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事故当事者が作った事故報告書を、ほぼノーチェックでIAEAに提出する不思議

東京電力は9月9日、福島第一原発の事故報告書を、原子力安全・保安院に提出した。報告書は現時点でわかっている事故の状況や原因の推定などをまとめたもので、炉規法(核原料物質、核燃料及び原子炉の規制に関する法律)に基づく正式な文書だ。もっとも内容には疑問を感じる部分があるうえ、9月下旬に開かれるIAEA総会に向けた報告書にも転載されると聞くと、「これでいいのかな?」という思いが拭えない。

報告書は基本的に、5月以降に東電が出してきた事故解析などをひとまとめにしたものだ。そこに新しい項目として、使用済み燃料プールや共用プールの状況、放射線業務従事者(作業員)の被ばくなどが加わっている。本文は64ページで、このほかに500ページほどの添付資料がついている。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11090910-j.html

炉規法では62条の2で、事故が発生した場合、事故を起こした当事者(今回の場合は電気事業者である東京電力)は、主務省令で定める事項を主務大臣に遅滞なく報告することを義務付けている。この場合の事故報告は、当事者が事故原因を調べて、間違いがないと思われる範囲で作成したものになる。これを受けて原子力安全・保安院は報告書の評価をする。

といっても今回の場合、保安院の評価にはまだ時間がかかる。いつの時点で評価するかという期限は明示できないと、保安院はいう。それでも保安院は、報告書の内容に虚偽が合った場合は立ち入り検査なども実施できるため、虚偽はないだろいうという見方をしている。現行法では、事故報告書に関してこれ以上のリアクションをとることができないという事情もあって、そいう見るしかないという部分もある。

結局、虚偽はないだろうといっても現場検証ができるようになるまでには長い時間を要するので、性善説に立った推測でしかない。この点は保安院も認識している。いずれにしろ確認ができない以上、東電の報告書で「可能性」と書かれている部分は、正しくないとしても間違いとは言い切れない。そうした書き方になっているし、いくつかある可能性を併記せず東電の判断で事象を説明しているようにも見受けられるため、これを保安院担当者のひとりに指摘すると、苦笑いをしていた。

東電に都合がいいような書き方というのは、例えば報告書では、プラントのダメージはすべで津波によるものであると書かれていることだ。事故時のデータ解析からは、サイエンスライターの田中光彦氏が指摘するように地震で配管にダメージを負った可能性も否定できない。けれども東電は地震での損傷を全否定しているため、もちろん報告書では触れられていない。
田中光彦氏による指摘
http://cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=1159
このほか個人的に感じている4号機の水素爆発も、東電の推定が書かれているだけだ。4号機建屋崩壊の原因を、東電は3号機ベント時に水素が配管を通って4号機に回り込み、爆発したとしている。けれども4号機が爆発したとされる3月14日には、建屋の壁に穴があいているという報告は入っていたが、現状のようにボロボロに崩落している話はなかった。今の姿が公表されたのは17日の夜だ。しかも爆発したとしている15日には、4号機に関する異常事象通報(10条通報や15条通報)は保安院に報告されていない。

1号機や3号機が爆発した際には作業員が退避しているが、4号機ではそれもない。また1号機は爆発音が数キロ先の町まで轟いたが、4号機は明確な爆発音の報告もない。こうした爆発を否定するような材料があるにもかかわらず、報告書ではいっさい触れていない。

これでは、東電に都合のいい内容を東電が取捨選択し、報告書を作成したという見方をしてしまうのも仕方ないのではないか。さらに言えば、仮に地震で配管に損傷があったとすると全国の原発に影響があるだろうから、東電だけでなく保安院にも都合が悪い。国にとっては、損害賠償にも響いてくることになる。だからあえて指摘しないのでは、という疑念もわく。

事故原因のほか、報告書に含まれる時期や内容の過多にも納得しにくい部分がある。報告書では、プラント状況については3月19日までしか含んでいないため、20日以降に3号機の温度や圧力が急上昇した事象が抜けているのだ。この温度上昇は、朝日新聞が燃料の再溶融を指摘するなど、その後の事故収束に影響を与える可能性がある重要なものだ。

震災10日後、2度目の溶融か 福島3号機、専門家指摘
(朝日新聞 2011年8月8日)
http://www.asahi.com/national/update/0807/TKY201108070330.html

東電は9月9日の報告書発表時、この再溶融を否定する材料を公表したが、苦しい説明と感じる部分もあって完全否定できたとはいえない。一方で、3号機の事象を報告書に入れなかったのは、「事故がある程度進行したところで一端まとめている」(東京電力・松本純一氏)ためだとしている。けれども、都合よく時期を区切ったように見えなくもない。

それでも報告書では、4月4日に海洋投棄した汚染水については触れている。触れているのだが、分量は申し訳程度だ。なにしろ報告書本文で全63ページのうち、汚染水の海洋放出・流出については1.5ページしかない。同じページで放射性物質の大気への放出についても報告しているが、たったの0.5ページだ。事態を軽く見ているのか、それとも触れたくないのか、状況が把握しきれてないから短いのか、理由はよくわからない。

そうした疑念はあるのだが、前述したように、現行法では保安院も、これ以上の指示はできないのである。今後の報告書も、随時、状況がわかり次第提出されることになる、と保安院はいう。とはいえ事故が進行中なので、その時期は明確ではないし、保安院から指示もできない。とうことは、結論を先延ばしにして、東電の都合で報告書を出すことも、あるいはしばらく出さないということもありえるのか?と聞くと、否定はできないという回答だった。

そうした状況にもかかわらず、この報告書は、ほぼそのまま、政府からIAEAに提出される報告書に転載されることになる。報告書の一部は保安院の評価が済んでいるが、現場検証をしてるわけではないので評価といえるかどうか。いわば、自動車事故を起こしたドライバーが自分で作った事故報告書が、政府の公式見解のような形になるようなものだろう。政府報告書というのは名ばかりで、事故解析の大部分は(保安院の解析が付加されるだろうが)東電報告書と大差ない。

しかもこの東電報告書は、事故の当事者が取捨選択した可能性だけを拾って紹介している。こうしたものを、はたして報告書というのかどうか。どうも怪しいと思うのは、僕だけだろうか。未曾有の大震災、そして世界史に残る原発事故発生から半年が経過した今日(9月11日)、政府はIAEA向けの報告書を発表する。内容はまだ明らかではないが、なんだか東電と政府の一体感を示す以上のものにはならないのではないかという、不信感ばかりが大きくなるのが困る。

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