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読売新聞「論点スペシャル」~福井秀夫氏の主張について

 2016.12.23の読売新聞論点スペシャルでは、司法修習生の給費復活の是非についての記事だった。マスコミは自分の意向に沿って取材内容を編集することがあるので、本当に福井教授が新聞に掲載された内容を話したかどうかは不明であるが、掲載前に内容の確認くらいはするだろうから、福井教授の御主張が記載されたものという前提で、若干批判しておきたい。


 福井秀夫氏は、司法修習生給費復活に反対の立場だ。


 その理屈は、「給費を復活させれば予算の関係で給費を支給するべき司法試験合格者をどんどん増やすことは出来なくなる。それは法曹人口を増加させようとした司法制度改革に反する」というもののようだ。

 相変わらず、法曹人口増加による競争で迅速且つ確実な司法サービスの提供等が可能となるかのような主張を繰り返している。また、20年ほど前に主張された司法過疎をいまだに振り回し、それに加えて弁護士コストが高いとも主張する。


 規制緩和して競争させれば良いサービスが残るという思考で、福井氏は凝り固まってしまい、現実を見ることができなくなっているように、私には見える。
 現実に日本は、規制緩和の方向に舵を切ったが、結局、貧富の差を拡大させ多くの中間層の国民を貧困に追いやっただけではないかとも思われる。痛みに耐えて構造改革に着手したけれど、成長の果実はごく一部の者に独占され、多くの国民は痛みだけ強いられ生活はさらに困窮する方向に流れているようにすら見えるのだ。


 それはさておき、そもそも司法制度改革は、今後の法的需要が飛躍的に拡大するとの見込みから始まっていたはずだ。

「今後の社会・経済の進展に伴い、法曹に対する需要は、量的に増大するとともに、質的にも一層多様化・高度化していくことが予想される。現在の我が国の法曹を見ると、いずれの面においても、社会の法的需要に十分対応できているとは言い難い状況にあり、前記の種々の制度改革を実りある形で実現する上でも、その直接の担い手となる法曹の質・量を大幅に拡充することは不可欠である。」(司法制度改革審議会意見書H13.6.12より)


 そして司法制度改革の結果、弁護士人口は、平成13年の18243名から平成28年には37680名へと、僅か15年で2倍以上に増加した。

 その一方、法的需要はどうなったか
 民事・行政・刑事・家事・少年事件を併せて、全裁判所が1年間に受理した事件の総数は、平成15年の3,520,500件をピークに平成25年には1,524,029件となっている(裁判所データブック2014より)。
 わずか10年で裁判所に持ち込まれる事件数は約57%減少している(平たく言えば半分以下になっている)のだ。
 ちなみに、平成25年と同じくらいの受理事件総数を見てみると、昭和55年に1,469,848件だったことが分かる。乱暴に言えば、一年間で、35年ほど前と同じくらいの数の事件しか、裁判所には持ち込まれていないことになる。
 裁判所の事件受理数が全ての法的需要であるとはいえないが、法的需要を推し量る重要な物差しとなることには、異論はないと思う。


 この統計からも明らかなように、司法制度改革審議会は、法的需要に関して、数年先は予測できたものの、その後の長期的見通しを完全に誤っていたと言わざるを得ない。
 その誤った見通しに立脚して構築されたのが司法制度改革なのである。
 法的需要の予測に対応するために始めた司法制度改革であるならば、予測が誤っている以上、当然その改革も誤りとならざるを得ない。
 したがって、司法制度改革それ自体が、少なくとも法的需要に対応する法曹人口増大という面に関しては、結果的には誤りであり、現実に合わせて変更されるべきものであると言っても過言ではないだろう。


 だからこそ、政府も司法試験3,000人合格という目標を撤回したのだ。その背景には当然法的需要が伸びていないことがあるはずだ。


 前述したとおり司法制度改革審議会の意見書も、今後の法的需要の増大・複雑化が見込まれるから法曹人口が不足なのだと主張していたはずだ。あくまで、法的需要が増えるから(増えるはずだから)法曹人口の増加が必要なのであって、法的需要を無視して、法曹人口の増加が目的があったわけではない。少なくとも私の記憶では、司法制度改革審議会意見書に、弁護士を増員させ競争させることによってサービスの向上が図られるから、そのために増員するという意見はなかったように思う。

 しかし、今回の記事で福井氏は、司法制度改革の理念として法曹人口の増加に極めて重点を置いた主張をされているようであり、法曹人口の増加という手段を、目的とすり替えて述べているように読める。

 
 そればかりではない。


 司法過疎に関しては、既に弁護士ゼロワン地域は解消されているから事実誤認の主張だろう。医師会だって、医療過疎地への医師の派遣は経済的な裏付けが必要と述べているし、それと同じく弁護士だって個人事業者だから、生計が成り立たない場所では開業できない。離島に福井教授の授業を受けたいと切望する生徒がいても、そのために福井氏の勤める政策研究大学院大学が離島に大学を建設してくれないのと同じである。少なくとも日弁連は、大学と違って、会員から会費を集めて司法過疎対策に相当の支出をしてきている。
 弁護士コストの問題を見ても、人口それ自体にしても人口比にしても弁護士人口が日本より圧倒的に多いアメリカで、競争によって弁護士コストが激安になっているとの報告はないはずだ。むしろ、アメリカの法律事務所のリーガルフィーは日本の法律事務所のそれより遥かに高いということはグローバル企業の法務部の方にとっては常識であろう。


 さらに福井氏は、法曹人口が増加し一部弁護士の質が低下したとしても、それぞれの適性や「品質」を依頼者が吟味し、納得した上で依頼するなら問題は無いと主張する。
 確かに理屈の上ではそうかもしれないが、それは現実を無視した、完全な机上の空論に過ぎない。
 蕎麦屋の蕎麦の味ならともかく、弁護士の仕事の質が分かる人間がどれだけいるのだろうか。新人弁護士だって、書面の良し悪しなどすぐには分からない。
 これは私の感覚だが、準備書面で民訴規則を殆ど無視し、法的主張とは言い難く訴訟上殆ど意味がないと思われる、揚げ足取りに終始するような散文的な書面を出してくる困った弁護士も増えてきているが、相手方の依頼者がその書面はおかしいと相手方弁護士に文句をつけているようには見えない。依頼者が書面の良し悪しについて理解できないからだと思われる。
 上記の例は論外としても、逆に一見筋の悪い書面に見えても、依頼者がどうしても主張して欲しいと突っぱれば、弁護士としては主張しなくてはならない場合もある。書面だけで分かる実力不足もあるが、書面だけでは分からない事情も当然あるのだ。
 同じ弁護士であっても、実際に訴訟で戦ってみないとなかなか弁護士の実力・質は分からない場合が多いのだ。

 だから法律知識もなく一生に1度か2度しか弁護士に相談しないような一般の依頼者が、弁護士に依頼する前に、その弁護士の適性や品質を吟味することなどできるはずがないのである。
 これは、同じ世界に身を置く者として断言してもいい。
 むしろ、弁護士に依頼する前にその弁護士の適性や品質が吟味でき、依頼すべきかどうか適切な判断が出来る、と断言する者がいるならば、それは占い師か予言者くらいだろう。


 そもそも福井氏自体、2008.12.11の週間東洋経済の記事では、
『政府の規制改革会議の福井秀夫・政策研究大学院大学教授は「ボンクラでも増やせばいい」と言う。「(弁護士の仕事の)9割9分は定型業務。サービスという点では大根、ニンジンと同じ。3000人ではなく、1万2000人に増やせばいい」。』
と主張していたようだ。

 弁護士業務が9割9分定型業務と述べたというのが事実であればそれだけで、福井氏が弁護士業務に関しては、全く分かっていないド素人であり、単純に思い込みだけで主張していたことが明白だ。
 ある離婚事件で使った書面が、そのまま別の人の離婚事件で使えるわけがないではないか。事件一つ一つが異なる事情の下で発生しており、当然主張する論点やその重点の置き方は、変わってくる。債務整理事件など一部特殊な事件を除けば、弁護士の仕事は全てがオーダーメイドなのである。
 そんなことも知らない方が、弁護士業務はこんなもの等と、わけしり顔で主張して頂きたくはない。


以前も私はブログで、何度か福井教授の御主張には反論を書いている。
このブログのあと再掲する。

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