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【大予測:政治】憲法改正準備、着々と進行

西田亮介(東京工業大学准教授)

2017年は、憲法施行70年の節目の年にあたる。昨年、衆参両院の憲法審査会が議論を再開し、憲法改正に意欲を見せてきた安倍総理は自民党総裁の三選禁止規定を変更した。高い内閣支持率や、年末に若手議員の不祥事が続き政策と候補者選定の準備も遅れる野党の状況を見るにつけても、政治の憲法改正に向けた準備は着々と進行している。

その一方で、生活者の関心は乏しいままだ。そもそも前述のような状況すら、あまり知られていないように思える。2016年7月の参院選は、改憲を主張する政党で両院それぞれの3分の2の議席を獲得できるかどうか、それによって量的な意味での改憲の水準を満たすかどうかという点で、この問題のひとつの重要な節目であった。

だが各社の世論調査を見ても、生活者は憲法問題を争点として重要視していたとはいえないままの状況が続き、あっさりと3分の2条件は満たされることになった。本質的には憲法と無関係な国民はいないはずなのだが、おそらく大半の生活者は憲法改正の是非について強いオピニオンを持てずにいるともいえそうだ。

だが憲法改正の実務面に注目しても、改憲派の実務的な攻勢が目立つ。1950年代の内閣に設けられていた時代の憲法審査会から始まり、議連の形成、国民投票法の審議過程、憲法審査会の前進にあたる憲法調査会をみても、それぞれにおいて、ときに信じられないほど忍耐強く実務的に改憲の下地を作ってきた経緯がある。それらを紐解くと、やはり護憲派の劣勢と実務的な面での抵抗の失敗が目立つ。改憲派から見れば、これまでの蓄積が実を結びつつあるということになるだろう。

もうひとつ、「post truth」と呼ばれるメディア状況がある。2016年を代表する英語として選ばれた言葉だが、直訳すれば「脱真実」、日本語圏では「『客観的事実』が重要視されない時代とその空気」といったニュアンスで用いられている。イギリスにおけるEU離脱の国民投票の結果、アメリカの大統領選挙など、これまでのそれぞれの業界の「常識」や、調査報道や世論調査の盲点をついたプロモーションなどの影響が顕著になってきたことなどが選定の理由とされる。

日本語圏においても他人事とはいえない。16年末にはキュレーションメディアやまとめサイトの捏造問題が社会的に問題視され、たとえば拙著『メディアと自民党』や、論文「自前メディアの活用、市民との協働……高度化した政治の情報発信の陥穽とは」などで論じたように、政治の情報発信の技術と戦略も高度化する一方だ。

前者ではおもに自民党の2000年代以後の情報発信手法と戦略、その発展の経緯を論じたが、後者で取材を通して明らかにしたように、情報発信と広報広聴に積極的なのは主要5政党に共通している。オウンドメディアの開発や党内イントラネットの活用、市民団体との協働など各政党でさまざまなアプローチの開発が進められている。

関連して、日本におけるpost truth politicsに関する重要な論点として、本質的に重要な論点を「争点化させない」手法についても考えておく必要がある。とくに『メディアと自民党』でも紹介したような原発再稼働問題の争点化を回避した手法などは改めて注目しておきたい。憲法改正問題においても、争点化を回避するアプローチとして十分応用可能に思われるからだ。

あまり知られていないが、憲法改正の国民投票法が規定する投票運動は、公職選挙法が定める一般の選挙運動とは異なり、アメリカの大統領選挙のようにかなり自由度の高いものになっている。憲法改正発議が行われた暁に直面するのは、一見似たようなものであったとしてもその本質は我々が普段見知った選挙運動とは異なるものなのだ。国内で参考にできる事例といえば、大阪都構想をめぐる住民投票がこれにあたる。当時と同等か、それ以上の分断とメディア状況に我々は直面するかもしれない。それか争点回避手法によって、まったく憲法改正に関する議論が生活者に浸透しないこともありうるだろう。

もっとも懸念され、しかし日本的な状況にも思えるのは、生活者がよく理解しないまま、なんとなく曖昧模糊とした雰囲気のままに憲法改正が進み、ますます生活者と憲法の距離が遠くなることだ。護憲派も憲法改正発議が否定された暁には、改めて現行の日本国憲法の価値が選択されたともいえるわけだから、これまでのやや教条的で形式的な議論のみならず、より踏み込み議論を活発化することにこそ期待したい。

むろん、遠くないうちに行われる次の衆院選の結果で改憲派の議席が3分の2を割り込むようであれば、この問題の直近の重要性は減少する。だが、いずれにせよ中長期において我々の社会における生活者と憲法の距離の遠さや、それを支える政治教育のあり方の再考は避けては通れない。そうであるならば、量的には憲法改正発議の土壌が整ったいま、改めてこの問題を直視するよいタイミングであるといえるのではないか。

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