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「“決断”が必要な政府関係者こそ見るべき映画」-田原総一朗氏、猪瀬直樹氏が語る日本の“意思決定”

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BLOGOS編集部

12月8日に行われた映画『アイ・イン・ザ・スカイ-世界一安全な戦場-』(12月23日公開)のトークイベントに、ジャーナリストの田原総一朗氏と作家の猪瀬直樹氏が登壇した。

本作では、ドローンが活躍する現代の戦争の実態と、少女を犠牲にしてでもテロリストを撲滅すべきか、という正義とモラルの間で揺れる意思決定が描かれている。

鑑賞した両氏から、映画の感想や太平洋戦争時における日本の意思決定についての分析などのトークが飛び出し、白熱したイベントの様子をお伝えする。(BLOGOS編集部PR企画)

東条英機は開戦を“決断”していなかった

BLOGOS編集部

―今回の映画「アイ・イン・ザ・スカイ-世界一安全な戦場-」では、現在の世界の情勢を描いていますが、今日という日(※12月8日)も歴史的に大きな1日ですね。

田原総一朗(以下、田原):今日は真珠湾攻撃の日なんですよ。

猪瀬直樹氏(以下、猪瀬):皆さん終戦記念日が8月15日というのは知っているけど、戦争が始まった日を意外と知らないんだよね。

田原:僕は、昭和16年の12月9日に、当時のNHKがラジオで朝からバンバン「真珠湾で大戦火」と報じていたのを覚えています。その頃、僕は小学校一年生でした。開戦当時は、「このまま勝つんじゃないか」と思わせるような雰囲気でしたよ。

猪瀬:僕は35年前に『昭和16年 夏の敗戦』という本を書いたんです。戦争が終わったのは昭和20年なのに、なぜ『昭和16年 夏の敗戦』なのか。

戦争に負けるのであれば、始めなければいい。みんな「8月15日に負けた。そして、日本は廃墟から立ち上がった」という話ばかりするから、「なんで始めたんだろう?」と僕は考えたんです。

田原:この本は素晴らしい本ですよ。自民党の石破茂さんが、事あるごとにこの本の宣伝をしてるぐらいです。

猪瀬:石破さんは、第一次安倍内閣の時に「『昭和16年 夏の敗戦』を安倍さんは読んだか?」という質疑を国会でやっています。それから、菅直人内閣の時にも「これ読んだか?」とやっている。

また、1年ぐらい前に、民進党の細野豪志が『昭和16年 夏の敗戦』を出して「安倍さん、これ読んだか?」とやっていますね。それに対して、安倍さんが「読んだと思います」と言っていました。直接渡したこともあるので、読んでくれてはいると思います(笑)。

田原:ちょっと中身を説明してもらえるかな。

猪瀬:日本は、昭和16年頃に30代前半の人達を25〜30人集めて「総力戦研究所」という機関を作っているんです。

メンバーは、財務省のキャリア官僚や、現在の共同通信にあたる同盟通信の記者、日本銀行、日本郵船、海軍、陸軍の若手といった面々です。霞が関の事務次官候補や、企業の経営者候補なども含まれていました。

そうやって作られた「総力戦研究所」で、それぞれ自分の役所や会社から資料を持ち寄って、「アメリカと戦争したらどうなるか」というシミュレーションを徹底的にやらせました。

そうすると、結局3年半か4年ぐらいで日本が負けるという結果になった。そして、実際の戦争も原爆の投下以外はすべてシミュレーション通りになった。それで『昭和16年 夏の敗戦』というタイトルにしたんです。

田原:しかも、この結果を、当の陸軍大臣の東条英機に報告しているんですよ。

猪瀬:当時、東条は近衛内閣の陸軍大臣でした。その後、すぐに総理大臣になるのですが、9月ぐらいに官邸に呼ばれて、総力戦研究所の「負ける」という報告を受けているんです。

その時、東条は「戦争というのは、日露戦争もそうだが意外なことが起きる。だから、机上の空論ではないんだ」と言ったそうです。

その後、10月に東条内閣が発足します。これまで、東条は開戦派でしたが、昭和天皇に「この流れを止めてくれ」と言われてしまう。そのため、政府と軍部の連絡会議を作って、そこでも「本当にアメリカと戦争したらどうなるか」というシミュレーションをしたんです。

それは、「総力戦研究所」がやったものと同じシミュレーションなのですが、結局時間切れになって開戦してしまうのです。

田原:元々、昭和天皇は戦争を止めさせるために、東条を総理大臣にしたんですね。

猪瀬:昭和天皇は「虎穴に入らずんば虎児を得ず」と言いました。つまり、リスクをとって、東条という開戦派の急先鋒を戦争反対に持っていこうとしたんです。東条は昭和天皇に対して忠誠心があるから、昭和天皇の意に沿うように、一生懸命まとめようとするんだけど、まとまらない。

田原:意外なことに、東条は戦争をしようと思っていなかったんですね。昭和天皇の意に沿って、戦争を止めようとするんだけど、うまくいかなかった。

猪瀬:実際に東条は、国会で「お前ひよったのか!」といったヤジを飛ばされる。つまり、当時は“空気”が先に行ってしまっているわけです。

田原:僕は20年ぐらい前に、東条家に取材に行きました。その時に、東条さんのお孫さんが手紙、ハガキを何千通持ってきて、見せてくれたんです。読んでみると、「馬鹿野郎」「意気地なし」「卑怯者」「早く戦争しろ」と書いてある。つまり、国民が戦争を始めない東条を「意気地なし」と批判していたんです。

猪瀬:学校の教科書では、ステレオタイプなことしか教えません。しかし、歴史というのは、踏み込んでみないと分からない部分もあるわけです。実際に開戦を決断した東条は、「戦犯」と言われています。元々開戦に積極的だった人間ですから、その通りではあるのですが、それでも一度開戦を防ごうとした上で、押し切られてしまうという流れがあるわけです。

実際、僕も35年前に『昭和16年 夏の敗戦』を書いた時、ある出版社の年配の編集者から「キミは東条の味方かね?」と言われました。本を読めば、僕が東条の味方ではないことはわかるのですが、そうした発言をするのが“進歩的文化人”といった空気が当時はありました。戦後の教科書の影響もあって、日本全体がそうだったと思います。

決断の“たらいまわし”が今作の見どころ

BLOGOS編集部

田原:東京裁判で、アメリカの検事は東条に「天皇から指示されたのか?」と問われた際に、「違う!俺が決めた」と主張しています。つまり、東条は自分が戦犯になることで、天皇を救ったわけです。

しかし、当時の朝日新聞や毎日新聞は、東条をボロクソに書いている。新聞というのは、そういうもんなんですよ。いつも時の権力にゴマをする。当時の権力である占領軍にゴマをすって、東条の悪口を言う。今と同じですよ。

―しかし、実際に開戦した時には、誰かが決断しているわけですよね?

猪瀬:問題はそこなんですよ。まさに今回の映画に関わってくる部分なんですが、例えば、決断しなくても会議が終わってしまう時がありますよね?

それと似たようなものなんです。結局、東条内閣は軍部と政府が別々なので、大本営政府連絡会議という合同会議を開いて、トータルで国家の意思決定をすることにしていました。しかし、その会議の議論で出てきた数字が少しずつ違ってくると、結論も違ってくる。議論をしながら段々時間切れになってくるわけです。

太平洋に西から風が吹いてくる時期が終わってしまうと、真珠湾に奇襲攻撃が出来なくなってしまう。すでに作戦がもう用意されているから、それを中止するという決断が出来ない。一方開戦するという決断も明確に出来ないのですが、段々そうせざるを得なくなって、やらざるを得なくなっているんです。

田原:一番ひどいのは、山本五十六が、「今なら戦争出来る。1年経ったらもう戦争出来ない、今なら戦える」と言っていることですね。要するに、勝つか負けるかじゃない。今なら戦えるから戦おうと。

猪瀬:つまり、不決断で始まった戦争だったわけです。

今回の映画は、最新のイノベーションであるドローンが登場しますが、ドローンを介して得た現場の情報を基に司令部が決断を下すというのが作品のテーマになっているわけです。

BLOGOS編集部

猪瀬:僕は、今年の3月に『民警』という本を出したのですが、この中で紹介しているように、現在は民間警備会社がドローンを様々な形で開発しています。
実際、原発の警備もドローンを利用しないと出来ない部分があるんです。

田原:民間警備会社というのは非武装だよね。

猪瀬:日本には銃刀法があるので、自衛隊と警察、海上保安庁といった組織以外は銃器を持てない。

アメリカでは、民間軍事会社が500〜600社あって、大体民営化されています。元海兵隊員なんかが、高い給料をもらってそういう会社に関わっているんです。

田原:東京五輪の時にドローン攻撃、あるいは、サイバーテロが起きる可能性がある。そういうのを止めるために、民間警備会社が様々な取り組みをしています。

猪瀬:僕はオリンピック招致の後、都知事を辞めてしまったわけですが、今の東京五輪に関わっている人たちは、全然ガバナンスがきいてないですよね。森とかドン内田とか。もうすぐ、僕は『東京の敵』という本を出しますから。

それはさておき、僕は辞めてから東京五輪の警備が心配になって、民間警備会社を歴史から徹底的に調べて『民警』という本を書いたんです。

―現在、五輪の費用をめぐり問題が紛糾していますが、都政においても映画の中であったような“決断のたらい回し”のようなことが起こるのでしょうか。

猪瀬:都政の場合、執行部としてはキチッと機能していますが、都議会というもう1つの壁があります。だから、今回の映画の話とは別ですね。

今回の映画は、内部での執行過程で、「誰がどう決めるか」という話です。主役であるヘレン・ミレンは大佐です。大佐というのは、会社で言えば部長みたいなもの。部長が一番辛い立場だからこそ、今回の主人公になっているわけです。

田原:イギリスの大佐が作戦の実行を決めるのだけど、これが上層部でたらい回しになる。このたらい回しが、今回の映画の見どころだよね。

猪瀬:現場の部長の判断に対して、役員がいたり、法務部が出て来たりということが起こる。この前、DeNAなんか、法務部がちゃんとしてないから、コピペして著作権侵害になっちゃったわけです(笑)。

実際、作中でも、シンガポールにいる外務大臣が出てきたり、外務大臣が「国務大臣に聞け」といったことが起こるわけです。

田原:自分で決断するのがイヤなんですよ。

[ PR企画 / 株式会社ファントム・フィルム ]

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