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日露など

 石破 茂 です。
 今年も余すところあと三日となりました。今年は予算編成や税制改正などの作業が早く終わったため、永田町は例年にもまして静かな年末となっています。以前は御用納めの直前まで、復活折衝だなんだとお祭り的に賑やかであったものですが、隔世の感があります。
 
 先日の日露首脳会談についてはその後あまりフォローされていないようですが、何故一時期あれほど期待値が上がってしまったのでしょうか。朝日新聞がプーチン大統領の「引き分け」「はじめ」発言を報じたことが端緒でもないでしょうし(同大統領の会見録を全部読むと、領土について甘いことは一言も言っていないようです)、一時期低迷していた大統領支持率が急回復したのはクリミアを併合し「強いロシア」を国民に見せつけたからであって、2018年に大統領選を控えた同大統領が領土で譲歩するなどとは普通は考えられないことです。
 会談が近くなった時点で報道も期待値を下げるものが多くなったようにも感じられましたが、見ていて違和感を覚えたのは私だけではなかったと思います。
 もう一点、1945年8月9日、旧ソビエト連邦が日ソ中立条約に反して対日参戦して多くの日本国民を殺害し、領土を不法占拠したという事実が少なくとも報道で知る限りあまり取り上げられていないように感じられるのはどういうことなのでしょう。報道されていないだけで、我が国の立場は微動だにしていないはずですが、今後の未来を語る場で取り上げるべきではないとの配慮もあったのでしょうか。
 「一平方マイルの領土を奪われて膺懲(ようちょう。征伐してこらすこと。広辞苑第6版)しない国民は、明日はその倍の土地を奪われ、やがて国家を失うことになる。こんな国民はそのような運命にしか値しない」とはイエリングの「権利のための闘争」の中にある言葉ですが、「膺懲」という言葉はともかくとして、我々はこの精神を胸に刻んで領土問題に当たってきたはずです。
 
 日露間で防衛・外務担当閣僚が話し合う2プラス2も、同盟国であるアメリカや、アンザス条約により間接的に協力関係にあるオーストラリアとは全く異なるロシアと、どのようなテーマで何を目指すのかが重要です。
 ロシアの軍事的意図については「正論」2月号に潮匡人氏が論じている通りと思われます。かつて防衛庁長官在任時の2003年、2月に私が訪露し、直後の5月にロシアのセルゲイ・イワノフ国防相が訪日するという大変異例の往来がありました(出身や経歴がプーチン大統領とそっくりで「プーチンよりプーチンらしい」と呼ばれ、その後長く大統領府長官を務めたイワノフ氏は、大統領候補にもその名がしばしば挙がっていましたが、この夏、職を解かれたことが様々な憶測を呼んでいます)。会談自体は内容の濃い有意義なものでしたが、ロシアの底知れぬ恐ろしさを痛感したことをよく覚えています。
 
 安倍総理のハワイ・アリゾナ記念館でのスピーチは、戦後に区切りをつけるとともに、日米の同盟関係を更に強化する狙いがあったものと思われ、英訳されることを念頭においてよく推敲された文章であったと思います。
 区切りをつけることは素晴らしいことですが、それとともに現代を生きる我々は、日本にとっての真珠湾攻撃とは何であったのか、山本五十六連合艦隊司令長官は何故投機的とも思われる真珠湾攻撃を計画・実行したのかをよく学び、今後の戒めや糧とすることが極めて重要です。
 武官として米国にも在勤し、圧倒的な日米の国力の差を誰よりも認識していた山本長官は、早期講和に持ち込むためにはこれ以外に手段はないと考えたのであり、米空母を撃ち漏らしたことに強い危機感を抱いて再びリスクの高いミッドウェー作戦を決行し、これに惨敗した日本はその後敗戦への道を辿ることになります。
 国民が真珠湾攻撃の勝利に酔い熱狂していた時、山本長官は広島湾桂島泊地に帰ってきた南雲忠一第一航空艦隊司令長官をはじめとする艦隊幹部を前に「諸士は凱旋したのではない。次の戦に備えるため一時帰投したのである。一層の戒心を望む」と訓示し、後日親しい桑原虎雄少将に「今が戦争のやめどきだ。それには今まで手に入れたものを捨てねばならない」「しかし中央にはとてもそれだけのハラはない。我々は結局斬り死にするほかはなかろう」と語ったと伝えられます(「大和と武蔵」吉田敏雄著 PHP刊)。
 政治が軍事をよく理解することによってのみ機能する文民統制が全く働かなかったことと、統帥権独立の名の下に軍政と軍令が峻別されていなかったことが、日本敗北の決定的な原因であったと私は考えています。来年は我が国を取り巻く環境が激変することも予想されるなか、過去に学ぶことの重要性を改めて痛感しています。

 年末年始は、宿舎の片付けやテレビ出演・講演の準備に充てたいと思っております。
 30日金曜日は「たけしの誰も知らない伝説」出演(午後9時・テレビ東京系列・収録)。
 31日大晦日は、「大みそか列島縦断LIVE 景気満開テレビ2016」出演(午前6時 フジテレビ系列)、担当記者との懇談会(午後9時・鳥取市内)。
 元旦はどんどろけの会 年始お茶配り(午前零時・後援会鳥取事務所前)、実践倫理宏正会元朝式(午前5時・鳥取卸センター)、宇部神社新年参拝(午前8時・鳥取市国府町)、自民党国府支部新年祝賀会(午前8時半・宇部神社)、という日程となっています。

 今年はこれで最後の更新となります。1年間、誠に有り難うございました。
 皆様、どうかよい年をお迎えくださいませ。

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