記事

ジョ女子考「ストーン・オーシャン」リアル

こんにちは、また書かせていただけることになりました。ワセジョ出身、元ナンチャッテ文化人の紫式子です。

本日は「オンラインではtoo deepな支持者を多く見かけるのにオフラインだと好きっていう人を滅多に見ないィ!」漫画、荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』について一筆啓上いたします。

それも「そもそも好きっていう人を滅多に見ないのに、さらに滅多に見ない女子ジョジョラー」の視点から。

私、ジョジョは女子にこそ読んでほしいのですよね。荒木先生は女性差別をしない方だから。

「女性差別をしない」というのはどういうことかと言うと、「偏見を以て女性を見ていない」「女性のありのままを見ている」ということです。卑下もしませんし神聖化もしません。「こういう風に私たちを見てくれている男性もいる」というのを知ることは、女子にとって多かれ少なかれプラスになると思うのですよね。

そういった意味で女子に一番読んでほしいのは、第6部『ストーン・オーシャン』です。第6部はジョジョシリーズの中で唯一、女性が主人公の物語で、登場人物も半数あまりを女性キャラクターが占めます。他の部では物語に大きく関わる女性キャラクターがそれぞれ1〜2人しか出てこないことを考えると、これはかなりイレギュラーな比率です。

とはいえ、これだけでは女子にオススメする理由にはなりません。

第6部は率直に言って、ジョジョラーの間でも評価が高くありません。「組曲ニコニコ動画」の替え歌「組曲 人間賛歌」での"びみょう"な扱いを見てもそのことが窺えるかと思いますし、実際にジョジョラー複数からも「第5部までは大好きだけど第6部は食指が動かない」なんて声が聞かれます。



ですが。この「評価の高くない原因」にこそ、私が女子に第6部を奨めたい理由があると言えます。

第6部の評価が高くない理由のひとつに、「緩急の悪さ」があります。ダラダラしているのです。

なぜダラダラするのか。

主人公たちが日常生活を送っているところに、敵キャラたちが訪れるからです。そういった形態を取ると、物語は必然的に日常生活を軸に描かれるようになります。(※1)

主人公たちの日常生活はスリリングではありますが、冒険ではありません。敵キャラがその輪郭を明らかにするまで、日常生活の描写がダラダラと展開されます。そして私に言わせれば、第6部における「ダラダラした日常」の描かれ方は白眉です。

物語の舞台は監獄です。

監獄ですので、基本的に男女別に生活をします。異性の視線が介在しない、女子・女性だけの環境(これを「女子校的環境」と呼びましょう)では、老若問わず同じことが起こります。他愛ないおしゃべり、陰湿な嫌がらせ、グループ間での牽制、そしてたまに、胸のすく復讐。第6部での日常生活の描写を白眉たらしめているのは、この「女子校的環境」のリアルさです。そのリアルさは恐らく、男性ファンが「引いて」しまうほどのもので、これもまた第6部の評価を下げている一因なのでしょう。

例えば主人公の空条徐倫(くうじょう・じょりーん)からして、留置所でマスターベーションしていたところを若い男性看守に見られたと騒ぐ恥じらいの無さ。隣の房の収容者で、のちに徐倫の相棒となるエルメェス・コステロは、それに爆笑しつつも徐倫に陰険な絡み方をする鼻ピアスの収容者を「ハナクソ」呼ばわりして罵倒します。これが連載第1回目に繰り広げられるんだからおののきます。

このエルメェスも大概で、よく水を吸収することの喩えに生理用ナプキンを持ち出したり、基本的に言葉遣いが男言葉だったりと、異性の視線が無い「女子校的環境」の住人らしさを大爆発させています。(※2)

監獄では、金銭の貸し借り禁止というルールがあるにもかかわらず、電話代として「ほんの1ドル」を他の囚人に貸してしまう徐倫。貸してしまった後で、「ほんの1ドル」も「回収」できなかった場合は他の囚人にナメられ、カツアゲのターゲットになることを知らされる……というエピソードがあるのですが、「ほんの1ドル」を徐倫にねだる、相手の囚人の作り笑いの、いささか愛想の良すぎる辺りがリアル。

「回収」に手こずる徐倫を可笑しそうに見る他の囚人たちの悪質な笑顔は、第1部に出てきたゾンビたちや第5部の死体の表現並みに生々しく、「そうそう、女子ってこういう顔するよ……」という表情ばかり。

(ちなみに徐倫が1ドルをどうやって「回収」したかについては、本編を読んでくださいネ☆)

もちろん徐倫と仲間たちの絆・友情は強く純粋ですが、強すぎて純粋すぎるがゆえのレズビアンぽさもまた、「女子校的環境」を再現しています。

元敵キャラのF・F(えふ・えふ)は、徐倫に命を救われ仲間になりますが、そのときの言葉
「あたしはあんたを守りたい」

や、かつてない厳しい戦いに臨んでのモノローグ
「徐倫のことを考えると勇気が湧いてくる」
などは、ド名言とはいえ下賎な見方をすれば"恋する男の告白"。徐倫に片想いをしている男性囚人ナルキソ・アナスイとF・Fが、何かにつけて張り合うことにも
「F・Fってもしかして……」
と、二次創作的な邪推をさせられてしまいます。

男性である荒木先生がこんなにも「異性がいないときの女子」のことを知っているのにはつくづく感嘆してしまいます。双子の妹さんがいらっしゃることや、娘さんが2人いらっしゃることが関係しているのかもしれませんが、いずれにしても荒木先生の観察眼の鋭さが窺い知れます。卑下もせず、神聖化もせず、偏見を以て女性を見ず、ただありのままを受け入れるその目線。

男性的視線に応え、身を飾り化粧をする私たち。
ですが女子校的環境に身を置いて一皮剥けば、血と内臓と喜怒哀楽の詰まった皮袋。

他の男性諸氏は騙せても、荒木先生はお見通しです。それでもその現実を優しく受け入れ、ユーモアたっぷりに描き出してくれました。
そういう男性も世の中にはいる。
ジョジョ第6部を読んでそのことを知り、安堵し、戦慄してみませんか。

リンク先を見るジョジョの奇妙な冒険 40~50巻(第6部)セット (集英社文庫―コミック版) (集英社文庫(コミック版))著者:荒木 飛呂彦販売元:集英社(2009-06-09)販売元:Amazon.co.jpクチコミを見る


【※1】

第4部『ダイヤモンドは砕けない』も似たような構成(主人公たちの町に敵キャラたちが潜んでいる)ですが、第4部には(4-a)〜(4-c)のような特長があった一方、第6部には(6-a)〜(6-c)のような冗長さ・歯痒さの要因がありました。
(4-a)主人公・東方仗助(ひがしかた・じょうすけ)に「スタンド」と呼ばれる戦闘能力が存在することが、連載第1回のかなり早い段階で示され、敵もすぐに現れた。
(4-b)人気キャラクターである第3部の主人公・空条承太郎(くうじょう・じょうたろう、徐倫の父親)が連載第1回で登場した。
(4-c)ラスボスキャラ・吉良吉影(きら・よしかげ)が完全な「悪」だった。
(6-a)徐倫に「スタンド」が存在することが示されたのが、連載第1回の終わりの方だった。徐倫が能力を自覚し使いこなすのはもっと後で、最初の戦闘シーンは連載2ヵ月後となった。
(6-b)承太郎が登場するのが連載開始3ヵ月後だった。
(6-c)ラスボスキャラ・プッチ神父の動機が彼なりの人類への思いやりだったため、完全悪とは言いがたかった。

【※2】

エルメェスは威勢の良さや迫力から、ネットユーザーに「エルメェス兄貴」と呼ばれることが多いキャラクターで
す。女子校はもちろん、共学の場合でも、こういう「男役」を引き受ける女子は存在します。エルメェスも、物語の後半で男性キャラとも行動を共にするようになりますが、相変わらずの男言葉でした。男性を異性として意識していないのか、自分を女性として意識していないのか、女性を異性として意識しているのか明確には示されませんが、姉の復讐のためにわざと投獄されたという辺りはシスター・コンプレックス的であり、レズビアン的な匂いを感じさせるキャラクターであるとは言えます。

(紫式子)

トピックス

ランキング

  1. 1

    英語試験批判にキーマンが大反論

    NEWSポストセブン

  2. 2

    野口健 グレタさんを非難し賛否

    女性自身

  3. 3

    立民議員「安倍首相は口だけ」

    大串博志

  4. 4

    廃業で行き場失う日本の高級木材

    田中淳夫

  5. 5

    西武・松坂の不可解な縁故採用

    幻冬舎plus

  6. 6

    哲学なき小泉大臣 成果残せるか

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  7. 7

    韓国の元徴用工「差別なかった」

    NEWSポストセブン

  8. 8

    米ポルノサイト訪問数 日本は2位

    鎌田 傳

  9. 9

    F35の組み立て継続へ 米が希望か

    清谷信一

  10. 10

    安倍・中曽根比較のコラムが秀逸

    海住恒幸

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。