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建屋を吹き飛ばした水素は格納容器の外から出た? JNES解析と現実の符号

独立行政法人・原子力安全基盤機構(JNES)が2008年に制作し、原子力防災専門の研修で使っていたシビアアクシデントのシミュレーションを改めて見直していたら、気になることがあった。

シミュレーション動画

http://www.youtube.com/watch?v=wwYk62WpV_s&feature=player_embedded


日経エコジャパン「動画で見る炉心溶融 求められる実態の解明」

http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110622/106729/?P=1

シミュレーション動画では、福島第一原発のような沸騰水型原子炉(BWR)、における冷却材喪失事故の際に、以下のような進展を見せることが想定されている。ここでは福島同様の、マーク1型を例にしている。

■事故発生
圧力容器につながる配管破断事故発生。事故発生後に制御棒挿入、その後、すべての注水に失敗。

(事故の原因は違うけども、すべての注水に失敗することがすべての原因なので、福島と同様だと考えていい。原子力安全・保安院が9月2日に開示した
ERSS(緊急事態策支援システム)の解析は、福島第一からの炉心データが入らなかったため、事前にJNESが収集、分析して蓄積していたシミュレーショ
ンをもとに算出したものと、9月3日に保安院が説明している)

■冷却材喪失後
冷却材喪失で水位低下。制御棒は挿入されるが、注水失敗で炉心露出。残留熱で温度上昇。

■炉心溶融
事故発生から30分で、炉心中央部分が溶融。
事故から1時間で炉心下部に燃料が到達。

■圧力容器貫通
圧力容器下部は12〜15cmの鋼鉄製だが、高温なので、3時間で圧力容器貫通。
貫通した溶融燃料は、RPVを支えるペデスタル中間床面に落下。
コンクリ床を浸食しながらガス放出。
格納容器(PCV)の温度と圧力を上昇させる。
マーク1型では、さらにその下にあるコンクリで形成されたペデスタル中間床面を貫通し、その下部にあるコンクリート中間床面に落下。

■コンクリートを浸食してガス発生
ペデスタル下部のコンクリ床面に落下した溶融燃料でガス発生。
PCVに充満して温度と圧力上昇。
圧力が限界超えるとPCVのフランジから漏洩すると想定し、対策として、建屋経由で排気筒から環境に放出。

ここでポイントになるのは、マーク1型のシビアアクシデントの場合、当初からJNESは水素ガスの発生源を燃料被覆管ではなく、床面コンクリートと燃料の反応と想定していることだ。今回の事故で保安院は、建屋内に水素が充満して爆発したことについて、建屋内への水素漏洩は想定外であり、多くの専門家もそうした認識だったとしている。この点は東京電力も同じ考えだ。

しかしJNESの解析では、燃料溶融によって格納容器の圧力が上昇した場合、格納容器のフランジ(フタと本体の接合部分)からガスが漏出するという解析結果を示している。そういえば事故当初、原子力関係者から、建屋に水素が溜まるのは最初からわかっていたこと、という話を聞いたことがある。その時は深く考えなかったが、改めてJNESの解析を見ると、ピッタリと符号している。

今後は事故検証委員会が経緯を示すだろうが、JNESの防災専門官向け研修はこれまでに、143人の防災専門官が受講している。つまりこのシミュレーションを見ているということになる。ということは、少なくとも防災専門官の間では、冷却水喪失事故の場合は水素が建屋に充満する可能性が共通認識としてあったのではないだろうか。

水素についてはこれまで格納容器からのベントをする手順や、高線量下での操作が極めて困難だったことなどが繰り返し報じられてきた。しかしここまで述べたようなことが事前にわかっていたのであれば、重要なのは格納容器ベントではなく、できるだけ早く建屋から水素を出すことだった、ということになる。建屋からの排気についてはあまり深く考えられていなかったように思えるが、今後は焦点にひとつになるかもしれない。

また、東電は、1号機については圧力容器を抜けているだろうと認めているが、3/4号機については格納容器まで到達していないのではないかという見方をしている。ここで疑問なのは、格納容器まで達していないとして、燃料棒の被覆管から発生する水素だけで3号機と4号機の建屋を全壊させることができるのだろうか、ということだ。

もっとも4号機については、東電や保安院が3号機から排気管を通った水素による爆発という見方をしているものの、新聞が伝えている爆発音発生時刻(14日朝6時過ぎ)には東電から保安院への異常事態通報がなかったことから、個人的には水素爆発以外の可能性も高いと感じている。巨大な建物が爆発したというのに、誰も気づかないなどということがありえるとは、ちょっと考えにくいのである。

それはともかく、仮に3/4号機が水素爆発したのならなおさら、3号機の燃料棒だけでそれほどの水素が発生するのだろうかということになる。一方でJNESのシミュレーションは、コンクリートと高温の燃料の反応によって「大量の」水素が発生することを予想している。

また8月8日の朝日新聞は、「震災10日後、2度目の溶融か 福島3号機、専門家指摘」として、3号機の燃料がPCVまで落ちている可能性を伝えている。もしPCVまで落ちているとすれば収束に向けた工程表に大きく影響するだろう書いているが、影響どころではなく、恒久的な冷却システムを構築することが本当に可能なのかどうかという、根本的な疑念が生じてしまう。
http://www.asahi.com/national/update/0807/TKY201108070330.html

この疑問が拭えないので、保安院で、燃料棒から発生する水素だけで建屋が吹き飛ぶのかどうか、あるいは燃料棒からどのくらいの水素が発生するのかなどを9月3日の土曜に質問してみた。すぐには回答できないが、確認はしてみるということだった(もしご存じの方がいらっしゃれば、教えていただけると幸甚です)。

もちろん、解析は解析であって、100%確実ではない。けれども周辺事象を考えれば格納容器まで抜けていることを否定できるものでもない。東電は今でも時々、場合によっては冠水も、という対策を発表することがあるが、格納容器まで抜けているとすればほぼ不可能ではないだろうか。

さらに、もし抜けていたら地下水への汚染水流入の可能性が高くなるし、現在のように圧力容器の温度だけを見ているのでは実体を把握できていないことになる。さらにいえば、抜けていてもいなくても、汚染水を一定の水位以下にすることで燃料が顔を出すおそれがあるのは変わりがない。そんなことになれば放射性物質は飛散するし、燃料の温度も上がるだろう。つまり、おいそれとは汚染水の量を減らせないのだ。

こうした最悪の事態を国や東電がどう考えているのか、確たる所は見えてこない。国はステップ1が達成できたので次はステップ2といい、東電は「安定的に冷却できている」「原子炉の状態は安定している」と言い続けている。けれども中が見えない以上、なにが安定なのかどうかわかるはずもない。

事故処理の進展は周辺の避難解除や放射性物質の状況に影響を与えるし、私たちの生活にも関係してくる。国や東電は、実体を示す情報を包み隠さず明らかにし、私たちが判断するための基礎をつくらないといけないのではないだろうか。

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