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【大予測:国際政治】「post-truth」の次に来るもの

渡辺敦子(研究者)

先月、オックスフォード大学出版局が発表した今年注目された英単語は「post-truth」であった。同出版局によると、特にBrexit騒動とトランプ新大統領誕生の文脈で、post-truth politicsとして使用され、その意味は、「特定のコンセプトについて意味がなくなる、あるいは重要でなくなること」である。つまり、「真実よりも嘘が信じられる」ということではなく、真実そのものの揺らぎに力点がある、と言って良い。

例えばエコノミスト誌はTwitterに「オバマがISISを設立し、ジョージ・ブッシュが9/11の黒幕だった」という見出しを掲げた。その心は?オバマ人気はISISのテロが激化するに従い高まり、1期目で既に死に体だったブッシュが2期目に当選したのは、9/11が追い風であったから。

あり得ない話なのに、ひょっとしたらそうかもね、と思ってしまう余地がある。それがpost-truthのキモである。政治に嘘や陰謀説がつきまとうのは、今始まったことではない。同誌に従えばpost-truth politics が新しいのは、嘘の氾濫というより、「真実は二の次である」ということを明らかにしたからだ。

Brexitでは、離脱派は英国が1週間で3億5000万ポンドの負担をしていると主張した。それは根拠のないものだったにもかかわらず、離脱派が勝利した。「Believe me」が口癖のトランプ新大統領だが、PolitiFact(注1)によれば、トランプ氏の発言のうち「真実」「ほぼ真実」「半分真実」は、合わせて30%に過ぎない。いずれの場合も、人々は、目前で起きている不可解なできごとを、自信たっぷりに説明してくれる言葉を信じたかったのだろう。だからこそ、人々は結果が出てから後悔したのだ。

ことをややこしくしているのが、情報そのものの氾濫と、さまざまな思惑だ。米大統領選では、ロシアがトランプ氏に有利に働くようにサイバー攻撃を仕掛けたとされる。これに加えてネット上にはいんちきニュースサイトが多数存在し、多くはトランプに対し有利な偽ニュースを流した。ワシントンポスト紙によれば、ポール・ホーナー(38)という偽ニュースライターは、彼の嘘がFox NewsやGoogle newsに事実として取り上げられたこともあり、月に1万ドル稼ぐという。選挙期間中にGoogleでも取り上げられた偽ニュースは、アーミッシュ(伝統的な生活を守るキリスト教の一派)がトランプ支持に回るという、ちょっと考えれば事実とは受け止められないようなニュースだった。

ニュースサイトBuzzFeedによると、マケドニアの若者グループは、偽ニュースサイトを多数立ち上げ、トランプに有利な情報を流した。さらにこれらのニュースの特徴は、(いんちきの)統計を多用して、「真実」らしく化粧を施していることだという。

これらの人々は、トランプ支持者ではない。目的は政治ではなく、お金だ。トランプ側に有利なニュースを流したのは、そのほうがfacebookなどのソーシャルメディアに取り上げられやすいからだ。

これはおそらく、トランプ支持者はヒラリー支持者に比べ現実に不満を持ち、「真実」を探し求め、情報をより多く集めようとする人々だからだろう。だが彼らは既存の勢力(メディアであれ、政治家であれ)による説明を信じないため、結果的に「嘘」に惹かれかねない。またPost-truth politicsは、感情の政治でもある。あるいは直感、と言い換えたほうが正しかろう。直感は経験から導かれるものだから本来、案外外れがないはずだが、情報の洪水の中では直感も鈍る。バーチャルと現実が錯綜するインターネット空間ではなおさらだ。情報に疲れた直感は「ひょっとしたら」を信じ、「いいね!」の数を頼りにするようになる。

ならばpost-truthの示す“真の”皮肉は、「真実は二の次」というより、真実(truth)を知ろうとすればするほど、事実(fact)から遠のきかねない、という現実だ。「真実後」の後となる2017年、世界政治はどんな「真実」をあきらかにするのだろうか。

(注1)PolitiFact
事実確認(ファクトチェック)を行う米メディア。政治家の発言の信憑性を監視している。2009年にピューリッツアー賞受賞。

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