「コンピュータ監視法」とは、ウイルス作成罪を新設した改正刑法と捜査機関が令状なしで通信履歴を60日間、プロバイダーなどに保全要請できるなどとした改正刑事訴訟法を合わせていう。いずれも6月17日に国会で成立した。
沢田さんは、「ウイルス作成罪は、被害の有無にかかわらず、あるプログラムがウイルスとみなされれば、犯罪となる。通信履歴の保全要請は、犯罪の嫌疑がなくても、特定の個人の通信履歴を保全することができる。どちらも、捜査機関が恣意的に運用する危険性が高い」と指摘する。
通信の秘密や検閲の禁止は日本国憲法第21条に定められている。集会、結社、言論、出版など、表現の自由も同条だ。これらの憲法で保障された権利を制限する法律の1つがコンピュータ監視法である。
沢田さんは「中東でも日本でも、デモや集会がネットを通じて呼びかけられ、拡大している。ウィキリークスがアメリカ政府の公電を暴露したり、警視庁公安部外事第3課の内部資料が流出したりしたのもネット経由。政府や捜査機関は、憲法21条の諸権利を制限するにあたり、ネット規制が急務と考えた」と話す。
2003年以降、自公政権と法務省、警察庁が成立をもくろんできた共謀罪法案というものがある。「2人以上が犯罪を行うため、話し合った」とみなされれば、それ自体が共謀罪という犯罪となる。
共謀罪は捜査機関によるでっち上げが容易で、野党時代の民主党が強く反対し、3回、廃案へ追い込んだ。実は、コンピュータ監視法も共謀罪法案に盛り込まれていた。
「共謀罪法案をまるごと成立させるのは難しいとみた法務省、警察庁が、コンピュータ監視法に絞り、民主党を説得した。民主党も官僚と組むメリットを知り、賛成へまわった。国会審議では、江田五月法務大臣が自民党議員から、『共謀罪も新設するべき』と突き上げられた。近々、間違いなく共謀罪法案が国会へ提出される」(沢田さん)
「現代の治安維持法」といわれる共謀罪法案をめぐる攻防は、民主党政権下で新たな展開を見せることとなる。「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」(憲法12条)という条文を思い出さずにはいられない。