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小金井市で起きたストーカー事件 警視庁の総括は不十分 警察組織の人員不足

今年5月に起きた冨田真由さんに対するストーカー殺人未遂事件は衝撃的でした。
 警察に対しては何度も相談し、殺されるかもしれないということを具体的に告げていながら、警察の対応は素っ気ないものでした。
 冨田さんの手記によれば、このような対応です。
「警察からは、「使っているSNSから犯人のアカウントをブロックしてください」「何かあればこちらから連絡します」と言われました。その後相談から事件までの間に、担当者から3回ほど電話がかかってきましたが、私のことを聞かれたのはそのうち1回だけでした。」

 手記はこちらから。
「警察は本当に反省して」小金井刺傷事件の被害女性が手記、傷残り現在も療養中」(弁護士ドットコム)

 実際に何かあってから110番通報しても手遅れな場合がほとんどで、今回の場合も結果として命は助かったものの事件そのものを防ぐということことからはほど遠い状態でした。

 今回の事件を受けて警視庁は今月16日に検証結果を公表しています。
小金井刺傷事件、警視庁が検証結果「安全を早急に確保する必要があった」不備認める」(弁護士ドットコム)

どの確認結果及び事案発生後の取り組みについて

1 本事案を踏まえ確認された事項

(1) 事案の危険性、切迫性の判断
 被害者から、5月9日の相談時に被疑者に殺されるかもしれないとの恐怖心から、持参した資料などを提示して説明した旨を聴取しているが、武蔵野署では、その思いを汲み取るに至らず、また、当該資料には一方的な好意や嫌悪の感情が含まれる書き込みが多数あったが、具体的に被害者に危害を加える旨の文言はないこと、被疑者は1月17日のライブ後は相談時に至るまでライブに来ていないことから、直ちに被害者の生命、身体に危害を加える危険性があるとの認識には至らなかった。
 しかしながら、当時の資料を再検討すれば、その内容から本事案は人身の安全を早急に確保する必要があると判断すべき事案であった。

(2) 相談者の安全確保に向けた保護対策
 武蔵野署では、被害者の人定事項及び相談事案の概要を即応システムに登録し、小金井署に対し110番通報があった際の対応を依頼するにとどまるとともに、被害者に対する防犯指導は、有事の際の110番通報にとどまっていた。また、小金井署では、交通勤務員などに連絡するにとどまり、いずれの署でも、ライブハウス周辺のパトロールなどは行っていなかった。

(3) 相談内容の記録
 3年前の万世橋署の相談では、当初相手方が不明であり相談受理票の相手方欄を空欄としていた。その後、被疑者が相手方として浮上したものの、嫌がらせ事案が収まり事件化をしなかったことから、相手方欄を空欄のままとし、事後に被疑者の人定を検索できる状況になかった。

(4) 多摩センターにおける110番通報の対応
 受理担当者が110番発信されている携帯電話の位置情報の確認を失念し、即応システムに登録された被害者の住居地が通報場所であると判断した。

2 本事案発生後の取り組み

(1) 事態対処チームへの情報の集約
 一方的な好意の感情又は嫌悪の感情を含む相談(同一文言や同一内容の繰り返しがあるものを含む)は、事態対処チームに速報し、事態対処チームは危険性などの判断に関する指導・助言を行うこととした。

(2) 事案の危険性、切迫性の適格な判断と組織的対応の強化
 関係者からの幅広い事情聴取、過去の警察での取り扱い状況、サイバー空間の状況などを把握して危険性などを見極め、早期の事件化、迅速な口頭警告、保護対策(定期的な聴取やパトロール、具体的な防犯指導)を行うこととした。即応システムには相談者の住居地以外でも、相手方と接触する可能性がある場所を登録することとした。

(3) 相談内容の確実な登録
 同種の相談内容への活用のため受理時の内容、人定、経過などに加え、処理過程で判明した事項についても、相談システムに確実に登録することとした。

(4) 110番通報に対する迅速、適格な対応
 登録された電話からの110番は、自動的に位置情報を画面表示するようシステムを改修した。

(5) 全職員に対する意識の徹底
 迅速、適格な相談者などの安全確保については全職員に意識付けを行った。

 この事件では結果が発生してしまっていますし、被疑者の行動からみてもこの事件で警視庁が「対応に問題はなかった」と結論付けることは最初から不可能だったのものですが、誰がどのように見ても警察の対応は問題がありました。
 警察としてどうしたら今回のような事件が防げるのかという視点からの検討は避けて通れないものだからです。

 その意味では、どのような事案に対して危険性判断を適確に行うのかに掛かってきます。
 ピンポイントで適確に危険性の有無を判断することなどできませんから、一定程度、警察の対応が空振りになることもやむを得ません。そのような無駄も含めて適確に判断できるかどうかが問われているのです。
 つまり、もしかすると生命に対する危険性があるのではないかという事案はやはり同じように対応することが求められることになります。

黄緑の部分についても同様の対応が求められている
画像を見る

 このように警察の対応の問題の核心は、何故、適確な判断ができなかったのかという根本問題に遡らなければ意味がありません。
 私が代理人として告訴状等を持参して感じることは、現場の警察官の手が回っていないということです。
 1999年に起きた桶川事件での埼玉県警の対応は任務懈怠も甚だしく、この点については国家賠償責任が認められはしたものの、確かに桶川事件での埼玉県警の対応は異常でした。
 ストーカー事件が一般的に認知されてきた昨今ではここまでひどい対応はさすがになくなったものとは思いますが、現実に相談を受けた警察官が適確に判断しうるかどうかということ、さらに適確に判断したとしても現実に対応が可能なのかという問題があります。
 根本的には、適確な判断を鈍らせているのは人員の不足です。目先の業務に手一杯であれば、どう考えても「先送り」したり「たらい回し」にします。現場の警察官のやる気の問題に矮小化してはいけません
 不祥事が起こした後だから、人が足りないなどと言ったら責任逃れにしか聞こえなくなりますが、この問題を抜きにして対応策が検討できるとは思えません。

 ストーカー規制法も改正されましたが、これだけで対応できるとは思えません。
参照
改正ストーカー規制法成立、SNSも対象に…弁護士「これまでが規制されなさすぎた」」(弁護士ドットコム)

 警察の現実の対応にも限界はあるし(常に護衛することは困難)、冨田さんの事件でも脅迫行為での事前の立件も可能だったのではないかとも思われますが(この点の検討の有無は不明、上記公表が全てであれば検討はなかったのではないかと思われます)、それも限界があります。脅迫であれば早晩、被疑者は自由の身になるからです。

 本来、この場合は、自己や他人を傷つける蓋然性が高いという治療が必要な案件ではないかということです。
 自己や他人を傷つける蓋然性が高いのであれば求められるのは治療です。しかも事件を起こす前に強制的な治療ができるものでなければ意味がありません。
 相模原市で起きた障がい者に対する殺人事件と同様の構造と言えます。
女性タレント冨田真由さんに対する殺害行為 現代社会が病んでいる

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