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AI時代の弁護士の姿 - 川手恭輔

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チャットで弁護士をアシストするAI

 現代の企業では、日常的な活動情報の大半が電子処理されている。企業による犯罪や不祥事、あるいは企業間の紛争などによって企業内情報の調査が必要になると、膨大な量のデジタルデータを法的に正しいプロセスで収集して解析する必要が生じる。そのような、コンピュータやネットワークシステムのログや記録、状態を詳細に調査し、過去に起こったことを立証する証拠を集めるための科学捜査はコンピュータフォレンジック(forensic)と呼ばれている。

 コンピュータフォレンジックのデータを検索するには、トレーニングを受けてツールを使いこなす必要がある。AIリーガルボットはInCircle上で動くチャットボットで、コンピュータフォレンジックによって収集した膨大なデジタルデータから、証拠として必要なものを対話形式で探してくれる。

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左から、米川氏、佐々木氏、高橋氏

高橋氏 どこにいてもスマートフォン(InCircle)を使って、対話形式で絞り込みながら必要な証拠を検索できるのはありがたい。

 InCircleのチャットボットは、完全な自然言語でではなく定型のフォームベースで対話をする。

米川氏 「コンピュータフォレンジックのデータの検索」という目的に特化すれば、自然言語ではなくプログラムされたフォームベースの対話の方が使いやすく効率がよい。

佐々木氏 ディープラーニング技術によって、テキストだけでなく画像解析された写真の検索も可能になった。AIリーガルボットとの対話で検索した証拠データに基づいて、AIリーガルボットに調査レポートを作成を指示することもできるようになる。高橋先生に実際に使ってもらいながら製品開発を進めている。

 高橋弁護士は大学(経済学部)を卒業後、いくつかの企業で働き、IBMでデータベース関連の仕事などを経験したのちに弁護士の資格を取得したという異色の経歴を持つ。オラクルのデータベース管理者の最上位の資格を持ち、シスコのネットワーク技術者の認定も受けている。AIのような革新的な技術で市場に変革を起こすためには、その市場に詳しいドメインエキスパートの参加が欠かせない。

 5月16日付けの米ワシントンポストは、米国の大手弁護士事務所で、破産関連の業務をアシストするロボット(AI)弁護士が採用されたと報じた。IBMのWatsonという技術を利用してROSSインテリジェンスが開発したROSSというAIは、(もちろん弁護士資格を持つ訳ではないが)経験の浅い弁護士が担当していた仕事を担当することになるという。

 これまで弁護士は、いくつかのソフトウェアを駆使して、法律を閲覧する仕事に多くの時間を費やしていた。弁護士はROSSが抽出した案件に関連する情報をもとに、ROSSと対話しながら検討を進めていくことができる。その過程を学習することによって、ROSSはその能力を向上させていくという。ROSSが破産関連の業務以外に仕事の幅を拡大することは時間の問題だろう。

弁護士は二極化していく

 野村総研は2015年12月に『雇用の未来』と同様の分析アルゴリズムを用いて、国内の職業について人工知能やロボット等で代替される確率を試算した結果、10~20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能との推計結果が得られたと発表した。

 2012年に労働政策研究・研修機構が発表した『職務構造に関する研究』に列挙されている601の職業が対象で、もちろん司法書士、行政書士、弁理士なども含まれているが、野村総研が公表したプレスリリースでは、それらは人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業には含まれていない。しかしAIは確実にそれらの仕事を自動化しつつある。

 どうやら、日本の弁護士の仕事がコンピュータに奪われることは(しばらくの間は)なさそうだ。しかし、AIを育てて使いこなすことができる弁護士と、そのようなAIの指示を受けて働く弁護士に二極化していくだろう。前者になるには、高橋弁護士ほどのAIやITについての深い知識と理解は必要ではないにしても、AIを積極的に活用して自らの仕事を高度化して行かなければならない。これは司法書士、行政書士、弁理士などが、AI時代の活路を見出すためにも必要なことだ。

法令・判例データベースの整備が課題

 弁護士の訴訟業務においては、案件に関連する法令や条例、そして過去の判例を抽出することは基本的な仕事だ。

高橋氏 法令は総務省でデータベース化されているが、条例は一部の地方自治体がホームページに掲載しているだけで、それらの仕組みがバラバラで横断的に調べることが難しい。検索可能なものもキーワードによる検索だけが可能で曖昧検索ができない。また判例については、最高裁が選んだ代表例だけが公開されているが網羅性が乏しく、民間が有料で提供しているものも検索性が良いとはいえない。

 京都大学大学院のホームページによると、米国の判例は、その数が膨大であるがゆえに検索システムが極めて機能的に構成されているという。連邦最高裁、連邦控訴裁、連邦地裁 、州裁判所ごとに判例を検索できるサイトがあり、LexisNexisやWestlawなど収録データの網羅性や検索機能の優秀性、速報性などに優れたサービスが存在する。

 政府はIoTサービスの創出支援やAIネットワーク化の推進などに積極的だが、リーガルテックの分野で米国に遅れを取らないように、法令や判例などのデータベース整備にも取り組むべきだろう。

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