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たった一人の「法曹一元」運動

 かつて弁護士界に、一人の熱烈な法曹一元論者がいました。東京弁護士会の大高三千助という人です。「裁判官は弁護士から」という体制実現を求め、日弁連常務理事として自ら日弁連総会に上程する「法曹一元実現」宣言案を起草、さらに自費を投入して、各方面にその実現を呼びかけた人物です。

 彼は自らのこの運動を「真理運動であり、愛国運動」と称して、はばかりませんでした。

 「日本弁護士連合会は法曹一元のすみやかな実現を期す」

 大高試案の宣言本文は、これだけの簡単なものでしたが、その提案理由中には、彼の法曹一元への強烈な思いが綿々とつづられています。

 「大衆は自分達をよく知る、自分達と同類のものから裁判を受けることに安心感を持つ。国民の司法に対する信頼は実にここに根ざすのであり、法曹一元の原理はここに発する」
 「法曹一元は単なる判事・検事・弁護士の人事交流的一元にとどまらず、国民大衆と一元化するところまで前進しなければならない」

 だが、この宣言は幻に終わります。彼が上程を考えていた1962年度の日弁連総会は、一元宣言自体を見送りました。既に当時設置が決まっていた政府の臨時司法制度調査会の結論を待つという選択をしたのです。

 そこで、彼は新たな運動を開始します。それが自費で発行した「法曹一元シリーズ」と名付けられた冊子でした。彼は世論を喚起するために、これを各方面に送りつけます。彼のとどまるところをしらない、法曹一元への情熱の表れという以外にありません。

 「ひと様、就中所属団体等のやり方についてもイエスマンになってばかりおられませんから云いにくいことも云わせてもらいます」

 彼は第1号でまず、こんな覚悟を披歴、先の幻の宣言案を公開しました。2号、3号では「最後の6カ月」というアメリカの裁判劇を引用し、老練な弁護士プレストンと、若き弁護士の息子の姿を描いた物語の中で、彼は法廷の裁判官がいかに「弁護士の先輩、尊敬すべき同僚」であるかを説きます。

 また、裁判は「人生の達人、人に説教の一つもできる先輩」ができることとして、試験合格後2年の司法修習(当時)で裁判官席につかせているわが国のやり方を、老練なプレストンではなく、未熟な弁護士を裁判官席に就かせているようなものだ、と例えてみせました。

 彼のこの運動がどこまで続けられたかは確認できていません(1964年6月発行の月刊「法曹界」に「№11は目下執筆中」の記載があることまでしか確認できていません)。

 彼の一元論には、明確な裁判官像が見えます。だれからも尊敬される人生の達人。国民がこの人ならばと、納得できてこそ、真に国民の信頼が築けると考え方。それは、もちろん法曹三者の人事交流でも、官僚制度を残したままの「給源の多様化」でもありません。

 もちろん、今からみれば、あまりにも素朴な発想ということになるかもしれません。それどころか、「大衆は自分達をよく知る、自分達と同類のものから裁判を受けることに安心感を持つ」という先に、果たして今の社会の弁護士像があるのかも疑わしく、およそ「国民大衆との一元化」への前進などではなく、まさに「単なる判事・検事・弁護士の人事交流的一元」にとどまっている観もあります。

 彼は、一元を担うべき弁護士の適格性という意味では、今の弁護士とは比べようもないほどの使命感と自信に充ち溢れているようにとれます。

 ただ、彼が法曹一元の基本に据えた、裁判の権威ともかかわる「国民がこの人ならばと、納得できてこそ」の信頼の話は、どう考えるべきでしょうか。国民が裁判に参加する時代になっても、果たして国民にとって、裁判員という「国民」裁判官は、そうした存在なのでしょうか。職業裁判官だけの従来の裁判と、裁判員裁判を、もし裁かれる国民が選択できるとした場合、果たして国民がどちらを選択するのか、制度維持のために、あえてその投げかけをしていないのが裁判員制度です。

 彼の運動は、この国にひとときだけ現れて消えた「法曹一元」の「夢」のようにみることはできますが、彼が目指そうとしたものすべてを葬り去ることもできないように思えます。

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