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「国民が政策を選ぶ」ことの限界と可能性

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 7/8のエントリー「九電『やらせメール』けしからん……自分のことも白状します
」の最後で、
 ただ、このときの経験は「国民に選択肢を提示して選んでもらう」という、教科書的には行政のあるべき姿とされる手法が、現実にはほとんど不可能に近いことを思い知らされた、苦い経験でもありましたけど。
と書きましたが、少し舌足らずだった気がします。

 蛇足かもしれませんが、「行政が選択肢を提示し国民が選ぶ」ことについて、どういう限界を感じ、どうすればいいと思っているのか、補足しておきます。

1.限界を感じたこと

(1) 国民は政策を選択する能力はある、しかし、時間がない

 私は、専門家と非専門家の間で、よりよい政策を選び取る能力にあまり差はないと思っています。

 ただそれには、非専門家が判断するために必要な知識を十分に得ていれば、という条件がつきます。

 この「十分に」というのが曲者で、私の感覚としては、新聞やテレビの報道を見たりネットで調べたというのでは不十分(情報量の不足に加え、質の面でも、もともと持っていた意見を補強する情報しか得られない)。

 どういう政策かにもよりますが、通常は、数日間は缶詰め状態で専門家から説明を受けるぐらいでないと、責任を持って選ぶために十分な知識は得られないと思います。

 誰も忙しいので、自分の仕事でないことのために、そこまで時間を使う人はいません。
 国民は構造的に知識不足にならざるを得ないというのが、「国民が政策を選ぶ」ことの大きな限界なのだと感じています。

(2) 各選択肢のメリット・デメリットが何かは、専門家間でも一本化できない

 仮に何らかの形で、国民の多くが十分な知識を得るために時間を使うことができても、もう1つ大きな問題が残ります。

 それは、政策の各選択肢のメリット・デメリットが何かは、専門家間でも一本化できないということ。

 そもそも論争がある政策というのは、何がメリットで何がデメリットかについても論争があります。そのような状況を正確に伝えようとすれば、「選択肢Aは○○モデルによればメリット大・デメリット小、△△モデルによれば逆にメリット小・デメリット大です」という形になりますが、これでは判断の役に立ちません。

 例えば、TPP(環太平洋経済連携協定)参加による経済への影響について、内閣府、経済産業省、農林水産省が正反対の試算を発表したという出来事

がありました。
 米国や豪州など9カ国が交渉中の「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」などに参加した場合の経済的な影響について、内閣府、経済産業、農林水産省は27日、それぞれ試算を発表した。内閣府と経産省が実質国内総生産(GDP)へのプラスの効果を打ち出す一方、農水省はGDPと雇用の大幅減を指摘。各府省がばらばらの試算結果を示したことで、政府・与党内のTPP議論がさらに混迷する可能性もある。

 内閣府の試算は、TPP参加に伴う関税撤廃による貿易拡大などにより、日本の実質GDPが0.48〜0.65%(2.4兆〜3.2兆円)押し上げられるとした。経済統合を推進する経産省は、日本がTPPなどに加わらず、米国、欧州連合(EU)など主要国との自由貿易交渉で韓国の先行を許した場合、自動車、電気電子、機械産業の3分野で韓国にシェアを奪われると分析。20年時点で実質GDPが1.53%(10.5兆円)、雇用が81.2万人押し下げられるとした。

 一方、農業保護の観点からTPPに慎重な農水省の試算では、コメなど主要農産物19品目の関税を完全撤廃し、政府が農業支援策を何も講じない場合、食料自給率(カロリーベース)が現在の40%から14%に低下。関連産業を含め実質GDPを1.6%(7.9兆円)、就業機会を340万人程度減少させるという。(2010年10月27日 毎日新聞 より)
 「これじゃわけがわからないから一本化しろ」と批判されたわけですが、実質的に意味のある形で一本化するのは難しいでしょうね。

 そもそも、政策による影響のモデル分析というのは、唯一無二の結果を予測する神の目ではなく、こういう仮定を置けばこういう結果になると説明する手段でしかありません。

 違う仮定を置けば、違う結果になるのは当然のことです。

 各選択肢が持つ意味(メリット・デメリット)をわかりやすく説明しろと言うのは簡単ですが、現実には、一見矛盾して見える複数の説明の集合体しかありません。
 
 「わかりやすく一本化しろ」と言われれば、意図的にどれかを強調して説明するしかなく、それはどれかの選択肢を意図的に推奨する行為と何ら変わりありません。

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