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「改革」と期待の危うい関係

 「改革」と名の付くものには、もちろんさまざまな期待が被せられますし、なかにはそれが前に進める原動力だとする人も現れます。ただ、その期待の方が先行してしまうとどうなるのか――。その弊は、期待に目がくらみ、あるいはそれに後押しされて、冷静な現状分析がなされないまま、「改革」のレールが引かれる当然の結末として、結果が出せないということだけに、実はとどまりません。さらに、深刻なのは、それでも期待にしがみつくという現象が生まれることです。

 その結果として、動き出した列車は止まらない。もちろん、れっきとした期待の対象が存在し、それが「改革」をさらに前に進めているのだ、と強弁する人も登場します。しかし、「見直し」という建て前の議論で、見つけられ、被せられる期待は、「改革」の当初の目的や描き方の正しさを問うことから離れ、いつしか列車を止めないことを目的に繰り出されているものにもなりかねないのです。

 これが、まさに今回の司法改革が陥っている現実ではないでしょうか。増員政策による過剰状態が明らかになりながらも、弁護士会のなかにはいまだに有償・無償を区別することなく、その増員弁護士を支えるニーズの存在へ期待をつなぐ論調が延々と存在しています。なかには非採算的なニーズにもビジネスチャンスがあるとか、自らの成功体験をあてはめて期待することの正しさをいうものもあります。「受け皿」としての組織内弁護士にしても、あるいはもはや弁護士ではない「法曹有資格者」という枠組み転換にしても、期待の中身はよく見れば、依然不透明です。

 志望者減という現象に対しては、「改革」の法科大学院本道主義を守ることを念頭に、合格率の向上で志望者が返ってくるという期待が被せられますが、そういう方々が、肝心要の弁護士の経済状況の好転(あるいはそれがもたらされない影響)をその先にどのくらいリアルに期待できているのかは皆目みえません。本道主義を守るために予備試験を制限した場合、今のより人材が離れるという結果や、統廃合と志望者減によって、生き残った法科大学院の累積合格率が仮に7割を達成したとしても、それがあるべき法曹の選抜の形として望ましいのかといった疑問は、彼らの期待の前では無視されているようにみえます。

 裁判員制度にいたっては、「改革」が一顧だにせず、そもそもこの制度の目的として全く考慮されていない誤判防止を、この制度に期待する論調も被せられています(司法ウオッチ「編集長コラム『飛耳長目』~冤罪防止と裁判員制度の危うい期待感」)。一方で、民意を反映する建て前の制度の民意離反が進むなかで、筋違いの期待感が制度存続を後押しする格好にもなりかねないようにとれます。

 期待に水をさすような現実論に対して、「ネガティブ情報」として批判する声が聞かれます。意図的に「改革」の足をひっぱっている、「改革」批判が目的化しているといわんばかりの批判も耳にします。前向き論があたかもその姿勢のよさだけを根拠に繰り出されますが、それは見方を変えれば、「ネガティブ情報」というレッテルによって、耳を貸すなということだけにその目的があるとしかとれません。

 最近も、村越進・前日弁連会長がある媒体で、弁護士の生活困窮の情報が耳に入ってこない、ネガティブ情報が独り歩きしている、と述べていることがネットで取り上げられていました(武本夕香子弁護士のブログ)。もちろん、このことだけで、弁護士会主導層に本当に情報が届いていないのか、それとも彼らが意図的に耳を貸そうとしていないのかは分かりません。

 ただ少なくとも、前会長の認識を裏打ちするかのように、「改革」の影響が深刻化すればするほど叫ばれるようになってきた「魅力を語れ」「メリットに目を向けろ」という掛け声は、社会に誤ったメッセージを伝える危険性があるだけではなく(「弁護士の『魅力』をめぐる要求が示すもの」)、内向きには前記期待に水をさす現実論に、耳を貸すなというメッセージになっていることも抑えなくてはなりません。

以前、法曹養成改革の見直し議論のなかで、ある有識者が「改革」が生み出して新制度を撤廃して元に戻すという発想を、「そこまで恐ろしいこと」と表現したことがありました(「法曹養成論議の気になるシーン」)。後戻りに恐怖する方々も、この「改革」には確かに存在しています。少なくとも私たちは、手を変え品を変え繰り出され、煽られる「改革」への期待と、列車を止めたくないという意図によるバイアスについて、冷静に見つめる必要があります。

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