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星野仙一という既得権

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(『奇刊クリルタイ増刊 「dorj(ドルジ)Vol.2」All About Sports』に寄稿した『「星野本」研究」〜「プロ野球監督・星野仙一」とは何者なのか?〜』を改題・改稿の上掲載)

■はじめに



「燃える男」星野仙一。現役選手として146勝121敗34セーブ、監督としても920勝(歴代13位)、リーグ制覇3回という立派な成績を挙げ、2011年シーズンからは東北楽天ゴールデンイーグルスの監督として手腕をふるっている。だが、それよりも特筆すべきはその膨大な数の「星野仙一研究本」である。星野は87年の中日(第一期)監督就任時から数十冊の星野仙一関連本が出版されている。だが、野村克也や長嶋茂雄はともかくとして、仰木彬や上田利治といった監督は通算勝利も、リーグ優勝数も星野よりも多く、かつ、両者とも星野にはできなかった日本一を達成しているにも関わらず、「研究本」の数では星野にははるかに及ばない。こうした落差はなぜ生まれるのであろうか。星野の「マネジメント論」の中身となぜ星野仙一が日本社会で必要とされているのかを明らかにするのが本稿の目的である。

■「マネジメント能力」の正体



ここではまず「星野仙一研究本(星野本)」の中身について考えていきたい。星野は通算4度、北京オリンピック日本代表監督(2008年)も含めて5度監督になっている。監督歴は1987年から現在に至るまで、断続的に「星野本」が書かれているが、その多くには星野の次の部分を取り上げている。

1:数々の大トレード・粛清を断行した決断力・・・中日時代(第一期)の落合博満獲得時の5対1のトレードや、阪神時代、2002年オフに24人(全選手の3分の1)を解雇した。

2:球界全体に及ぶ人脈力・・・出身球団である中日内部だけではなくON=王、長嶋を始め川上哲治や根本陸夫、果てはあのナベツネ(渡邉恒雄 読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆。読売巨人軍会長)に至るまでプロ・アマ問わず広範囲に人脈を築いた

3:後援会をバックにした集金力・・・星野の人脈は野球界だけにとどまらず、政財界にも及ぶ。そうした政財界関係者を後援会に組織、潤沢な資金をもって中日時代(第一期)には報奨制度で選手を鼓舞した

4:恨まれるはずの人間からも慕われる人間力・・・中日時代(第一期)には落合の交換要員としてロッテにトレードした牛島和彦にも気配りを忘れず、結果として本来恨まれるはずだが、現在に至るまで関係は良好である

こうしてみてみると星野は野球監督の采配それ自体よりもマネージャー・GMとしての能力を評価されている。事実、「星野本」では第一期中日監督時代に落合を獲得した5対1の世紀の大トレードや、阪神監督時代の24人大粛清は必ず取り上げられるが、「星野本」における星野の「采配」それ自体に関してはは驚くほど印象が薄い。これは星野の野球理論自体は極めてオーソドックスなものであるのと同時に「監督としての日常の実務はほぼすべてといっていいほど」長年の盟友でありヘッドコーチであった故・島野育夫に任せていたためだろう(星野仙一『シンプル・リーダー論』2005年 文藝春秋より)。ただし、こうした「采配をヘッドコーチに任せていた」ことをもって星野には監督としての資質がない、というつもりはない。だが、 一方で疑問に思うのはこうした、星野のマネージャーとしての能力の源泉である。

「マネージャー・星野仙一」の原点は、一つは自身の幅広い交友関係から様々な形で監督としての管理術を学んでいった事があげられる。星野自身の手による『改訂版 星野流』(世界文化社 2011年)ではその過程を以下のように描写している。
監督になる前、NHKの解説者でいた時に、将来はいずれ監督をやるつもりでいたのでNHK仲間である川上(哲治)さんや藤田(元司)さん、広瀬淑功(元南海ホークス内野手)さんといった大先輩からいろいろ勉強するチャンスがあった。
とりわけ、当時NHK野球解説の大物にしてV9時代に「悪の管理学」を完成した川上からは大いに学んだとのことである。

もう一つは明治大学時代、御大こと島岡吉郎に鍛えられた事が大きい。島岡とのエピソードはNHK人間講座(2004年8〜9月分)『人を動かす 組織を動かす』に詳しいが、ふがいないピッチングをした星野と島岡は「グラウンドの神様に謝る」と称して雨の降る深夜の練習場のグラウンドでパンツ一丁土下座で謝ったという。

このエピソードに象徴されるように、島岡はいわゆる精神論者である。

玉木正之にその点を聞かれた星野は以下のように答えている。
玉木 しかし島岡監督は、典型的な精神野球論者で、野球の理論は全く知らないという声がありますよね。だから星野監督も選手を殴るんだという人もいますが・・・。

星野 それは、島岡さんを知らない人のいう言葉だよ。そりゃ、あの人はバットの出し方とか投球フォームのような、技術論には詳しくない。(中略)野球に賭ける情熱とか、また、野球を通して人の心を掴むこととか、もう、じつに様々な事を学んだ。

『監督論』玉木正之 1988年 NESCO
つまり、星野はここで島岡流の精神論が自分の管理手法の源流にある事を認めている。問題は「星野本」のストーリーラインとして1〜4の「力」は星野の「人間力」によって培われたという事になっていることだ。

■素晴らしき哉、人間力



前段で「星野本」のストーリーラインとは「星野のマネジメント論の根底にあるのは実は恩師から受けた教育であり、結果培われた「人間力」によるものである」と述べた。つまり、星野の優れた「人間力」によって、敵であるはずの人間ですら味方につけ、味方を後援会に組織し、豊富な資金をバックに選手を獲得する。これらは全て星野の「人間力」あってのことだ、

「星野本」のストーリーラインを要約するとこうした結論になる。

例えば前段に挙げた川上哲治。川上は巨人のリーグ戦9連覇(V9)を達成した監督だが、その川上をして星野に「全面協力」を申し出させている。中日ドラゴンズという球団は親会社同士が同業種ということもあり、巨人をことさらライバル視している。中日ファンの中には巨人が最下位であれば中日は5位で良いという人間すらいるのだ。そうした環境に身を置きながら、ライバル球団のドンとも呼べる人物に師事する。星野の「人間力」を象徴するエピソードである。

もう一つ。阪神監督だった星野は2002年オフに大補強として金本知憲、伊良部秀輝らを獲得。これが結果として阪神の優勝につながるが、金本獲得について星野は前掲『シンプル・リーダー論』にて次のように語っている。
たとえハダカになってぶつかっていくにしても、カネで釣らない、その場限りの巧いことはいわない。心意気を第一義に、お互い両天秤にかけて腹を探り合うようなことはしないという掟は同じだ。

どんな交渉ごとでも取引でも大事なのはかけ引きではない。誠実さとか、信頼感とか、いうなれば「信義」だ。(中略)だから、わたしが出ていくともう「一緒にやらんか。一緒になってチームを強くしていってくれんか」というだけのことだ。
つまり、星野は選手獲得であっても条件ではなく自分の「人間力」、ここでいうところの「誠実な人柄」によって成功するものだ、としているのだ。

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