女子専門学校に進学されている。文学などに対する教養が全然違うと思います。

 でも、うちの母親はずっと「お父さんのおかげでこんな貧乏させられて」って愚痴を言っていたんですよ。自分も東京で暮らしていたのに、戦争のせいで山梨に戻ってきて、父親が戻ってきたのも終戦から八年後だった。その後、四十歳を過ぎて子どもを二人も産んだのに、父親は全然生活能力がなくて競馬をしたりダラダラしているだけ。だから仕方なく、自分の古本を売って実家の隣の貸家を借りて、小さい本屋を始めたんです。

マキタ 実は、僕はその林書店で、何度か立ち読みをしていました(笑)。『女性自身』など雑誌を読みたかったのですが、林さんのお母さんは立ち読みするお客に厳しいことで有名で、警戒していました。

 母親は怖いおばさんで有名だったのですが(笑)、私は山梨では本当に知られていないんですよ。この前、いとこと地元のデパートに行ったら華道家の假屋崎省吾さんがトークショーをしていたの。それで「假屋崎さんに会いたいじゃんね」っていとこも言うし、私もいい顔をしたいから、受付の人に「すいません、知り合いなんだけど会わせていただける?」って言ったら、「駄目です」って言うの。化粧もせずに、汚い恰好だった私も悪いんだけどさ。東京だったらもう少し親切にしてくれるのに。

写真◎原田達夫

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オール讀物 2017年1月号

定価:980円(税込) 発売日:2017年12月22日

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後編へ続く

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