- 2016年12月08日 00:00
今は予測や情勢分析のスキルを徹底して見直してみるべき時
2/2◼️専門家ほど陥りやすい罠
中でも、『心理バイアスの直観的理解自分の思考に認知的 、感情的バイアスが影響していないか確認することの重要性を意識している 』という部分こそ、本書全体に通底する最も重要なメッセージだと思う。少なくとも私はそのように受け取った。
要は、専門家としての過信、思い込み、見栄等が、予測にバイアスがかかり、間違ってしまう一番大きな原因の一つであり、それを自分自身で見つけ、認め、変えていく柔軟性の有無が問われているということだ。世評の高い専門家、 IQの高い天才や秀才、その分野で経験が豊富な実務家等でさえ(というより場合よってはそれ故にこそ)、自分自身を過信し、あるいは立場に固執し、その結果、『チンパンジーのダーツ並みの精度』の予測や判断となってしまう。実際、なまじ『専門家』の看板が大きいと、認知バイアス(ある対象を評価する際に、自分の利害や希望に沿った方向に考えが歪められたり、対象の目立ちやすい特徴に引きずられて、ほかの特徴についての評価が歪められる現象)の罠にも落ちやすい。その一方で、『専門家』の予測は重要な判断の糧となることが少なくないから、取り返しのつかない悲劇に直結したりする。
最近の例で言えば、何と言っても米国のイラク侵攻を正当化した、CIAの『サダムフセインのイラクは大量破壊兵器を隠し持っている』との誤ったレポートだろう(この場合、予測というより、情勢分析というべきかもしれないが、問題の本質はどちらも同じなので、あまりこだわらずにおく)。このレポートは米英等の有志連合のイラク侵攻(2003年3月)の口実となり、その後、長く泥沼のような戦闘行為とテロの応酬が続くことになる。(但し、そもそもこのレポートはイラク侵攻を正当したかった米国首脳の息のかかった捏造である疑いも濃厚にある。)
◼️史上何度も繰り返されている
さらに歴史を遡ると、同様の事例として、ケネディ大統領時代に、あやうく当時のソ連との核戦争を誘発しかかった、キューバ危機(ピッグス湾事件)における情勢判断の誤認がある。CIAによるキューバ政府軍の過小評価、『キューバ軍の一部が寝返る』という根拠のない判断等に基づくずさんな作戦計画が、侵攻作戦の大失敗を引き起こすことになった。
ケネディ大統領といえば、ケネディ政権と、ケネディ大統領暗殺後にそれを継いだジョンソン政権において、国防長官を務めたロバート・マクナマラを中心とした『ベスト&ブライテスト』*2である人々が、政策を誤り、ベトナム戦争の泥沼に米国を引きづりこむことになった件も有名だ。これはジャーナリストのディビッド・ハルバースタムがピューリッツァー賞を受賞した同名の著作で当時の様子を詳細に描き出しているが、どうして最良(ベスト)かつ最も聡明(ブライテスト)なはずの人々がこのような愚かしい(らしくない)失敗をしてしまうのか、というこれまで述べてきたのと同様のテーマが扱われている。こうしてみると、米国も、史上、同様の失敗を何度も繰り替えしているということになりそうだ。
◼️日本人も同じ
もっとも日本人もそれを笑うことなど到底できない。日本にも、先の戦争中の失敗(ノモンハン、ガダルカナル、インパール等での作戦の失敗)の原因を分析した、『失敗の本質―日本軍の組織論的研究 』*3という優れた著作があり、ここに示された失敗の根本原因もほぼ同じといっていい。当時最も優秀とされた軍事官僚や将校の信じられないほどの愚かしい予測/判断/意思決定を明らかにしている。しかも、困ったことに、ここに出てくる旧帝国陸海軍の所業と同類系の行いは、今に至るも日本の組織の彼方此方で、連綿と繰り返されている。
◼️貴重な教訓をどう生かしていくか
これは、おそらく地域や歴史をまたぐ普遍的な問題というべきなのだろう。もちろん、専門家や識者と呼ばれる人々の中に、素晴らしい『予測者』がいることを全面的に否定するものではない。私も、素晴らしい専門家や研究家で、予測能力にも卓越した能力を持つ人を沢山知っている。しかしながら、同時に、専門家が自分の間違いを認めることがいかに難しいかについても、苦い経験を通じて多くの事例を知っているつもりだ。だから、この教訓を身に刻みつけるためには、上記にあげたような書籍を一度流し読むくらいでは話にならないことも承知している。読書はきっかけに過ぎず、日々、日常の仕事の中で、繰り返し思い出して習慣化していくしかない。
今世界はますます混乱の極みに突入しつつある。それでなくても難しい『予測』や『情勢判断』はさらに一層難易度の高いスキルになろうとしている。だが、それだけに、そのスキルの必要度はますます高くなっているとも言える。せっかくなので、これを機会に自分なりの『予測者』像を探求して、自分にもできることから初めてみようと思う。
- SeaSkyWind
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