- 2017年01月06日 11:57
中国経済の「アキレス腱」を照らすマネー市場の「反乱」 - 青柳尚志
2/2拍車がかかった外貨準備の減少
中国の外貨準備は2016年11月末時点で3兆516億ドルと、3兆ドルの大台割れ寸前。2014年6月末に比べると1兆ドル近く減少している。ならば米国債の保有額はといえば、2016年10月末で1兆1157億ドル。外貨準備が2016年6月末時点の保有額は1兆2408億ドルだったから、夏場以降の急速な資本流出で資金繰りが二進も三進も行かなくなっていることがうかがえる。論より証拠。その間の中国の外貨準備と米国債保有額の実数を示しておこう(単位=億ドル)。
外貨準備 米国債保有額
2016年
6月末 32,052 12,408
7月末 32,011 12,188
8月末 31,852 11,851
9月末 31,664 11,570
10月末 31,207 11,157
11月末 30,516 ―
11月の外貨準備の減少に拍車がかかったのはいうまでもない。11月8日の米大統領選でトランプ候補が当選し、大型減税やインフラ投資、規制緩和に期待した「トランプ・ラリー」が始まったからである。債券から株式へ資金移動(ポートフォリオ・リバランス)が起き、新興国から米国への資本還流が起きた。新興国では米国に引っ張られて長期金利が上昇し、為替市場ではドルが独歩高となるなかで、新興国通貨は軒並み下落した。
FRB議長の胸の内
こうした流れに拍車をかけたのは、FRBによる1年ぶりの利上げである。赤穂浪士の討ち入りよろしく、イエレン議長の率いるFRBは2016年12月14日に0.25%の利上げを実施した。それだけなら織り込み済みだったものを、2017年の政策金利引き上げについて、イエレン議長は思いのほかタカ派の姿勢を示した。市場が予想していた2017年の利上げは2回。なのに3回という見通しを打ち出したのだ。
米国の失業率は4.6%と完全雇用に近い。そんななかで、トランプ次期政権が積極財政のエンジンを吹かせば、米経済は望ましくないインフレに陥ってしまう。ならば、財政が積極化する分、金融はきつめにする必要がある。イエレン議長のそんな判断は、経済政策の運営としては理にかなっている。とはいえ、大統領選のさなかに、トランプ候補からいわれない非難攻撃を受けてきたことを、イエレン議長が快く思っていないのも確かだろう。
「低金利政策でオバマ政権を助けているですって。ならば、トランプ政権の下では政策の筋を通してあげましょう」。その辺がイエレン議長の胸の内だろう。あるいは「2018年の任期が到来したら、再任しないと明言しているけど、任期いっぱいはやらせてもらうわよ」と腹をくくったのかもしれない。本来は金融緩和志向の強いハト派のFRB議長は、かくして心持ちタカ派に傾斜しつつある。
中国「通貨危機」の事態も
これはあくまで新大統領とFRB議長の痴話げんかのようなものだが、金融市場はその辺の心象風景を読み、米長期金利は上昇し、ドル相場も一段高となった。迷惑を被ったのは新興国だが、皮肉なことに、米国と肩を並べると意気込んでいた中国も、世界第2の経済大国であるより前に、図体の大きな新興国であることがハッキリしたのである。為替市場で人民元が1ドル=7元の大台近くまで売り込まれているのは、その象徴だろう。
経済運営が振るわない中国としては、この人民元安に乗って輸出を伸ばし、外需による景気立て直しを図れれば良いのだが、そうは問屋が卸してくれそうもない。1つは、元安が一段の資本流出を招き、資本流出に伴う外貨準備の減少が、意図せざる金融の引き締めをもたらす「負のスパイラル」の存在。外貨準備が3兆ドルの大台を割り込むと、銀行への資本注入や海外での資源開発投資など、外貨準備を流用した不稼働資産を隠しおおせなくなる。外貨準備の相当部分が「張り子のトラ」であることが発覚すれば、通貨危機に見舞われたアジア諸国のような事態に襲われかねない。
その一方で、米中の貿易不均衡に神経を尖らす大統領が登場しようという局面で、人民元の下落が加速するようだと、トランプ政権の対中強硬論の火に油を注ぐことになりかねない。米国による為替操作国の指定はともかくとして、鉄鋼など中国の輸出品に対しては次々と高率関税をかけてくるだろう。新設する国家通商会議のトップに指名されたカリフォルニア大のナヴァロ教授は、今から手ぐすねを引いているに違いない。
勝者のない共倒れの可能性
米中の冷たい競合関係の根っこにあるのは、自分の背中が見えてきた2番を徹底的にたたく、米国という国の体質がある。1980年代のソ連はレーガン政権の仕掛けた宇宙軍拡(スター・ウォーズ計画)に付いていけず音を上げて、冷戦に敗北した。経済大国日本はソ連亡き後、クリントン政権の仕掛けた経済冷戦に沈んだ。そして今、中国が新たな冷戦の標的になろうとしている。かつてのソ連や日本と違い、中国は経済的にも軍事的にも米国とがっぷり4つに組むだろう。
米国自身もアフガン、イラク戦争とリーマン・ショックで体力を低下させ、かつての米国ではない。米中の「新冷戦」は勝者のない共倒れになる可能性だってある。トランプ・ラリーにはしゃぐ米国市場もその時は「こんなはずじゃなかった」と臍を噛むかもしれないし、中国は習体制や共産党支配にヒビが入っているかもしれない。日本も共倒れの渦に飲み込まれてしまいかねない。最後に高笑いするのがIS(イスラム国)や北朝鮮やロシアなのだとしたら……。



