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- 2016年12月06日 05:00
キュレーションメディア問題はディー・エヌ・エーの成果追求風土に原因あり? - 朝生容子(キャリアコンサルタント/産業カウンセラー)
2/2■業績に直接影響しない要素は軽視した?
ディー・エヌ・エーは2015年度の決算説明会で、新たな事業の柱として、今回問題となったキュレーションプラットフォーム事業を2016年度下期に黒字化し、2017年度には利益貢献できるまでに育てる計画を発表していました。その達成のために、経営陣も含めて、売上最優先に走ってしまったことは想像に難くありません。
この状況の中で、社員は売上のような目に見える成果を競い合うようになっていったことは容易に想像できます。成果をあげて、次の成長事業に自分のフィールドを移していかないと、ディー・エヌ・エー社員である限り、下手をすると永遠に成長の余地のない事業部門に残らざるを得ない状況に陥りかねないからです。
そうした状況の中で、業績に直接影響のない、いや、見ようによっては「売上アップの阻害要因」と考えられる著作権管理やコンプライアンスといった要素は軽視されがちになったのではないでしょうか。前述の「パーミッションレス方式」は、ユーザー志向の意思決定をめざしたものであったはずです。しかし、大企業となった組織には、経営者の芯の意図が末端まで浸透するのは難しいのが現実です。「ユーザーの支持がある=売上があがる事業ならゴーサイン」と、誤解が生じてしまったと考えられます。
コンプライアンスは、「守って当たり前のもの」。守らなかったときの罰則はあるものの、厳密に守ったからと言って、そのこと自体で評価されることは、ほとんどありません。そのため、評価につながる売上アップなどが優先されがちです。しかし、売上アップとコンプライアンスと、二律背反のことを両立させるのが経営でます。ディー・エヌ・エーでは、目に見える成果を追い求めるあまり、評価軸が偏ってしまい、コントロールが効かなくなっていたのではないでしょうか。
■組織の活力を失わずに改革をするには?
今回のディー・エヌ・エーの事件をきっかけに、私が思い出したのはリクルートのことです。若手に大幅な権限移譲を行いながら、新規事業で成長を果たしたという点で、リクルートとディー・エヌ・エーとは非常に似た文化を持っています。
リクルートは、かつてトップによる未公開株贈賄事件で糾弾を受け、バブル崩壊後の事業の行き詰まりも重なり、冬の時代を送りました。
そんなリクルートが復活を果たしたのは、社員が社内ではなく、お客様に真摯に向き合い続けたことで、顧客の支持を失わずに済んだからです。元リクルート・フェローの藤原和博氏は、著書で以下のように述懐しています。
「結果的には、リクルートというよりは、営業マン一人ひとりのお客様に相対してやっていたサービスが、ギリギリのところで会社の信用をつなぎとめた。また、リクルートという社名は傷ついても、各情報誌のブランドに瑕がつくことはなかったことも大きい。(中略)半年間、マスコミのリクルートたたきが続いても、読者と顧客は離れなかった。」(「リクルートという奇跡」2002年9月 文藝春秋刊)
藤原氏によると、この事件を機に、創業者である江副氏の個人商店的組織から、本当の意味で社員個々が立つ組織に脱皮できたとも語っています。
今回問題となったディー・エヌ・エーのキュレーション事業については、残念ながら「お客様と相対し」ている状態ではなく、社内の評価軸に向いているようです。であるならば、まず顧客が本当に何を望んでいるのか、誠実に向き合うことが必要なのではないでしょうか。
ディー・エヌ・エー全体で見たときに、その要素は十分にあると思います。例を挙げると、横浜ベイスターズや横浜スタジアムの経営です。
今年、久しぶりに横浜スタジアムに野球観戦に出かけ、サービスレベルの向上に目を見張りました。ディー・エヌ・エーがオーナーとなってもらって、本当に良かったと思っています。
肩書や年功に囚われない実力主義は、組織の活力を維持するためにも重要です。また経営陣の意思や机上の分析より、「ユーザーエクスペリエンス」を重視することも決して間違ってはいません。しかし、ユーザーの期待には、コンプライアンスに基づく「信頼性」への期待も含まれています。
ディー・エヌ・エーは自らを「清々しく、泥臭く、逆境を楽しむ 飽くなき挑戦を続ける、永久ベンチャー」と称しています。ぜひこの逆境を、自らを鍛える機会とし、新たな成長のきっかけとされることを期待しています。
【参考記事】
■英国首相選ではなぜ「子供を持つ母親」が不戦敗したのか?
http://sharescafe.net/49083976-20160715.html
■SMAP騒動の裏に見える「中年の危機」
http://sharescafe.net/47565368-20160120.html
■近鉄車掌飛び降り問題を、「怒り」の視点から考えてみた。
http://sharescafe.net/49684012-20161003.html
■「女性活躍推進法」は女性を追いつめる両刃の剣?
http://sharescafe.net/48120829-20160322.html
■石原さとみさん主演「地味にスゴイ!校閲ガール」は報われない仕事をやっていると思った時にお勧めしたい。
http://sharescafe.net/49959839-20161109.html
朝生容子 キャリアカウンセラー・産業カウンセラー
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