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弁護士強制制度という方向

 最高裁が7月8日に公表した「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」の内容に関して、朝日新聞が8月1日の社説で取り上げました。

 「民事裁判改革 審理充実へ知恵集めよ」

 こうしたタイトルで、「朝日」が注目したのは、2年ごとで4回目になるこの報告書が打ち出した裁判の充実・迅速化に向けた施策です。とりわけ、この社説が興味深いのは、「朝日」が弁護士に関連した施策として「弁護士強制制度」に強い関心を示していることです。

 報告書にはこうあります。

 「本人訴訟における審理の適正・迅速化を図る観点から、前記の諸施策により弁護士へのアクセスを一層改善することに加え、弁護士にアクセスできるにもかかわらず自ら訴訟を追行する当事者の割合が増加している現状をも踏まえ、弁護士強制制度の導入について、部分的導入の可能性も含め、検討を進める」

 これは弁護士数が増加しているにもかかわらず、民事第一審訴訟事件における本人訴訟の割合は増加傾向にあり( 「『本人訴訟』への弁護士の姿勢」「弁護士の『使い勝手』」)、その本人訴訟が裁判所側の負担になったり、複雑な事件では、審理が長期化する場合があるというとらえ方が背景にあります。

 つまり、弁護士選任を義務化する制度の導入を検討しようというのは、とりもなおさず本人訴訟が増える現状をなんとかするということ、本人訴訟がこれ以上増えることを警戒するものです。

 その弁護士強制制度について、「朝日」は社説のなかで、検討の推進の立場に立っています。すべての事件への義務化は性急でも、控訴審や上告審から取り入れ、段階的に進めたり、紛争の類型を決めて導入することも提案しています。

 実は、この弁護士強制制度の導入については、専門家の間でも意見が分かれてきました。弁護士のなかには、自らの出番が増える形を歓迎する見方もあるようですが、問題点としていわれているのは、弁護士選任が義務付けられれば、当然、依頼者の費用負担が生まれ、訴訟の敬遠、あるいは権利擁護が行われなくなるということです。

 そうした問題を、十分承知してか、「朝日」はこんな表現をしています。

 「裁判を受ける権利の制約に映るかもしれない。だが、司法システムをどう効率よく運営し、全体の利益を図るかという『鳥の目』をもつことも大切だ」

 さらっと言っていますが、この制度の問題性に目をつぶれといっているようにもとれなくありません。「映るかもしれない」ではなく、市民の「裁判を受ける権利の制約」につながるかどうかが、この制度の問題として、まず考えなければいけない点であり、その後の表現につなげれば、そのことよりも司法システム「効率」いい「運営」と「全体の利益」を考えろといっているようにすらとれます。

 なぜ、「朝日」は、この弁護士強制制度の検討の背中を押すような論調をここで掲げたのでしょうか。「報告書」が示した弁護士関係の施策では、以前、触れた弁護士の「専門認定制度」(「弁護士『格付け』の無理とニーズ」)についても取り上げていますが、社説の半分は強制制度に割かれています。

 その真意は今一つはっきりしませんが、ただ、弁護士強制制度の現実的な課題としていわれてきたものの中に、弁護士の数の問題がありました。「改革」が目指す弁護士大増員が、この制度を支える、支えるためにも、増員路線の堅持が必要という描き方もまたあり得るかもしれません。もちろん、前記文脈からすれば、そのまま市民の権利の実質的主張の機会を犠牲になっても、訴訟の効率化と迅速化を推進せよ、ということなのかもしれません。

 しかし、一方で、弁護士強制制度については、当然、弁護士の一定の「質」の確保が必要となります。本人訴訟増加は、「改革」で期待された弁護士費用の低額化が進んでいないことが原因といった見方もありますし、「質」の低下が弁護士離れを加速させているという見方もあります。本人訴訟に市民が向かわざるを得ない本当の原因に向き合うことなく、訴訟の迅速化・効率化のために弁護士選任を義務化するという方向は、それこそ大衆が求める形なのかどうかもよく考えなければならないと思います。

 さらに、別の見方をすれば、この制度は逆に言い掛かりを含めたとんでもない主張にも、すべて弁護士がつかなくならなければならなくなる、ということにもなります。弁護士のなかには、これを懸念する見方もありますが、「質」の低い弁護士がこれを引き受けた場合どうなるのかも含め、出番が増えるでは済まない問題があります。

 市民の権利擁護を中心に考えるのであれば、やはり「鳥の目」より、「虫の目」で裁判の在り方を考えるべきだと思えます。

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