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元新聞奨学生の思い出と、終焉に向かう新聞個配ビジネス

 約20年前、私Parsleyは某新聞の奨学生だった。都内の専売店に配属されて今ごろは中継所で自転車の前かごに新聞を丸めて積んでいた時間だ。

 自分のいた専売所には、10数人の奨学生がいた。その多くは近隣の音楽専門学校やアニメ専門学校の学生で、大学生は少なかった。そして、彼らのほとんどは卒業することがなかった。かといって実家に帰るわけではない。奨学金を返す必要が出てくるため、「専業」=販売所に雇われた社員扱いになるのだ。

 朝3時には起き、4時に配達に出て、遅くとも6時半までには専売店に戻ってくる。その後にまかないの朝食を食べて、自室に戻る。そして夕刊を配るために15時には再び専売所に行き、17時まで配達をして、夕飯を食べる。

 一言で配達といっても、おそらく想像以上に過酷だ。雨が降ろうが雪が降ろうが、配達しなければならない(しかも濡らさずに)。自分も台風の日に配る新聞の半分が風に飛ばされて川に落としたこともあったし、雪の日に新聞を積みすぎて滑って転んでほとんどの新聞をびちょびちょにしたこともあった。

 また、仕事は配達だけではない。毎月の集金もあるし(私の場合はヘルプだったけれど)、新規契約や再契約のために自分の割当てられた地区を回ることもある。主にそれをするのは平日の夜や休日の昼だった。まぁ、当時は新しくできたマンションで新しい契約を取ってくるのが楽しかったけれど、今振り返ってみれば契約になかったことだったし労働基準法的にもグレーだろう。  

 こんなことを振り返る気になったのは、新聞通信合同ユニオンが産経新聞などの新聞奨学生の不当労働行為があったとして、東京都労働委員会に救済の申し立てをしているから。

 産経新聞奨学生の労働問題解決へ救済申し立て(新聞労連 新聞通信合同ユニオン)

 ここで問題視されている点を見ていくと、朝刊業務が労働契約書では2:30〜5:30(約3時間)だったのが2:00〜平均7:30(約5時間半)だったという。販売店の朝の業務は、配達の前に折り込みチラシを一軒ぶんずつ入れていく作業が発生する。配達もだいたい300軒前後に2時間〜2時間半はかかるから、3時間ですべてを終えるのは相当に上手くいった日か、選挙翌日のページ数が少なく薄いくらいだろう。あと、配達する人の体力(もっといえば走力)によっても配達時間は変わってくるし、割り当てられた配達地区の地形によっても変わってくる。だから、そもそも契約で「3時間」とするあたりが無茶でしょ、と思わざるを得ない。

 販売店には大抵の場合「代配」と呼ばれる、持ち場がある人が休みの時に代わりに配達する役割の人がいるはずだが、彼らはあくまで穴埋めであって、誰かが怪我をして長期に休むという代わりにはならない。自分も配達中に打撲をしたことは何度もあったが、足を引きずってでも配達するのが「当たり前」だった。当然、本業のはずの勉学への影響はあった。だから、今回の一件で「打撲の怪我を負った際、配達業務の免除を行わない一方で大学を休むようアドバイスするなど学業を妨げる言動」があったというのはさもありなんという印象を受けた。宿舎に監視カメラがあったというのには驚いたけれど。夜逃げ対策かなあ(実家に逃げるといった事件はよく起こる)。

 いずれにしても、今回救済を申し出た奨学生は大変勇気のある行動に出たと思う。とはいえ、多くの販売店の実態は私が経験した20年前とさほど変わっていないということが見て取れるし、氷山の一角に過ぎないとも感じる。

 私が奨学生をした当時でも、既にどの販売店も「押し紙」(配達されず販売店に買い取りさせる分)は存在したし、自分の所属していた専売店でも人口は増えているにもかかわらず部数は減っていった。そのために人員を減らしてひとりあたりの配る区域を増やすといった対策を取っていたから、しわ寄せは末端の販売員に行く。

 そんな中、朝日新聞は『出前館』を運営する夢の街創造委員会と資本業務提携して、販売店の宅配網で弁当などを配達するのだという。

 朝日新聞社、配達網使い食事を宅配 夢の街創造委と提携(日本経済新聞)

 これ、どう見ても販売所の職員に過度の負担を増やすだけだとしか思えない。おそらく昼間の時間が余剰に見えるのかもしれないけれど、翌日朝の折り込みチラシの用意や集金といった業務もあるし、なにより睡眠の時間を削られる。奨学生を多く受け入れている販売所ならば、彼らを学校に行かずに働かせる懸念があるのではないか。

 ここまで書いてきたように、多くの販売所は新聞を配るだけでカツカツの人員しか配置(雇用)していない。それでいて折り込みチラシも減少しているし、販売店への本社からの補助金はカットされる傾向にある。だから「多角化」ははっきり言って無茶だし、おそらく過度の長時間労働が現在よりもさらに問題視されるようになるだろう。

 新聞を取る人も、配達をする人も高齢化が進んでいるし、日本の新聞社による個配ビジネスが、いよいよ終焉に向かっている。私にとってはそんなことを予感させるニュースだった。

 とはいえ、私が新聞奨学生をやっていたことに後悔はあまりない。スポーツ新聞や専門業界の新聞も読み放題だったし、給料は本や映画を見るのに全振りしていて、学校に通うよりも勉強になった。何より、1円稼ぐという重みを知ることができた。

 まぁ、誰かに相談されたなら「新聞奨学生だけはやめておけ」とアドバイスしますけれどね。身体を削るお仕事だし、勉学がおろそかになる可能性が高い、リスクの大きいお仕事でもあるので。そういう意味でも、さまざまな奨学金に関して議論が高まっているのは、良い方向なんじゃないかな、と感じている。

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