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テレビには顰蹙を買うために出ている。肯定的な意見ばかりの同業者の世界でなく、見ず知らずの場所で馬鹿にされる経験は、絶対に小説にプラスになる。──羽田圭介(2)|作家と90分|瀧井 朝世

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【「あんた、生きてんのか死んでんのか、わかんねえよ」──社会的にそう感じている人はたくさんいる。──羽田圭介(1)】より続く

画像を見る 羽田圭介(はだ・けいすけ)
1985年、東京都生まれ。明治大学卒業。2003年、「黒冷水」で第40回文藝賞を受賞してデビュー。2015年、「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川龍之介賞を受賞。著書に『不思議の国のペニス』『走ル』『ミート・ザ・ビート』『御不浄バトル』『「ワタクシハ」』『隠し事』『盗まれた顔』『メタモルフォシス』などがある。

背水の陣をしいて、会社員のうちにローンを組んでマンションを買い、会社を辞めて専業作家になった。

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『黒冷水』 (羽田圭介 著)

──さて、高校時代に小説を書き始めた羽田さんですが、『黒冷水』は3作目だったそうですね。これは兄の私物を覗き見る弟の話ですが、ずっと緊張感があるし、最後はびっくりする展開になるしで、面白かったですねえ。

羽田 1作目は自転車に乗る話を書き、2作目は校内暴力の話を書き、3作目に書いたのが『黒冷水』でした。でも、あれも自分が接してきた映画とか本を写経のようにして出しただけという感じがしますね。特別に勉強しなくても書けたというか。最後自宅で大騒ぎになるのも、山本文緒さんの『群青の夜の羽毛布』が映画化された時に、本上まなみさんファンだったので原作より先に映画で観て、自宅でわちゃわちゃする場面が頭に残っていたからです。主人公が学校のカウンセリングルームで自己客体化に努めるシーンなんかは「発掘! あるある大事典」でそんなようなことを特集していたからだし。わりとあの小説の大事な場面なのに(笑)。

――まさか、あの番組だったとは(笑)。『黒冷水』って、人が自分に見せていない部分、隠している部分を見ようとすることとか、その結果その人の違う部分が浮かび上がってくるところとか、その後の羽田さんの小説に繋がっていますよね。特に『隠し事』(12年刊/のち河出文庫)とか『盗まれた顔』(12年刊/のち幻冬舎文庫)あたり。

羽田 今書いている別の小説も、このデビュー作っぽい感じがあるんです。やっぱり誰にも頼まれていないのに書いた小説というのは、自分の核みたいな感じなんだなと思いますね。メタ的なものが好きだったりというところも。

――大学時代の単行本の刊行は少ないですが、書いていないわけではなかったそうですね。

羽田 「大学時代は遊んでいて2冊しか出しませんでした」とずっと答えていたんですけれど、結構ボツにしていたなと最近気づきました。原稿用紙500~600枚くらい書いてボツにしたりして。宗教団体とか右翼の話だったので内容的にどうかなと思ってボツにしたんですけれど。だから、その頃もすでに長篇は書いていたんですよね。それをボツにしたので最初に書いたものを引っ張り出してきて書き直したのが『走ル』(08年刊/のち河出文庫)でした。あ、その前に『不思議の国の男子』(06年刊/『不思議の国のペニス』を改題、のち河出文庫)も書きましたね。この年代に書けるものを書いたほうがいいのかな、と思って自分と同世代の男性主人公の話を書いていました。

――その頃は「こういう作家になっていこう」というのはありましたか。

羽田 特にないですね。自信満々ですからね。その時はなんだろう、作家にはもうなれたから、次はゴスペラーズに入りたいとか言っていたんじゃないですか(笑)。20歳前後の頃はR&Bシンガーになりたいと思っていたんですよ。小説については、もう努力しなくても有名になれると思っていました。そうではなかったということをその後数年間で知るんですけれども。

――では卒業後、なぜ就職したんですか。

羽田 就職するほうが面倒くさくなかった。中学から明治大学の付属校に通わせてもらっていたのに、学歴が関係ない専業作家になるのもわけわかんないなと思って。自分にとっては就職したほうが親に面倒な説明しなくていいし楽だったんです。それに周囲が流行り事のように就活を始めていたので、自分も応募しようと思って。

――その就活体験がのちに『「ワタクシハ」』(11年刊/のち講談社文庫)に繋がっていくんですね。

羽田 そうですね。就活を始めた瞬間から、あ、これ小説にしようと思いました。小説にするつもりで就活していました。それで1年半だけ、会社勤めをしました。

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『ミート・ザ・ビート』 (羽田圭介 著)

――その体験は『ミート・ザ・ビート』(10年刊/のち文春文庫)に活かされていますか。

羽田 どうなんでしょうかね。会社は辛くはなかったんです。不満はなかったんですけれど、入社後3か月くらいは真面目に朝早く起きて小説を書いたりしていたのに、会社の仕事の肩の力の抜き方を分かってくると小説も力を抜くようになって、書かなくなっていって。読書量も減って、ひどいことになったんですよ。

それで軽い気持ちで背水の陣をしくことにして、会社員のうちにローンを組んでマンションを買って、会社を辞めて専業作家になりました。『ミート・ザ・ビート』は会社員だったうちに書いて、『御不浄バトル』(10年刊/のち集英社文庫)は辞めてから続きを書いたのかな。『「ワタクシハ」』も会社員時代に書きかけていたものを後から形にしたんでした。で、その後が結構、停滞というか。何をやったらいいんだろうという感じになって。

文芸誌の世界で洗練されることは、去勢され、ノイズがなくなることでもあった。『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』は去勢されていない。

――『「ワタクシハ」』の1年後、12年に『隠し事』を刊行された時、羽田さんなんか変わった、と思いましたよ。あれは恋人の携帯電話をこっそり見るという話なんですよね。

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羽田 そうですね。『隠し事』はわりと純文学のリハビリの感覚だったんです。あれを書いてもらった感想が、『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』に繋がっていますね。『隠し事』は自分では、『黒冷水』よりも洗練されたものをやったつもりだったんです。でも、ある評論家の方から、「なんか文芸誌に染まった感じがする」と言われたんです。「『黒冷水』のほうがつたないけれども、書かれるべきノイズみたいなものがあった」って。その言葉は今でも自分の中に残っています。文芸誌の中で納まりがよくなるよう洗練させるのと、よく分からないノイズありきのエネルギー量で読ませるのと、どっちがいいんだろうというのが…。わりとその疑問が『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』に繋がっています。だから、『隠し事』を書いてその感想をもらったというのが大きかったんですよね。

――文芸誌に納まるものを書いたっていうのは、どういう感覚だったんでしょう。

羽田 昔の素人だった頃よりも、間違いを犯さないようになりつつ、なんか去勢される部分が確かにあったな、って。確かに自覚があったんです。『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』は去勢されていない感じです。だから編集部といつまでも延々と直しの方向性の議論を続けたりしたんですけれども。

――なるほど。では『隠し事』の後で『盗まれた顔』という、見当たり捜査官を主人公にした、大藪春彦賞の候補にもなるような警察小説を書いたのはどういう流れだったのでしょう。

羽田 警察小説を書いたというよりも、見当たり捜査というアナログなものがテーマにありました。自分が書きたいと思った職業の人が、たまたま警察だったので警察小説のカテゴリーに入ったなという感じです。

――指名手配犯たちの顔を憶えていて、雑踏の中で彼らを探す人たちですよね。私は『隠し事』や『盗まれた顔』あたりで羽田さんがエンタメ性を意識してきたなと思ったんです。

羽田 それもありましたね。その頃に書いたもので単行本になっていない中篇3つもエンタメ小説でした。職業作家として、淡々とやっていた時期ですかね。

 この時期は辛かったというか。ある時、急に不安を感じました。これで一回病気をしたら、なんの手当もないまま貯金がなくなるな、って。作家って貧乏を感じた時にはもう遅いんですよ。貯金が少ないとなってから一生懸命原稿を書いても、雑誌に掲載されるのは最短で2、3か月後。そこからお金が振り込まれるまでさらに1、2か月かかる。これ、気を抜いたらあっという間に貯金がゼロになるぞと思ったんですよね。こんな不安定な職業はないと思いました。でも自宅最寄りの駅の書店に行っても文芸書コーナーがどんどん縮小されていて売れてる本しか置かれず、自分の本はもう数年間置かれていない。新作を出しても、文芸誌側が原稿料を渡して書いてもらった評論でしか取り上げられない。なんかもうどうしようもないなと思っていて。その時は辛かったですね。

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