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西宮市長の「不良自慢」報道についての雑感

拙著『名門中学の子どもたちは学校で何を学んでいるのか?』(ダイヤモンド社)より

西宮市長の今村氏の発言が物議を醸している。マスコミからの批判の嵐に対し、千葉商科大専任講師の常見陽平氏が擁護している。常見氏のこの記事に事の顛末がほぼ網羅されている。

・西宮市長は「不良自慢」をしたのか?メディアの文脈切り取り型報道を問う 記者会見文字起こし

普通ならどうでもいい案件なのだが、今村市長も常見氏も、もともとの会社の同期ということで、知っている人たちだからこそ、一応、教育ジャーナリストという立場から、私も一言書いておく。

常見氏の主張は、マスコミの切り取り報道に対する批判だ。それはそうだと私も思う。今村市長は会見を開き、発言の真意を丁寧に説明した。子供たちに伝えたかったメッセージは彼の言うとおりだったのだと思う。しかし私が引っかかったのはそこではない。「その伝え方はどうだったの?」である。

今村市長の母校・甲陽は関西を代表する名門中高一貫校。中学では結構厳しいが、高校になると急に自由な校風になる。ある種のショック療法だ。少なくない生徒が、自由をはき違え、いろいろな失敗をする。そこから生徒たちが自ら学び取るのを教師たちは辛抱強く見守る。甲陽だけではなく、男子校にはそういう学校が多い。

さて、ティーンエイジャーの今村市長が、なんらかの式典で市長だか区長だかよく知らんおっさんの話を聞かされることになって、その人が「オレも昔はこんなワルをしてさあ……」と語り出したら、「うざくて痛いおやじだなあ」ときっと鼻で笑ったはず。

件の恩師は、若き日の今村市長を諭すとき、「オレも昔は……」なんて言わなかっただろう。その代わり、ときに見て見ぬふりしてやりすごし、ときに実害のないように処罰して、「あうんの呼吸」で対応してくれたという。「言えば野暮になる」からだ。

特に自由を標榜する男子校において、思春期の不安定さと世の中のルールの間でうまく折り合いを付ける方法を、言葉にならない形でじんわりと伝えるのは、教師と生徒の間で行われる崇高な「あそび」であり、言わずもがなの「間合い」にこそ、生徒を大人扱いする教師の機微がある。開き直ったら面白くもなんともない。

その機微を理解せず、「あそび」も「間合い」もない裸丸出しの言葉で、いまどきの中高生に語りかけるというのは無粋である。恩師も「野暮ったいぞ!」と天国からツッコみたかったことだろう。参加者18名という小さな会だったというから、近所のお兄さんのような気分で気軽に話しちゃった面はあったのだと思うが。

今村市長の一連の言動にミスがあったとすればそれは、恩師が今村市長に示した態度と、今村市長が中高生に示した態度の間にある、非対称性である。恩師がしてくれたのと同じように中高生に接すればよかったのだ。「あそび」や「間合い」を含んだ言葉を選ぶべきだった。それがむしろ中高生へのリスペクトであり、恩師への恩返しにもなったはずだ。

甲陽が今村市長を出禁にしたというのも、自分に火の粉が降りかかるのを防ぐためでなく、甲陽の教えをいまだに理解していないことにがっかりしたからだろう。また、話を聞いていた中高生にしたって、良くも悪くも「すごいですねー」と愛想笑いしただけだろう。

ああいう話をする市長がいてもいいとは思う。それが彼のキャラだというのならそれを貫き通せばいい。しかしそれではどうしてもうまくいかないことが今後あるのなら、母校を尋ね、もう一度教えを乞うといいのではないか。

出禁になったといっても、訪れればこっそり中に入れてくれると思う。25年前と同じように。そして、恩師の遺志を引き継いだ教師たちが、改めて甲陽魂を教えてくれるんじゃないだろうか。「何でも言葉にすればいいってもんじゃない。あそびと間合いを忘れるな」と、言葉ではない形で。

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