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~2017年以降の世界と日本~ プーチン来日から、米中関係を展望し、日本の針路に思いを馳せる

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1.プーチン来日と日露交渉の現実

「人は、都合の悪い記憶を速やかに忘却するメカニズムを有する」という説を聞いたことがある。わずか10日前の出来事だが、かなり前に思えるのは、その残念な結果のせいだろうか。プーチン大統領訪日のことである。 

「肩透かし」という語が、これほど綺麗に当てはまる事例も珍しい。「70年来の懸案、ましてや領土問題は簡単には片付かない。まずは経済活動等を通じた信頼関係の構築から。」とは確かに正論だが、一方で「何をいまさら」「『良いとこ取り』をされるのでは」との懸念ももっともで、自民党の二階幹事長の言葉を借りれば、「国民の皆さんの大半はがっかり」したのが実態だ。 

ただ、最も「がっかりした」のは、他ならぬ安倍総理自身、加えて、対露交渉を中心的に進めてきた世耕経産大臣(ロシア経済分野協力担当大臣)ほか、私の古巣の経産省系の面々であることは想像に難くない。プーチン大統領を高く評価し、IS国対応での対露協調を主張するトランプ氏が米国大統領選で「まさかの勝利」を収めた頃から、彼らはこの残念な結果を予想したであろう。なぜなら、トランプ勝利で、対露交渉の「切り札」が使えなくなったからだ。 

安倍総理は、今回、それなりに明白に「G7の対ロ経済制裁に違反する」というカードを切ることで、領土問題での妥協を引き出す算段だったはずだ。この「日本が率先してウクライナでのクリミア半島奪取などのロシアの所業に目をつむる」という確信犯的対露経済協調が「カード」であるためには、G7各国が足並みを揃えてロシアに厳しく対処することが大前提だ。しかし、肝心要のアメリカが、トランプ政権誕生で対露協調の動きを見せる中、この「切り札」の価値は激減してしまった。プーチン大統領から見れば、トランプ政権との直接交渉でG7制裁網に「大穴」を開ける可能性が高まる中、日本を使って「小穴」を開ける意味は小さい。 

2.米中関係の展望

 
先ほど、今回のプーチン訪日の結果に最もがっかりしているのは安倍総理・政権自身、と書いたが、正確には、ちょっと違うかもしれない。確かに、北方領土問題に関しては、上記のとおり、トランプ勝利で千載一遇のチャンスを逸したという喪失感が否めないが、同時に、トランプ政権は、安倍政権の最優先事項である「対中封じ込め」を強力に推進するはず、という期待感もあるからだ。 

米国大統領選直後の11月14日に来日し、私たちハーバード・ケネディスクール卒業生向けの特別講演・内輪の夕食会に臨んでくれたアンソニー・サイチ教授(中国専門家)は、その時点で、新政権の「対中強硬スタンス」は明確だと喝破していた。同教授は、今後の対中政策を担うキーパーソンに、1)「中国が徐々にアメリカを凌駕して覇権を握る」との「100年マラソン」を警戒するマイケル・ピルスベリー氏(国務省・国防省で要職を歴任)、2)映画「中国がもたらす死」の監修など、扇情的な面も含めた対中強硬派として有名なピーター・ナヴァロ教授(UCアーバイン教授、数日前に新設の国家通商会議のトップへの就任が発表)、3)「350隻海軍」「200億ドル建艦費」などの強硬策を提唱する海軍政策専門家のランディ・フォーブス議員などを挙げていた。割と一般的な米国有識者の見方であろう。 

そもそも、安倍政権のロシア接近も、対中牽制の意味を多分に含んでいる。安保政策では弱腰ぶりが目立ったオバマ政権より、トランプ・共和党政権の方が望ましいことは、ほぼ間違いのないところだ。おそらく、先日の、安倍・トランプ電撃会談でも、そのあたりの対中強硬的ニュアンスを掴めたこともあってトランプ氏を「信頼に値するリーダー」と持ち上げたのではないか。元来、安倍総理及び周辺は共和党人脈の方が強いとされており、オバマ氏のそっけない対応に悩まされてきた身としては、率直な対話という意味での新政権への期待も大きいであろう。短期的には、先述の北方領土返還交渉の停滞や、本来は対中国での対抗軸でもあるTPPからの米国離脱など、トランプ政権の影響は痛手だが、中長期的な対中強硬スタンスや日米首脳間での信頼関係構築は、悪くはない話である。 

しかし、安倍政権的には気になる予想もある。主に外務省筋から聞こえてくるが、トランプ体制はビジネス中心の「個別交渉」政権であり、また、国務・国防関係の要職に内定した顔ぶれも、中東政策等については強硬だが、アジア・太平洋への関心は薄く、米中関係は炎上しないというものだ。つまり、米中間ではビジネスライクに交渉が進み、対米投資や米国の雇用を激増させれば、南シナや尖閣などの安保面は譲る、という単純な取引(ディール)が成立するとの見立てである。早ければ半年後には、米中関係は落ち着いていると述べる識者もいる。 

私は、後者の見方は楽観的に過ぎると思うが、仮にそうなると、米国の「暗黙のお墨付き」を得て、中国の海洋進出が激化することは明白なので、日本にとっては困った事態だ。いずれにせよ、「人間は見たい現実しか見ない」(ユリウス・カエサル)との罠にはまってはいけないと思う。 

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