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弁護士任官の建て前と本音

弁護士から裁判官になる「弁護士任官」について、法曹界内では、弁護士の実績から大量任官の未来に冷やかな見方をする人もいれば、これを「法曹一元」という理想に向かって、前進的に受け止めようとする人など、さまざまな受け止め方があることは、以前、書きました(「弁護士任官と法曹一元の距離」)。

しかし、この「弁護士任官」というテーマを考えるうえで、どうしても触れておかなければならないことが、もう一つ、あるように思います。それは、この「弁護士任官」が成り立ちにくいことを、ほかならない弁護士自身が一番分かっているのではないか、ということです。

つまり、端的に言って、これは弁護士として成功している人ほど、この道には行けない、行かないだろうことを、弁護士はわが身に置き換えて知り得る立場にいるからです。経験から弁護士技術を習得し、顧客を作り、苦労して事務所を立ち上げ、支えてきた弁護士が、それをいわば投げ打って裁判官の世界に飛び込む
ことが、そう簡単なことではない、ということです。

実は、これまで弁護士の口からこうした本音を度々聞いてきました。「先生、任官どうですか」といえば、「いや、いいと思うよ」とか「非常勤ならば」という言葉は返ってきますが、現実的には「なかなかね」という話です。もちろん地位の保証とか弁護士に戻ることを含めた条件の話にもなりますが、多くの弁護士としては、これまでの積み上げてきた財産をここで投げ打つというとらえ方が現実的な壁になっているようにとれます。

かつて最高裁判事就任直後にインダビューした弁護士出身の方に、転身の心境について尋ねたとき、彼は事件や顧客の引き継ぎを行い、法律事務所のあとを託す仕事をしながら、「これは自分の弁護士という仕事のお葬式をしているんだ」と感じたと言っていました。通常の弁護士任官とは違いますし、弁護士としてのキャリアが長いこともありますが、逆に最高裁判事というポジションでも、転身はベテラン弁護士をこんな持ちにさせるものなのか、と知りました。

さて、問題は、この弁護士の本音が、弁護士会がその悲願として、弁護士任官の向こうに夢見た法曹一元についてもいえるのではないかということです。つまり、仮に弁護士経験10年を経て、裁判官になるというルートが果たして選択されるのか、さらにいえば、そこで裁判官になる人がどういう人と想定できるのか、ということです。

法曹一元の本来的な趣旨から言えば、弁護士として熟練して、その経験が裁判にいかされる人でなければ、意味がありません。逆に、そうした弁護士を極めた人ほど、弁護士の仕事から離れる決断をするのか、ということです。裁判官になるために法曹を志した人が、そのために10年その志を維持して、任官することも考えられなくなりませんが、ある意味、10年の弁護士経験を重くみるほどに、壁は高くなり、軽くみるほどに、法曹一元の本来の趣旨から離れてしまいます。

法曹界で法曹一元が、議論の俎上に上り、そこに弁護士側の期待がかぶせられた歴史がありましたが、弁護士の多くも、裁判所側も、この現実をよく分かっていたと思います。弁護士は自分に置き換えれば、当然に想定できた壁を知りながらも、それでも官僚司法に対する決定的な方策として、この有効性を重んじ、あるいは、自分以外の志の高い有志に期待したのかもしれません。

裁判所側も、大方この壁を知っているがゆえに、冒頭のような冷やかな、タカをくくった見方につながっていたのではないか、と思います。表向き「法曹一元」の意義を認める発言をしていた方も含め、そういう見方をしたくなります。

この現実を「無理」と見るのか、「理想」に向かうために越えるべきハードルと見るのかは、法曹関係者の本音と建て前の中に、ずっと存在し続けているテーマのようにも見えます。

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