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言いたい放題 第213号 「所信表明演説を聞いて」

「所信表明演説を聞いて」

14日、野田総理大臣の所信表明演説が行われた。何しろ政権を担当して初めての演説だから、彼のやる気と本気度を探ろうと、原稿の全文を何度も熟読した。

全体的に読んで感じたことは、前文とむすびは別にして、やっぱり官僚が書いたものという印象が強い。

私自身、大臣として何度も総理の所信表明演説づくりに参加してきただけに、あらゆる問題点を、そつなく、総花的に書かれているから、かえってそう思うのである。

今までの慣例で言えば、政策についての内容は、まず各所管省庁から、文言として上ってくる。色々の人の手を経て出てくる文章を、一本にまとめるわけだから、この演説は「詠み人知らず」だと揶揄されたこともある。

一応出来上がった原稿を、総理を中心にチェックし手を加え、まとめ上げたものが所信表明演説となる。

だから、前述のようにそつなく総花的になり、逆に言えば具体的な中身に欠けてしまうのである。

今回の演説には、東日本大震災問題から、世界的経済危機への対応まで、一応すべてのことが網羅されてはいる。しかし、ほとんど今まで言われていたことの繰り返しばかりで、どのようにして解決するのか、格別、具体的な新しい提案があるわけでもない。

「万全を尽くす」とか、「冷静に検討します」とか、「与野党で真剣な議論が行われることを期待します」では答えにはならないのだ。

前文には、かなり総理の思いが込められてはいる。

被災地で様々な人達が、自らを省みず、最前線で頑張っている。震災で改めて示された日本人の立派な精神、気高さ、これらに感動したと語っていたが、これは全く同感である。この点、彼の思いはよく伝わってくる。

野田氏は就任間もない8日から3日間、自分の目で被災地を確かめたいと現地を訪れている。そこで受けた思いを背景にして語っているのだ。

しかし、すぐ裏を勘ぐりたくなる私は、はて、彼は菅内閣でも閣僚という重席に居たのではなかったか、その時は被災地に飛んで行かなかったのかと首を傾げるのだ。あれからすでに半年もたっている。今更、あわてて現地を訪れ、かの地の人々の働きに感動したもないだろうと考えるのだ。

総理になった途端、時間的に無理をして現地に飛んだが、いわば得意の野田節を聞かせる為に、その背景になる絵を作ったのか、だとするなら、如何にも姑息な手段で、決して許されることではないと強く思うのだ。

「正心誠意」という勝海舟の「氷川清話」から引用した言葉をつかっている。彼は物知りで評判だが、あの「どじょう」のように、人の関心を呼び寄せることに巧みだ。

今度の演説の中で、「増税」のことを「歳入改革」と言い換えているが、これらはいわば言葉の魔術というもので、まさに彼の真骨頂といったところか。しかし、そんな言葉のごまかしに惑わされてはならないのだ。

総理は、与野党の協力の必要性を訴えている。

当然、野党と積極的に議論すると思っていたら、なんと、臨時国会はわずか4日間で終わりと強行採決する始末だ。衆議院解散の為に召集した国会を除けば、戦後2番目の短さなのである。

しかも、当然開かなければならない予算委員会もやらないという。新首相が選ばれた直後の国会では、総理や閣僚と論戦を交わすのは常識ではないか。

平野民主党国会対策委員長が、いみじくも洩らしたように、この内閣の顔ぶれでは、早速立往生すること必至だから、逃げたのである。

軽挙妄動で辞任した鉢呂前大臣だけではなく、叩けば埃の出る大臣が山ほどいるから、ちょっと間をおいてということだろうが、だらしのない話である。

自民党など野党も、予算委員会が開かれたら、野田政権の矛盾や欠陥を追及するだけでなく、きっと良き提言もする筈なのだから残念である。

谷垣自民党総裁の言うように、「正心誠意」というならば「誠心誠意」、国会で議論する姿勢を示すべきなのである。今の様子では、公明党の山口代表が言うように「野田氏に対話や協力を語る資格が無い」ように思えてならない。

「愚直」というのも、どうも怪しいと思われる節がある。

25年間も街頭演説を続けてきた。黙々と泥臭く、語り続けてきたというのが「売り」なのだが、それにしては就任以来、記者団との会見も開かず、官邸のぶら下がり取材にも応じていない。記者からどこが愚直なのか、庶民的なのかという怨嗟の声も起こり始めている。

今度、自身のブログ「官邸かわら版」とやらを、街頭演説の代わりに開設することになった。

一方的に言いたいことだけを書くつもりなのだ。これなら議論しないで済むと考えているのだろうが、甘い判断だ。

かつて私は40年近く、「深谷輶司のダイヤルレポート」を続けていた。留守番電話を活用して週一回政治への思いを語ったのだ。今でいうホームページ、あるいはブログのはしりで、これは私のアイデアとして評判であった。これをまとめて本を2冊出している。

ある時、たまたま通産大臣であった中曽根先生が、これはいいと同じ形で発信を始めた。

ところが、大臣として言ってはならないことを語って問題になった。決して間違ったことを言ったわけではないのだが、大臣の発言となると想像以上に重いし、注目度も高い。危なく舌禍事件になるというので直ちに止めることになったのである。

その経験から私も郵政大臣になった時はやっていない。

総理大臣の「かわら版」、危なくてとても長くは続けられないと思う。どうせすぐ終わるか、さもなければ問題にならない程度の、つまり中身に全く意味の無い、つまらない発言で終始するのではないか。

いずれにしても、政権発足まだ日が浅いが、早々にボロがみえはじめているようで心配である。

彼は所信表明演説で、いみじくも次のように言っている。

「政治が指導力を発揮せず、物事を先送りする」ことを「日本化する」と表現して、揶揄する海外の論調があります。これまで積み上げてきた「国家の信用」が今、危機に瀕しています。

全くそのとおり、演説で言うだけではなく、この言葉を拳拳服膺して、愚直な努力を重ねてほしいものである。

せめて、また3度目の失敗にならぬように・・・。

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