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- 2011年08月04日 01:54
原発事故関連訴訟のゆくえを予想する(その3:東京電力の法的責任)
次に、損害賠償の費用を誰がどうやって負担していくことになりそうか、今後の展開を予想してみます。
長くなりそうなので2回にわけます。今回は、東京電力の賠償責任の有無という「現行法の解釈」の話。次回は、東京電力単独では払いきれない賠償の費用を誰がどうやって負担していくことになりそうかという「今後の法改正の見通し」の話。
今回の結論を先に言うと、
・現行法では、東京電力にすべての損害への賠償責任がある可能性が高い
(天災地変による免責が認められる可能性は低い)
・東京電力は訴訟で天災地変による免責を求めて争うことはしないと予想
1.天災地変による免責が認められる可能性は低い
東電による賠償責任の根拠は、原子力損害の賠償に関する法律第3条第1項。
したがって、損害が「異常に巨大な天災地変」により生じていれば免責されますが、これに該当するでしょうか。
まず確認しておきたいのは、免責に該当するかは、地震全体の規模や被害の大きさで決まるのではなく、原発の地点で「異常で巨大」だったかで決まるということ。
したがって、「地震の規模が関東大震災の44倍だった」とか、「死者が2万人いた」とかは、全く関係ありません。
福島原発で起きたことは、震度6強の地震(加速度550ガル)、13mの高さの津波。
これが「異常で巨大」と言えるかどうかです。
【画像】
↑「6強」のイメージ画像
まず、地震の揺れが「異常で巨大」とはとうてい言えません。震度6強なら国内で3年に1回ぐらいは起きています(2001年以降で6回発生)。
また、過去の国会答弁などで「関東大震災の3倍」という基準を例示したことがあるようですが、関東大震災は300ガル程度だったので、3倍には達していません。
津波については検討の余地があります。
三陸の湾内ではない、太平洋岸の平野部で13メートルというのは、「異常で巨大」と言えるかもしれません。
しかし、ここでもう1つ確認しておきたいのは、原因となった天災地変が原発の場所で物理的に「異常で巨大」であれば無条件に免責になるのではなく、それによる損害発生が防げなかったものであってはじめて免責になるということ。
なぜなら、原賠法第3条第1項の規定は、原子力事業者の賠償責任を、民法第709条の不法行為責任より重くする特例であって、軽くする特例ではないから(軽くする面があるなら、「民法第709条の規定にかかわらず」という記述が置かれるはず)。
つまり、原賠法第3条第1項で免責される場合は、すべて民法第709条で免責される場合の中に含まれているはずです。
ここで、民法第709条では過失があって損害を与えたなら賠償責任があるのだから、原賠法第3条第1項の「異常で巨大な天災地変」も物理的な事象の面だけでなく、損害発生に至る過失の有無も含めて判断すべきものと考えられます。
13メートルの津波で、損害の発生が防げたかどうか。
ここの評価はどちらもあると思いますが、私は防げたと思っており、ゆえに天災地変による免責は認められないと考えています。
13メートルの津波は過去にもあったわけで、常識的な想定の外ではあったとしても、原子力事故の影響の重大性を考えれば、この規模の津波がきても大丈夫なように安全の幅の中には入れておくべきだったと思います。
また、津波は巨大とはいえしょせん水なので、揺れに比べれば対応は簡単なはず。重要区画の水密をきちんとやるとか、非常用発電設備を高い場所に上げておくとか、それほど高くない費用で十分に対応できたと思います。
法律による基準を満たしていたことは反論になりません。賠償責任が認められるかどうかは、法律を守っていたかどうかではなく、その施設の性質上本来備えているべき安全性を備えていたかどうかで判断すべきものです。
ま、ここの考え方は争いがあるでしょうから、確定的な物言いは避けておきます。
いずれにしても、「地震の規模が関東大震災の44倍」「死者が2万人」だから異常で巨大なので免責、なんて話はナンセンスだということは強調しておきます。
2.東京電力は訴訟で天災地変による免責を求めて争うことはしない
1で書いたようなことは、当然、東京電力もわかっているでしょう。
天災地変による免責が認められる可能性は低いと評価しているはずです(でなければ、賠償の仮払いには応じていないでしょう)。
さらに、訴訟で免責を争うことが難しい事情もあります。
特に、東電が免責された場合に、国が責任を負うわけではないことが大きい。
国に民法第709条の不法行為責任がある可能性もありますが、不法行為は過失が必要なので、東電は免責かつ国は責任ありとなるには、東電は損害を防げなかったけど国は防げたとなる必要があり、両方認められる可能性は極めて低い。
したがって、東電が免責を求める場合の主張は、「国が責任を負うべき」ではなく、「被害者が損害を受忍すべき」という形にならざるを得ず、これは主張しにくいし、裁判官も認めにくいでしょう。
ということで、東電にとって訴訟で免責を求めて争うことは得策ではありません。
いざとなれば訴訟で争うぞという構えを交渉のカードにして、政治の場でできる限りの譲歩を引き出す方が、結果的に得られるメリットが大きいと考えるでしょう。
今の東電が、政治の場で得たいものはいっぱいありますしね。
・賠償額の実質的軽減(国が一部を負担、国からの貸付けでの有利な条件)
・破綻処理の回避
・発送電一体と地域独占の維持
などなど。
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長々と書きましたが、何だか当たり前のことばかりで、1行で書けた気もします。
「東電免責? アホか、認められるわけないだろ、常識的に考えて」
次回は、今後の法改正の見通しについて。
国が賠償額の一部負担をするか、他の電力会社の負担は今回の賠償に充てられるか、今後の事故について賠償額の上限が設けられるか、東電は破綻処理されるか、発送電分離はされるか、などなど。
長くなりそうなので2回にわけます。今回は、東京電力の賠償責任の有無という「現行法の解釈」の話。次回は、東京電力単独では払いきれない賠償の費用を誰がどうやって負担していくことになりそうかという「今後の法改正の見通し」の話。
今回の結論を先に言うと、
・現行法では、東京電力にすべての損害への賠償責任がある可能性が高い
(天災地変による免責が認められる可能性は低い)
・東京電力は訴訟で天災地変による免責を求めて争うことはしないと予想
1.天災地変による免責が認められる可能性は低い
東電による賠償責任の根拠は、原子力損害の賠償に関する法律第3条第1項。
○原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号)
(無過失責任、責任の集中等)
第3条 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
したがって、損害が「異常に巨大な天災地変」により生じていれば免責されますが、これに該当するでしょうか。
まず確認しておきたいのは、免責に該当するかは、地震全体の規模や被害の大きさで決まるのではなく、原発の地点で「異常で巨大」だったかで決まるということ。
したがって、「地震の規模が関東大震災の44倍だった」とか、「死者が2万人いた」とかは、全く関係ありません。
福島原発で起きたことは、震度6強の地震(加速度550ガル)、13mの高さの津波。
これが「異常で巨大」と言えるかどうかです。
【画像】
↑「6強」のイメージ画像
まず、地震の揺れが「異常で巨大」とはとうてい言えません。震度6強なら国内で3年に1回ぐらいは起きています(2001年以降で6回発生)。
また、過去の国会答弁などで「関東大震災の3倍」という基準を例示したことがあるようですが、関東大震災は300ガル程度だったので、3倍には達していません。
津波については検討の余地があります。
三陸の湾内ではない、太平洋岸の平野部で13メートルというのは、「異常で巨大」と言えるかもしれません。
しかし、ここでもう1つ確認しておきたいのは、原因となった天災地変が原発の場所で物理的に「異常で巨大」であれば無条件に免責になるのではなく、それによる損害発生が防げなかったものであってはじめて免責になるということ。
なぜなら、原賠法第3条第1項の規定は、原子力事業者の賠償責任を、民法第709条の不法行為責任より重くする特例であって、軽くする特例ではないから(軽くする面があるなら、「民法第709条の規定にかかわらず」という記述が置かれるはず)。
つまり、原賠法第3条第1項で免責される場合は、すべて民法第709条で免責される場合の中に含まれているはずです。
ここで、民法第709条では過失があって損害を与えたなら賠償責任があるのだから、原賠法第3条第1項の「異常で巨大な天災地変」も物理的な事象の面だけでなく、損害発生に至る過失の有無も含めて判断すべきものと考えられます。
13メートルの津波で、損害の発生が防げたかどうか。
ここの評価はどちらもあると思いますが、私は防げたと思っており、ゆえに天災地変による免責は認められないと考えています。
13メートルの津波は過去にもあったわけで、常識的な想定の外ではあったとしても、原子力事故の影響の重大性を考えれば、この規模の津波がきても大丈夫なように安全の幅の中には入れておくべきだったと思います。
また、津波は巨大とはいえしょせん水なので、揺れに比べれば対応は簡単なはず。重要区画の水密をきちんとやるとか、非常用発電設備を高い場所に上げておくとか、それほど高くない費用で十分に対応できたと思います。
法律による基準を満たしていたことは反論になりません。賠償責任が認められるかどうかは、法律を守っていたかどうかではなく、その施設の性質上本来備えているべき安全性を備えていたかどうかで判断すべきものです。
ま、ここの考え方は争いがあるでしょうから、確定的な物言いは避けておきます。
いずれにしても、「地震の規模が関東大震災の44倍」「死者が2万人」だから異常で巨大なので免責、なんて話はナンセンスだということは強調しておきます。
2.東京電力は訴訟で天災地変による免責を求めて争うことはしない
1で書いたようなことは、当然、東京電力もわかっているでしょう。
天災地変による免責が認められる可能性は低いと評価しているはずです(でなければ、賠償の仮払いには応じていないでしょう)。
さらに、訴訟で免責を争うことが難しい事情もあります。
特に、東電が免責された場合に、国が責任を負うわけではないことが大きい。
国に民法第709条の不法行為責任がある可能性もありますが、不法行為は過失が必要なので、東電は免責かつ国は責任ありとなるには、東電は損害を防げなかったけど国は防げたとなる必要があり、両方認められる可能性は極めて低い。
したがって、東電が免責を求める場合の主張は、「国が責任を負うべき」ではなく、「被害者が損害を受忍すべき」という形にならざるを得ず、これは主張しにくいし、裁判官も認めにくいでしょう。
ということで、東電にとって訴訟で免責を求めて争うことは得策ではありません。
いざとなれば訴訟で争うぞという構えを交渉のカードにして、政治の場でできる限りの譲歩を引き出す方が、結果的に得られるメリットが大きいと考えるでしょう。
今の東電が、政治の場で得たいものはいっぱいありますしね。
・賠償額の実質的軽減(国が一部を負担、国からの貸付けでの有利な条件)
・破綻処理の回避
・発送電一体と地域独占の維持
などなど。
------------------------------------------------------------------
長々と書きましたが、何だか当たり前のことばかりで、1行で書けた気もします。
「東電免責? アホか、認められるわけないだろ、常識的に考えて」
次回は、今後の法改正の見通しについて。
国が賠償額の一部負担をするか、他の電力会社の負担は今回の賠償に充てられるか、今後の事故について賠償額の上限が設けられるか、東電は破綻処理されるか、発送電分離はされるか、などなど。



