- 2016年12月18日 09:08
CEO無しで企業は経営できるのか?

建設会社DPRコンストラクションの経営委員会
Photo: Jason Henry for The Wall Street Journal
By RACHEL FEINTZEIG
そもそも企業に最高経営責任者(CEO)は必要なのだろうか。
スイスの時計・宝飾品大手フィナンシエール・リシュモンは先月、その質問に答えを出した。リシャール・ルプーCEOが2017年に退任した後は後継者を置かない方針を打ち出したのだ。
リシュモンは、トップなしに経営していく異色の企業の仲間入りをする。米カリフォルニア州に本拠を置く建設会社のDPRコンストラクションやソフトウエアメーカーのピーコンは、委員会やコンセンサスに依拠した経営を行っている。両社の幹部は、この構造がコラボレーションを増やし、あらゆるレベルでの意思決定を後押しする利点があると指摘する。だが、コンセンサスによる経営はときにフラストレーションを生む場合がある。例えば、CEOなしで立ち上げたクラウドソーシングによる投資ファンドは、大失敗に終わっている。
DPRの共同創業者であるダグ・ウッズ氏によると、同社の経営委員会は時に「多くの言い争い」を経て、全体で意志決定に至る。時には「テーブルをたたいて『こうやれ』と言えたら、どんなに良いか」と思うこともなくもあるという。しかし年間売上高約40億ドル(約4600億円)の同社にとって、コンセンサス経営の方が合っているとウッズ氏は語る。
約4000人の同社従業員は、自由にアイデアを出し、自分たちで決定を下す。古参リーダーたち(現在取締役を務めるウッズ氏など)は、8人で構成される経営委員会から徐々に手を引いている。そして、現行の委員会メンバーへの助言は続け、経営方針に一貫性を持たせている。
ウッズ氏は「極めて命令型のCEOが会社を去り、新しい人を迎えるとなると、巨大な変化が起き、組織に問題が生じることもしばしばだ」と述べる。
同社のテキサス事業に携わるマット・マーフィー氏は、以前在籍した会社が13年にDPRに買収される前は1人のCEOの下で働いていた。当時は行動を起こす前に、一連の指揮系統に対してお伺いを立てる必要があった。「自分のメッセージがCEOのところまで正しく伝わることを祈る」状態だったという。
現在は、経営委員会のメンバーたちに電話して困っている問題への助言を受け、数時間のうちに自分で判断を下している。
会長は「エゴの航空管制官」
リシュモンでは、同社事業(カルティエやヴァンクリーフ&アーペルなどを含む)のトップリーダーたちが、ヨハン・ルパート会長の直属になる予定だ。ルパート氏は自身が担う会長の役割を「エゴの航空管制官」だと説明する。
ピーコンの共同創業者であるダニエル・ロジャース氏は、「階層構造はコラボレーションを減らす」と述べる。同社は創業2年の人事管理ソフトメーカーで、コペンハーゲンとロンドンにオフィスを構える。同社のリーダーたちは、1人にCEOの肩書きを与えると、部下の間で内輪もめの原因になり得るほか、アイデアの流れを止める恐れもあると考えている。同社ではその代わり、6人で構成される経営チームが定期的に顔を合わせて、直面する大きな問題を解決する。
だが、この構造だと経営チームは売上高など当面の課題に注力するため、ブランド戦略などの長期的な取り組みが見過ごされてしまうことが判明した。そこでピーコンは業務運用担当者を雇った。この担当者はチームの方向性を維持し、データを集めて、ミーティングの構成を考える。
CEO抜き経営の落とし穴
今年、DAOというクラウドソーシングによる投資ファンドが立ち上がった。DAOは「Decentralized Autonomous Organization(分散化自立組織)」の略で、人間のリーダーがいない完全に自動化されたビジネスとして誕生した。人間のリーダーがいない代わりに、投資家がデジタル通貨を拠出し、特別なトークンと交換して資金の配分先を投票できる仕組みにした。DAOは春に2億5200万ドルを調達したが、ハッキングで5500万ドルが流出し、6月に閉鎖された。DAOのプログラミングを支援していたドイツのハイテク企業Slock.itのシュテファン・トゥーアル最高執行責任者(COO)によると、最終的に流出した資金は回収され、投資家に全額が返金された。
トゥーアル氏は、オープンソースのコードを採用し、CEO職を設けなかったことで、DAOがCEOへの報酬を節約できたほか、人間の偏見を排除できたと述べる。それでも、この構造はいずれ、問題を引き起こす可能性があった。
同氏は、DAOの資金をどこに投資するかについて、「何カ月ももめる可能性があった」と話している。
ペンシルベニア州立大学経営大学院のドナルド・ハンブリック教授(経営学)は、「委員会による経営は、夢のような理想だが、あまり実践的ではない」と述べる。同教授はトップを排除することで、下層のスタッフの自立と関与を促すことができるが、ビジネスが問題にぶつかったときは、権力を握る人が1人いる方が良いと指摘している。
- ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)
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