- 2016年12月05日 08:30
【読書感想】サイコパス
2/2「いま、『サイコパス』と呼ばれる人間の性格・性質について、どこまでがわかっているのか?」
「それは、どこまでが遺伝的な要因で、後天的な環境因子の影響はどのくらいあると考えられているのか?」
いわゆる「頭の良さ」に関してはどうでしょうか。
サイコパスを題材にしたフィクションの影響もあって、サイコパスは「IQが高い」とか「天才」とかいうイメージを持っている人もいるのではないかと思います。
しかし、サイコパスと一般人のIQの平均は、それほど変わりません。統計的に有意な差が認められないのです。社会性を検査する尺度に注目してカテゴライズすると、むしろサイコパスのIQはやや低めに出ます。サイコパスが総じて優れた知能を持つわけではなく、一般人と同じように、賢い人もいれば頭が悪い人もいる、と考えるとよいでしょう。
IQが高いと勘違いされがちなのは、社会通念上「普通の人はこういうことをしない」とされている倫理的なハードルを、サイコパスは平気で乗り越えてしまう、というより、ハードルなどもとから存在しないかのように振る舞うからです。
普通の人は「自分も他人も、普通はルールを守るだろう」という性善説を信じて行動しています。「ウソをついてはいけない」とか、科学者であれば「科学的なプロセスを踏んだ結果しか許されない」といたルールです。
しかし、そうしたルールを平気で無視し、しかも一抹の罪悪感も抱かず平然としていわれる人間に対しては、ウソや不正を見抜くことはなかなか難しい。それゆえ、「サイコパスは頭がいい」と、一般の人々は錯覚してしまうのです。これは、常人と異なるふるまいをする人に特殊な能力を見出したがるという、認知バイアスのひとつといえます。
では、なぜサイコパスは「熱い共感」を持ち得ないのでしょうか。
脳の働きを知るには、近年は、fMRI(核磁気共鳴機能画像法)と呼ばれる装置を用いる研究が盛んです。被験者の頭部に磁場をかけ、血流の動態を測定することによって脳のどの部分が賦活(活性化)しているのかを調べることができる装置です。
この装置を用いて測定すると、サイコパスは脳の「扁桃体」と呼ばれる部分の活動が一般人と比べて低いことが明らかになっています。
もし、「サイコパス」として、「他者への共感能力が低く、自分がやりたいことをやってしまう人」のすべてが遺伝的に決定づけられているのなら、それは「遺伝病」みたいなものではないのか?
生まれつき、そういう「運命」を持っているのだとしたら、それにもとづく犯罪を罰するべきなのだろうか、なんて考え始めたら、キリが無くなってくるのです。
とりあえず現時点では、「遺伝的な要素はかなり大きいが、後天的な教育や矯正で彼らが犯罪者になるリスクを減らすことはできる」と考えられているそうです。
そして、サイコパスの遺伝的なリスクをスクリーニングして排除するようなことは、「遺伝子の選別」にもつながるし、行なわれるべきではない、と。
ただ、そういう方法があるのだとしたら、社会不安を減らすために、「予防」したほうが良いのではないかと考える人も出てくる可能性は高いですよね。
僕だって、自分の大切な人がサイコパスの快楽のために犠牲になったら、それが「遺伝病」であっても許せないと思うし。
そして、この新書のなかで著者が繰り返し述べているのは、「サイコパス」は集団にとって迷惑な存在になることが多々あるけれど、リスクをおそれずに合理的な選択をしたり、思い切った変革を行なったりという偉業をなしとげた人にも「サイコパス」が少なからずいると考えられている、ということです。
その「サイコパス的な人」の例として、織田信長やスティーブ・ジョブズを挙げています。
サイコパスのなかには他人を自分の利益のためにうまく使いこなしたり、前例にとらわれずに合理的な方法を追求したりすることができる人が少なからずいます。
また、「成功したサイコパス」として、企業経営者や報道関係者、外科医・弁護士のような専門職に就いている人がいるのだそうです。
サイコパスには「危険な場面、ストレスがかかるような場面でも、つねに冷静な判断ができる」という「強み」があるのです。
「普通の人」であれば、治療のためとはいえ、長時間手術室に籠もって人間の臓器を適切に切り取り、出血や心拍数の変化といったイレギュラーな事態にも冷静に対応するのは困難です。
それはある意味「非人間的」な行為なのです。
もちろん、外科医のなかには、トレーニングによって心の動揺や手のふるえを抑えられるようになった人もいるのですが。
小さな集団や身のまわりにいると「迷惑」なことも多いのだけれど、種としての「人類」にとっては、サイコパスというのは必要な存在なのかもしれません。
ちなみに、著者は「サイコパスに向いている商売」の一例として、「炎上ブロガー」を挙げています。
カナダのマニトバ大学の研究チームは1215名を対象とした調査から、サイコパスはネット上で「荒らし」行為をよくする傾向があることを明らかにしました。
また、ベルギーのアントワープ大学の研究者グループが14歳から18歳の青少年324人を対象に調査した結果、サイコパスはフェイスブック上で他者を攻撃したり、ひどい噂を流したり、なりすましをしたり、恥ずかしい写真を載せたり、仲間はずれにする傾向があることがわかっています。
サイコパスには、他人に批判されても痛みを感じないという強みがあります。
したがって、問題発言やわざと挑発的な言動をしてよく炎上し、しかしまったく懲りずに活動を続け、固定ファンを獲得しているブロガーにも、サイコパスが紛れ込んでいる確率は高いと考えられます。彼らは人々を煽って怒った様子を楽しみ、悪目立ちすることで、快感を得ていると思われます。賛否を問わず大きく話題になってクリック数が増えさえすれば収入に直結しますし、いくら叩かれたところで捕まったり殺されたりするような危険はまずありませんから、刺激に満ちた生活を求めるサイコパスにとっては、うってつけの商売と言えます。
これを読んでいると、「サイコパスって怖い!」というよりは、「僕自身にも『サイコパス的な面』があるのではないか?」と、どんどん不安になってくるんですよ。
著者も「そんなにクリアカットにサイコパスか否か、と分けられるものではなく、グレーゾーンが幅広く存在している」と仰っていますし。
読んでいて、「『サイコパス』って、ここまで、科学的に研究が進んでいるのか」と驚かされました。
そして、「サイコパス」というのは快楽殺人者ばかりではなくて、さまざまなタイプがあり、まったく関わらずに生きていくのは難しいし、居場所によっては、社会の維持や発展に貢献している場合もある、ということもわかったのです。
自分もグレーゾーンにいるのではないか、という不安も含めて、なかなか一筋縄ではいかない話ではありますが、「サイコパスというのは、快楽殺人犯だけではないのだ」ということだけでも、もっと知られれば、被害者は理解してもらいやすくなると思うのです。
ただ、自分が加害者になっている可能性だって、あるんだよなあ……



