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- 2016年12月24日 22:38
2016.12.24 山陰中央新報 〜 核燃料サイクルの行方
日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の廃炉が決まった。プルトニウムとウランを燃料に、発電しながら燃やした以上の燃料を生み出すとして、資源が乏しい日本で「夢の原子炉」と期待されたが、1995年のナトリウム漏れ事故以降、安全上のトラブルが続出した。もんじゅを柱に据えてきた国の核燃料サイクル政策は今後どうすべきか。推進派のNPO法人社会保障経済研究所の石川和男代表理事と、慎重派の九州大大学院の吉岡斉教授に聞いた。
核燃料サイクル 原発の使用済み燃料を再処理し、抽出したプルトニウムをウランとの混合酸化物(MOX)燃料にして再利用するエネルギー政策。将来は燃やした以上のプルトニウムを生成する高速増殖炉を本格導入する予定だったが、頓挫した。もう一つの中核となる日本原燃の再処理工場は2018年度の完成を目指しているが、トラブルが相次ぎ、さらなる延長も検討されている。
NPO法人社会保障経済研究所代表理事/石川和男氏/安全保障上必要な政策
-高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が決まった。要因は何か。
「1995年に発生したナトリウム漏れ事故が針小棒大に伝えられたのが大きい。壁を焦がしたり煙が出たりしたが、すぐにクールダウンし、放射能漏れはなかった。その事実をしっかり伝えていれば、その後の展開は違った」
-高速増殖炉は技術的に成り立っているのか。
「事故を的確に処理して運転を続けていれば、今頃は高速増殖炉の是非の結論が出ているはず。それがないまま廃炉を決めるのは、おかしな話だ。昨年、もんじゅを訪ねた際、所長は(推進に向け)自信に満ちあふれていた。もんじゅは国家プロジェクト。20年間も寝かせておいた責任は、政治と行政にある」
-政府は、もんじゅなしでも核燃料サイクルを維持する方針で、より実用化に近い実証炉を国内に建設する開発方針の骨子を公表した。なぜ、そこまで高速炉開発にこだわるのか。
「日本はエネルギー資源が乏しく、エネルギーの安全保障の面で考えると、高速炉が必要という発想が出てくるのは当然だ。ロシアやフランス、中国、インドでも取り組んでおり、その技術を持ってないのは安全保障上、不利になる。国が責任を持ってきちんと道筋を示せば、あとは現場が行う。長期的に見れば実証炉は実現するだろう」
-現段階で核燃料サイクルを維持するには、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを一般の原発で燃やすプルサーマルに頼るしかない。中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)での導入も想定されるが、問題はないのか。
「東京電力福島第1原発事故を受け、原子力規制委員会が新規制基準を公布する以前から行われていたし、現在も四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)で実施されており、問題はない」
-核燃料サイクルのもう一つの柱である、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理工場(青森県六ケ所村)も稼働延期が続いている。青森県は、核燃料サイクルが中止されれば、再処理工場に保管中の使用済み核燃料を全国の原発に送り返す意向を示している。
「正論だ。だからこそ、核燃料サイクルは維持しなければならない。原子力事業は100年かかることは分かっているのに、ここで方針を変える必要はない。確かに福島第1原発事故は不幸な出来事だったが、津波による停止中の原子炉の全電源喪失が原因。まず必要な対策は多重防護と防潮堤で、再処理には何の関係もない」
-核燃料サイクルが維持されなければ、核兵器に転用可能なプルトニウムがたまり続け、日本が核保有国になるのではないかという国際社会の懸念が高まる可能性がある。
「日米原子力協定でプルトニウムの保有が認められているのは、日本が非核武装国の象徴とされているからだ。ただ、米国でも懸念の声があるのは確か。日本は、エネルギー資源確保のため、安全保障のために核燃料サイクルを維持していることを、もっとアピールすべきだ。それが国際的な安全や信頼感につながる。また、原発を動かして核燃料サイクルを回すことは、原子力関係の人材を育成する意味でも大切だ」
九州大大学院教授/吉岡斉氏/コスト上昇維持は困難/
-もんじゅの廃炉が決定した。
「高速増殖炉は非常に難しい技術だ。核燃料の熱を取り出す冷却材に使うナトリウムは腐食性が高く、漏れると発火する。この問題点に対応するため、コストがかかり、競争力のない技術になってしまった。1980~90年代に米国や欧州諸国が開発から撤退した経緯がある」
-日本はなぜ撤退しなかったのか。
「高速増殖炉は(原発の燃料となる)ウラン資源が不足するという前提で取り組みが始まった。だが、その後、ウラン資源が逼迫(ひっぱく)していないことや、石油や石炭などの化石燃料も豊富にあることが分かった。本来なら、こうした社会的、技術的条件を考慮して政策の進め方を決めるべきだが、高速増殖炉については、始めたからには進めるという選択肢しかなかったのだろう」
-政府はもんじゅの後継として「高速実証炉」を開発する方針を示している。
「高速増殖炉は、実験炉▽原型炉▽実証炉-という段階を踏んで開発が進められる。原型炉のもんじゅが失敗したのに、実証炉をつくるというのは、とても理解できない。実証炉をつくると言っても、場所や設計も決まっていない。フランスの高速炉技術実証炉『ASTRID(アストリッド)』で共同研究するという方法はあるが、これも設計段階にすぎない」
-政府は当面、プルサーマルを柱に据え、核燃料サイクルを維持しようとしている。島根原発2号機での導入も想定されるが、安全性はどうか。 「一般の原発に比べ、出力の制御がしにくくなるという特性がある。ただ、安全性に大差はないと考えている。その差は、世界最新の設計と古い原発を比べた際より、小さいかもしれない」
-プルサーマルは既に九州電力玄海原発3号機(佐賀県玄海町)などで運転実績があり、現在も伊方原発3号機で行われている。ただ、プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を燃やした後に出る使用済みMOX燃料が発生するが、処理方法が定まっていない。
「福島第1原発事故の発生前、燃焼度の高い使用済みMOX燃料も再処理できる第2再処理工場を建設する計画があったが、事故で実現は非常に厳しくなった。既に生み出された使用済みMOX燃料は、現場の原発で保管するしかないだろう」
-これまでの話を聞くと、核燃料サイクルの維持は非常に難しい気がする。
「核燃料サイクルを続けようとすれば、原子力発電にかかるコストが大幅に上昇するだけでなく、処分が困難なプルトニウムを大量に生みだすことになる。続ける理由はない。廃止すべきだ」
-プルトニウムがたまり続けると、日本が核保有国になるのではないかという国際世論が広がる可能性もある。
「トランプ次期米大統領がどういう対応をとるかが鍵だ。(大統領選後に否認をしたが)トランプ氏は日本の核保有を容認する発言をした経緯がある。もし、本当に核保有に寛容な政策をとれば、プルトニウムに対し、そこまで厳しくならないことも考えられるが、核軍縮の観点から再処理は即刻やめるべきだろう」
核燃料サイクル 原発の使用済み燃料を再処理し、抽出したプルトニウムをウランとの混合酸化物(MOX)燃料にして再利用するエネルギー政策。将来は燃やした以上のプルトニウムを生成する高速増殖炉を本格導入する予定だったが、頓挫した。もう一つの中核となる日本原燃の再処理工場は2018年度の完成を目指しているが、トラブルが相次ぎ、さらなる延長も検討されている。
NPO法人社会保障経済研究所代表理事/石川和男氏/安全保障上必要な政策
-高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が決まった。要因は何か。
「1995年に発生したナトリウム漏れ事故が針小棒大に伝えられたのが大きい。壁を焦がしたり煙が出たりしたが、すぐにクールダウンし、放射能漏れはなかった。その事実をしっかり伝えていれば、その後の展開は違った」
-高速増殖炉は技術的に成り立っているのか。
「事故を的確に処理して運転を続けていれば、今頃は高速増殖炉の是非の結論が出ているはず。それがないまま廃炉を決めるのは、おかしな話だ。昨年、もんじゅを訪ねた際、所長は(推進に向け)自信に満ちあふれていた。もんじゅは国家プロジェクト。20年間も寝かせておいた責任は、政治と行政にある」
-政府は、もんじゅなしでも核燃料サイクルを維持する方針で、より実用化に近い実証炉を国内に建設する開発方針の骨子を公表した。なぜ、そこまで高速炉開発にこだわるのか。
「日本はエネルギー資源が乏しく、エネルギーの安全保障の面で考えると、高速炉が必要という発想が出てくるのは当然だ。ロシアやフランス、中国、インドでも取り組んでおり、その技術を持ってないのは安全保障上、不利になる。国が責任を持ってきちんと道筋を示せば、あとは現場が行う。長期的に見れば実証炉は実現するだろう」
-現段階で核燃料サイクルを維持するには、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを一般の原発で燃やすプルサーマルに頼るしかない。中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)での導入も想定されるが、問題はないのか。
「東京電力福島第1原発事故を受け、原子力規制委員会が新規制基準を公布する以前から行われていたし、現在も四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)で実施されており、問題はない」
-核燃料サイクルのもう一つの柱である、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理工場(青森県六ケ所村)も稼働延期が続いている。青森県は、核燃料サイクルが中止されれば、再処理工場に保管中の使用済み核燃料を全国の原発に送り返す意向を示している。
「正論だ。だからこそ、核燃料サイクルは維持しなければならない。原子力事業は100年かかることは分かっているのに、ここで方針を変える必要はない。確かに福島第1原発事故は不幸な出来事だったが、津波による停止中の原子炉の全電源喪失が原因。まず必要な対策は多重防護と防潮堤で、再処理には何の関係もない」
-核燃料サイクルが維持されなければ、核兵器に転用可能なプルトニウムがたまり続け、日本が核保有国になるのではないかという国際社会の懸念が高まる可能性がある。
「日米原子力協定でプルトニウムの保有が認められているのは、日本が非核武装国の象徴とされているからだ。ただ、米国でも懸念の声があるのは確か。日本は、エネルギー資源確保のため、安全保障のために核燃料サイクルを維持していることを、もっとアピールすべきだ。それが国際的な安全や信頼感につながる。また、原発を動かして核燃料サイクルを回すことは、原子力関係の人材を育成する意味でも大切だ」
九州大大学院教授/吉岡斉氏/コスト上昇維持は困難/
-もんじゅの廃炉が決定した。
「高速増殖炉は非常に難しい技術だ。核燃料の熱を取り出す冷却材に使うナトリウムは腐食性が高く、漏れると発火する。この問題点に対応するため、コストがかかり、競争力のない技術になってしまった。1980~90年代に米国や欧州諸国が開発から撤退した経緯がある」
-日本はなぜ撤退しなかったのか。
「高速増殖炉は(原発の燃料となる)ウラン資源が不足するという前提で取り組みが始まった。だが、その後、ウラン資源が逼迫(ひっぱく)していないことや、石油や石炭などの化石燃料も豊富にあることが分かった。本来なら、こうした社会的、技術的条件を考慮して政策の進め方を決めるべきだが、高速増殖炉については、始めたからには進めるという選択肢しかなかったのだろう」
-政府はもんじゅの後継として「高速実証炉」を開発する方針を示している。
「高速増殖炉は、実験炉▽原型炉▽実証炉-という段階を踏んで開発が進められる。原型炉のもんじゅが失敗したのに、実証炉をつくるというのは、とても理解できない。実証炉をつくると言っても、場所や設計も決まっていない。フランスの高速炉技術実証炉『ASTRID(アストリッド)』で共同研究するという方法はあるが、これも設計段階にすぎない」
-政府は当面、プルサーマルを柱に据え、核燃料サイクルを維持しようとしている。島根原発2号機での導入も想定されるが、安全性はどうか。 「一般の原発に比べ、出力の制御がしにくくなるという特性がある。ただ、安全性に大差はないと考えている。その差は、世界最新の設計と古い原発を比べた際より、小さいかもしれない」
-プルサーマルは既に九州電力玄海原発3号機(佐賀県玄海町)などで運転実績があり、現在も伊方原発3号機で行われている。ただ、プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を燃やした後に出る使用済みMOX燃料が発生するが、処理方法が定まっていない。
「福島第1原発事故の発生前、燃焼度の高い使用済みMOX燃料も再処理できる第2再処理工場を建設する計画があったが、事故で実現は非常に厳しくなった。既に生み出された使用済みMOX燃料は、現場の原発で保管するしかないだろう」
-これまでの話を聞くと、核燃料サイクルの維持は非常に難しい気がする。
「核燃料サイクルを続けようとすれば、原子力発電にかかるコストが大幅に上昇するだけでなく、処分が困難なプルトニウムを大量に生みだすことになる。続ける理由はない。廃止すべきだ」
-プルトニウムがたまり続けると、日本が核保有国になるのではないかという国際世論が広がる可能性もある。
「トランプ次期米大統領がどういう対応をとるかが鍵だ。(大統領選後に否認をしたが)トランプ氏は日本の核保有を容認する発言をした経緯がある。もし、本当に核保有に寛容な政策をとれば、プルトニウムに対し、そこまで厳しくならないことも考えられるが、核軍縮の観点から再処理は即刻やめるべきだろう」



