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オバマの有害な国防予算強制削減措置を撤廃せよ - 岡崎研究所

 トランプ陣営の政策アドバイザーを務めたジェームズ・ウールジー元CIA長官が、11月10日付のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙に、現状維持に挑戦しない限り、中国の体制と台頭を受け入れることになるという論説を書いています。要旨は次の通りです。

 米国は依然として世界最強の軍事力を持つ。敵を抑止し、戦争の帰趨を決し、平和を回復するためにその力を投射する能力を有する。今日、米国民の一部は「世界の警察官疲れ」といえるものを示しているが、安全保障に対する米国のコミットメントに対する同盟国の信頼を強化し、通常兵器とデジタルの戦域における米国の優位性の復権のために、オバマ政権によって立法化された有害な国防予算の強制削減措置を撤廃する必要がある。また、レッドラインを引き直し、米国の枢要な利益を定義し直すことをせねばならない。

 歴史を見れば、米国の介入は自己利益のためではなく、典型的には非人間的抑圧、国際法の露骨な違反、人道的危機に直面して行われて来たことが判る。我々はどこで、どう関わるかについてもっと慎重であるかも知れないが、我々が孤立主義者となることはない。

 米国は、アジアにおけるバランス・オブ・パワーの担い手であることを認識している。中国の勢力伸長から同盟国を守る決意であり続けるであろう。抑制されない拡張主義と侵略は更なる悪行を招く。この間違いは繰り返さない。中国は我々の行動は領土的野心によるものではないことを認識すべきである。

 我々は中国の増大する足跡に見合った改革が世界的な機構においてなされることを中国が欲していることを理解している。時間はかかるが、変革は不可避である。人民元がSDRのバスケット通貨の1つとされたことはその例である。オバマ政権のアジアインフラ投資銀行に対する反対は戦略的誤りであったと今日ワシントンでは広く認められている。「一帯一路」イニシアティブに対する次期政権の対応はもっと暖かなものであることを希望する。

 両国の間のイデオロギーの違いについてももっと巧く管理されるべきである。自由を広げることに対する米国のコミットメントに揺るぎはない。しかし、中国の社会・政治のシステムに挑戦することは危険な努力であることは益々明らかである。我々はそのシステムを好みはしないが、それをどうかせねばならないというわけでは必ずしもない。従って、アジアの現状維持に挑戦しないという中国のコミットメントと引き換えに、米国は中国の政治的・社会的構造を受け入れ、如何なる方法であれ邪魔立てはしないという大きな取り引きが成立するように思う。それは明示的な合意ではないが、この先何年もの間両国関係の指針となる暗黙の了解である。

出 典:James Woolsey‘Under Donald Trump, the US will accept China’s rise – as long as it doesn’t challenge the status quo’(South China Morning Post, November 10, 2016)
http://www.scmp.com/comment/insight-opinion/article/2044746/under-donald-trump-us-will-accept-chinas-rise-long-it-doesnt

 この論説で、米国はアジアの同盟国を守ると述べていることは安心材料です。米国の国防予算を拡大し、軍備の増強を図ることは、トランプ周辺がしきりにいっていることですから、まず間違いないでしょう。論説は、アジアに配備する軍事力も増強し、中国に傾いたバランス・オブ・パワーの回復を図るといっているようですから、これも日本として歓迎です。

 論説の筆者は、クリントン政権でCIA長官を務めており、元来民主党系だと思いますが、国防予算の強制削減措置を撤廃するとのトランプの主張に賛同したことが、トランプ陣営に参加した主たる理由だと筆者自身、本年9月の参加当時、説明しています。

南シナ海、東シナ海で中国がやっていることは現状維持に対する挑戦

 しかし、それ以上のことは明らかではありません。現状維持への挑戦は認められないと言いますが、南シナ海、東シナ海で中国がやっていることは現状維持に対する挑戦以外の何物でもありません。中国の拡張主義を非難していますが、米国のとるべき行動は明らかではありません。レッドラインを引き直し、枢要な利益を定義し直すこととの関係で、南シナ海や東シナ海はどう位置付けられるのかにも不安が残ります。

 現状に鑑みれば、アジアの現状維持に挑戦しないという中国のコミットメントと引き換えに、米国は中国の体制を受け入れるという論説の末段がいう取り引きはいかにも奇怪な発想です。しかし、論説のこの下りを読んで思うことは、トランプ政権は、色々な要素を混ぜこぜにしたトランプ次期大統領得意の取り引きを中国と試みる可能性があるのではないかということで、日本としては注意が必要なように思います。

 オバマ政権がアジアインフラ投資銀行(AIIB)に反対したことは、戦略的間違いだとワシントンで認識されているとは知りませんでしたが、これも上述の取り引きの駒なのでしょうか。しかし、トランプが中国にいいように使われかねない銀行にお金を出すようには思えませんし、議会の共和党がこれに応ずるようにも思えません。

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