- 2016年12月15日 12:16
介護は本当にお金がかかる世界。サービス費用を負担できない人のためには、高額所得者の税負担を増やすしかない - 「賢人論。」第29回(中編)青山繁晴氏
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前編「社会保障は国政の中で最も身近なテーマなのに、一部の限られた政治家や官僚の手に委ねられているのが現状」で、自身の母親の介護を通じ“社会的弱者”として扱う世間を身をもって経験したことから、あらゆる人が「人間としての尊厳を守らなければならない」と語った青山氏。そのためには、広く浅く税負担がなされる現制度ではなく、大胆な制度を設けることが必要だと言う。中編となる今回は、その構想に迫った。
取材・文/猪俣ゆみ子(編集部) 撮影/鈴木智博
介護はお金が必要な世界である
みんなの介護 予期せぬ事情からお母様の介護を引き受けることになった青山さんですが、当時、仕事と介護を両立させることは並大抵のことではなかったのでは。
青山 おふくろを引き取ったときはすでに共同通信記者を辞めていて、独立総合研究所の社長としてテレビやラジオに加え講演も年に130回程度こなしていました。船乗りの妻は陸にはおらず、陸に戻ってきても研究者としてものすごく忙しいなか、2人の子どもを育てるのも大変。でも、離職はしませんでした。
どうしたかというと、まず、自分たちの生活を犠牲にしてでも、介護サービスに使えるお金は徹底的に使いました。だから、好きなものも買わなかったですね。ぼくはもともと貯金をしないんだけれど、とにかく収入の大半をつぎ込みました。介護サービスにも公的なものと民間のものがあるでしょ。それらを調べて、デイサービスはここ、民間のサービスはこの部分、というように、ずっとケアできるようにしました。
みんなの介護 民間サービスも併用されたんですね。
青山 無茶苦茶お金がかかりました。青山千春博士はすでにぼくの扶養者ではなくて、家計は自立していたけれど、お互いに出し合いました。しかし、実は彼女のお母さんの介護も同時進行であってね。とにかくものすごくお金がかかりました。自分たちの収入すべてとまではいかないけれど、かなりつぎ込んだのでね。それで、本人の尊厳が失われないようにしたけれど、心の中では、いつまでもつのか…と。それでも、仕事は一切辞めずに済みました。
その途上で知ったことですが、例えば、介護の専門家の人が言ったのは「介護はお金で解決できるんです。お金さえ出してくれれば、24時間なんでもできます」と。「実は全部お金ですよ。青山さんのところはどんなに無理をなさっていてもやるから、お母さんは幸せですよね。でも100万人に一人もいないですよね」といったことを何人かのプロから聞きました。
みんなの介護 介護は“いつまで”という期限がないので、介護生活が長期化すると家計が破綻してしまう人もいるのではないかと。
青山 東京に来てしばらくするとおふくろはがんになって、専門病院に入院してそこで亡くなりました。その費用も高額だった。つまり、国の政策全体も結局、財源の確保なんです。
介護ってそれぞれの事情があるから一概に言えないんだけれど、ぼくら自身が介護を経験して、さっき言ったように公的・民間サービスを全部調べて、利用してみなかったものはなかった。本当に、お金の必要な世界です。自分に合った介護サービス費を負担できない人のために、高額所得者の税負担を増やすしかない。消費税のように広く薄く課税するのは、無理です。

高額所得者の超目的税を作る
みんなの介護 最近では、要介護度軽度者の生活援助サービスを全額自己負担にするという話も議論されています。
青山 例えば、生活援助サービスでいうと、東京都内は1単位だいたい11円で、高いんですよね。普通は10円。それで計算すると、45分間で2250円くらいになるはずです。45分で掃除、洗濯、買い物、薬の受け取り、全部できるわけないじゃないですか。
みんなの介護 本質的なことに切り込んで財源を確保しなければいけないけれど、限られた予算の中で効率よくやっていくという具体的な提案が必要になっていくのではないかと。
青山 もちろんそうだけれど、今の話は机の上での話です。介護をしたことのある人間だったら誰でも知っています。自分の生活を考えて、何気なくしている買い物や炊事、ぼくだったら、妻が陸にいないから食器洗いなどの家事をするわけです。下の子が幼稚園ぐらいのとき、お母さんがいないわけですから。
共同通信で特ダネを探す政治記者だったときに青山千春博士が遠洋航海に出ましたから、政治部長に「毎週必ず、特ダネを出すから、車を貸してください」とお願いをしたんです。朝駆けといって、政治家が起きる前に議員宿舎に入って、朝食を一緒に食べて、政治家と一緒に国会へ行く。そのあとは家へ一度帰って子どもを幼稚園と保育園に送り出す。夜も、夜討ち取材をやります。議員宿舎を夜、深夜、未明と訪ねるあいまに、また一度家に帰って必ず子どもたちとごはんを食べる。
介護も奥さんに任せたりしないで互いの仕事を続けるには工夫が必要で、それにはお金がかかります。そこを政府が支援するなら、その財源確保は税金しかないんです。介護保険料をはじめとする保険料だけでは、無理です。何を言いたいかというと、高額所得者から高い税金をとるしかないんです。ぼくは消費税を社会保障にあてること…つまり目的税とすることには反対なんです。そもそも、目的税の考え方自体が間違っていると思う。“福祉だから消費増税でいいでしょう”というのは、官僚の仕掛けたワナみたいなものですよ。
みんなの介護 消費税を8%に増税した分は社会保障費に使う、ということでした。
青山 この件に関しては、申し訳ないけれど、特に年収1000万を超える方々には、高齢者の方々への目的税で、たくさんの税金を払ってもらうしかないです。広く薄く課税したり、広く薄く保険料をとったりして少子高齢化を避けられるなら別ですよ。子どもが増えていくならいいけれど、少子高齢化があまり変わらないとすると、破綻するのは当たり前です。だから、高額なところから高額な目的税をとるしかないんです。
お金があれば、例えば、介護職の人材不足問題も変わるでしょう。プロだったら余計に、現実を知っているでしょう。介護職の給料の問題だというのは。人間の尊厳を守るというのも、一人ひとりを手当てするというのは、「あの人はどういう育ち方、この人はこういう育ち方、この人は何が好き」ということを手当していくというのは、当然、プロを育てる財源が必要です。
…で、これが難しいとなれば、あとは産業として効率化させる他ない。これは介護職の人には悪いけれど、AI(人工知能)化してロボットのほうがよほどいいんですよ。尊厳を守ってくれる。おふくろをケアしてくれた看護師の人だけじゃないけれど、記者時代に見て回った現場では、いやー、平気で尊厳を傷つけていました。
みんなの介護 それは例えばどういったことでしょうか?
青山 好みなんか聞いてくれませんしね。とにかく、「早く食べろ」だし。介護職の人の立場に立てばわかりますよ。担当している高齢者の人は増えるばかりだし、そうすると、お金をたくさん出す人が背後にいる場合にはちゃんとケアするけれど、場合によっては、悲惨なことが起きている現場もあるのではないでしょうか。



