記事

トランプ政権を甘く見てはいけない

 アメリカではトランプ政権の閣僚候補がほぼ出揃い、1月の新政権発足を待つばかりとなった。

 ウィスコンシン州で行われていた投票の再集計の結果、トランプの勝利は変わらないことが確定した。また、ミシガン州とペンシルベニア州の再集計請求も、州の裁判所によって退けられた。

 オバマ政権がロシアによるハッキングを通じた選挙への介入を公表した後だけに、各州で投票の集計に使われたコンピューターシステムに対するフォレンジック(デジタル鑑識)作業が行われなかったことは残念なことではあったが、アメリカの現行法が集計システムへのハッキングを通じた選挙への介入を想定していないため、フォレンジックを行う法的な根拠が見いだせないという裁判所の苦渋の判断だった。

 いずれにしても、12月19日の選挙人投票で一波乱起きる可能性は残されているが、来年1月から日本が、不動産王ドナルド・トランプ率いるアメリカ政府を相手にしなければならないことは、ほぼ確実な情勢となった。

 トランプ政権については様々な観測が流れているが、一言でいえば「予測不可能」というのが、衆目の一致するところのようだ。確かにトランプ自身が行政経験や公職経験が皆無な上、閣僚にも国務長官に内定しているティラーソン・エクソンモービルCEOを筆頭に、政治的にはほとんど未知数のワシントンアウトサイダーが名を連ねる。しかも、その多くは、政権の政策に対して個人的な利害を抱える利害当事者ばかりだ。これで政権の方向性を予想しろというのが、無理な相談かもしれない。

 トランプは先の選挙戦で、数々の奇天烈とも荒唐無稽とも言われる法外な政策をぶちあげてきた。その多くはあまりにも非現実的なため、「実際に大統領になれば、もう少し普通になるだろう」とする祈りのような予想をする専門家は多い。

 しかし、トランプ政権を甘くみてはいけない。日本のメディアではトランプが選挙戦中、メキシコや中国やイスラム教徒を目の敵にした発言が、多く報道された。しかし、トランプは明らかに日本も対峙する対象として視野に入れている。トランプの出馬表明演説やその後のメディアとのインタビューの全文を見ると、トランプの世界観では中国やメキシコと並んで、日本も「アメリカの市場の食い荒らし、アメリカから雇用と富を奪う存在」であると見ていることに疑いの余地はない。日米安保の片務性や日本の防衛力の強化、ひいては日本の核武装容認にまで言及したのも、自分たちがいいようにしてやられている日本に対して、アメリカが一方的に防衛義務を負っているのはおかしいではないかという考え方が根底にある。

 トランプの日本観が2000年代以前の日米貿易摩擦時代の、やや時代遅れのものであることは確かだ。しかし、アメリカ第一主義を徹底し、戦後一貫してアメリカが担ってきた世界の警察官役を放棄し、経済的にもアメリカに雇用の取り戻すことを最優先課題に掲げて当選してきたトランプが、今後どのような要求を日本に仕掛けてくるかは全く未知数だ。

 今後、トランプ政権から飛び出してくるかもしれない予想外の要求は、これまで日本が採用してきた日米安保を基軸とする軽武装・経済優先の政策路線にも大きな転換を強いることになる可能性がある。そうなれば日本の民主主義の強靭さが改めて問われる局面も出てくるかもしれない。

 ロシアのクリミア併合や中国の南シナ海での埋め立て、そしてブレグジットにトランプ政権の誕生と、明らかに世界は新しい時代に突入している。アメリカと協力して第二次大戦後の秩序の維持を図っていきたいと考えていた日本も、肝心のアメリカに既存の秩序を否定する政権が誕生してしまった以上、それなりの覚悟が必要になるだろう。

 共同通信ワシントン支局長などを歴任し、長年日米関係を取材してきた春名氏と、トランプ政権の見通しと日本への影響について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

あわせて読みたい

「ドナルド・トランプ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。