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天の無数の星々は仕事などしない――AI+BIがかたちづくるユートピア / 『人工知能と経済の未来』著者、井上智洋氏インタビュー

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人間のように様々な知的作業をこなす汎用人工知能が普及する未来。そのとき爆発的な経済成長が可能となり、途方もなく実り豊かな生産の時代が到来する。だがそれは、人類が労働から解放されるユートピアなのか、それとも人類が生業を奪われるディストピアなのか? カギを握るのはベーシックインカムの導入にある、という井上智洋氏にお話を伺いました。(シノドス・オーブンアカデミアにて収録)

■シノドス・オープンアカデミアとは?
近刊著を課題図書として、先端知に触れつつ議論、その議論をもとに著者にインタビューする最新型のゼミナールです。改めて学びたい社会人の方、大学とは違う学びが欲しい学生の方、もちろん現在の知識レベルは問いません。新しい「知のネットワーク」に触れてみたいすべてのみなさんのご参加をお待ちしております!

https://synapse.am/contents/monthly/synodos

人工知能(AI)の現在

――汎用人工知能(汎用AI)の出現は、経済にどのようなインパクトをもたらすのか? これが本書のテーマです。まず未読の読者に、汎用AIついてご説明いただけますか。

今ある人工知能(AI)はすべて特化型人工知能と呼ばれるもので、ひとつの(ないしは、いくつかの)特定のタスクしかこなせません。たとえば、チェスのAIはチェスをするだけ、囲碁のAIは囲碁をするだけです。それに対して人間は、汎用的な知能を持っており、チェスをしたり囲碁をしたり、あるいは人と会話したり、事務作業をしたりと、色々なタスクをこなせます。汎用AIは人間と同じように、様々なタスクをこなすことのできるAIです。

まったく人間と同じ知的振る舞いができる必要はないのですが、ほとんど人間並みの知性を持ったAIが汎用AIと呼ばれることが多いようです。もちろん、汎用AIはまだこの世には存在しません。開発は数年前に始まったばかりです。「アルファ碁」という囲碁プログラムを開発して有名になったグーグル傘下のディープマインド社も、現在、汎用AIの実現を目指しているところです。

――汎用AIの完成とは何をもって完成したといえるのか、基準などはありますか? SF小説などでは、人間並みの知性という題材となると、すぐに感情や心理の理解というテーマになります。しかし最近のAIを見ていると、人間の感情がなくても仕事の代替は可能に思えてきます。そうなると、何をもって汎用AI(人間並みの知性)の指標とするのでしょうか。

汎用AIの定義はばらばらだと思います。たとえば、ジェフ・ホーキンスというアメリカの起業家は、人間の大脳新皮質だけAIとして再現できればOKだといっています。感情をつかさどる大脳辺縁系は必要ないわけです。それに対して、日本の全脳アーキテクチャイニシアティブというグループは、文字通り大脳辺縁系を含む全脳をAIとして再現しようとしています。こちらは感情も必要だというわけですね。

また、汎用AIのできるタスクの中には、AIを開発する能力も含まれていると見なされることがしばしばあります。そうすると、汎用AIが自分よりももっと優れた汎用AIをつくり、そしてそれを繰り返すことで、人間をはるかに凌駕する超AI(Artificial Super Intelligence/ASI)が実現するという人もいます。

レイ・カーツワイルの前にシンギュラリティを提唱した人にヴァーナー・ヴィンジという数学者でSF作家がいますが、彼のいうシンギュラリティとは、まさにそんなふうに再帰的にAIがAIをつくって、超AIが生まれるというものです。これは知能爆発ともいわれています。

こうして、汎用AIが生まれたらすぐに超AIが誕生して、人間がゴミくずのような存在になってしまう、と危惧されることがありますが、わたし自身はそこまで凄い汎用AIは難しいのではないかと思っています。今世紀前半くらいには、平均的な労働者のできることならできるAIくらいしか現れないと予想しています。

――それはなぜでしょうか?

今のAIは数値的な目標を最大化するための手段を発想することはできます。テレビゲームの得点をアップするために、新しい攻略法を生み出すようなことです(ディープマインド社の「DQN」というAI)。しかし、人間は何の数値的目標もなしに突然新しいことを思いついて、芸術的作品を創作したり発明をしたりしますよね。

人間の知性にはそういうひらめきが含まれていますが、それは「最適化」ではない何かです。AIはより「最適化」されたAIを再帰的に生み出せるようになるでしょう。しかし、そういう方向に進化していっても、人間のようにひらめくAIが生まれることはありません。

したがって、優れたひらめきが必要とされる仕事は、ディープラーニングを含む今のAI技術の延長上ではできるようにならないのではないかと思っております。今後、圧倒的なAI技術のブレイクスルーが起きれば別ですが、人間に与えられた目標を最大化するだけで、それ以上に何もひらめかすことがないAIが人間を支配するなんてことはあり得ないのではないでしょうか。なお、今でもAIが作曲したり、絵画を描いたりしていますが、いずれも人間の芸術家の真似でしかありません。

――現在はASIのはるか以前、特化型AIが日々、進化している段階ですね。それでも、その進化は目覚ましく、メールや通話、金融データなどのビックデータをAIが分析して、テロや国際犯罪などの情報をCIAやFBIに提供している、などという話も聞きます。

また、IBMが開発したAIコンピューター「ワトソン」は、ガンを抑制する可能性のあるタンパク質を数週間で6つ発見したとのことですね。人間の科学者はタンパク質ひとつ発見するのに平均で1年かかっています。ほかにも「こんなことが?」というようなことが、すでにたくさんあると思います。面白い事例を教えていただけますか。

日立製作所の「H」というAIは素晴らしいと思います。「H」はビッグデータを分析して、ホームセンターがどうしたら売り上げを伸ばせるのかを提言することができました。人間のコンサルタントの提言は、売り上げの増大にはつながらなかったにも関わらずです。

また「H」は営業型のコールセンターの営業成績の向上にも貢献しました。日立はビッグデータの実用化の一環として、ウェアラブルセンサを用いて人々の幸福感(ハピネス)を計測する技術を開発したのですが、「H」はスタッフのハピネスを増大させると営業成績が良くなるということも明らかにしています。従業員のハピネスが企業の売上向上に繋がる、という基本的な因果関係を明らかにしたわけですから、素晴らしいことだと思います。ブラック企業が問題化される今の日本では、とくに重要な見方です。

ちなみに、日立は「H」を汎用人工知能といっていますが、これは汎用性があるという意味であって、人と同程度の知能という意味での汎用人工知能ではありません。

それから、RBI株式会社が開発したヒト型汎用ロボット「まほろ」が面白いですね。



この会社はとくにバイオ研究、創薬の実験を行うロボットの開発を行っています。実験というのは機械的な作業と思いきや、操作の間の数秒の差が決定的になるような職人芸的な世界なんだそうです。そんな熟練研究者の技を、ロボットが再現してくれるのです。

細胞の掻き取りのような繊細なロボットをつくれるのは、他に日本に2社、ヨーロッパに2社しかないとのことです。科学的な実験には、1分子を直接扱うような長年日本でしか成功させられなかった実験があったりして、折り紙文化の日本人に優位性のある分野もあります。ただし、そういった器用な人間が行っても、実験が成功したりしなかったりと偶然に左右される面がある。それをロボットが行うと、確実に成功させられるのです。

この会社のCIOでAI研究者の高橋恒一さんは、科学的な実験の自動化を考えています。今のところ作業の自動化ですが、仮説を立てて検証するところまで、すべてを自動化しようと企図しておられます。

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AIと人間の間に横たわる「生命の壁」

――そこまでAIができるようになると、人間の失業が気になりますよね。「AIがすべて特化型である限り、技術的失業は一時的局所的な問題にとどまる」と書かれていますが、技術的失業を解消するのに足る十分な産業は残る、あるいは新しく生み出せるものなのでしょうか?

これまでイノベーションによって普及した技術は、おもに人間の肉体労働を肩代わりするものでした。それに対しAIは、人間の頭脳労働を代替していきます。それでは人間は他に何をやればいいのかという話になります。とはいえ、特化型AIが普及しても、すべての職業が一気に失われるわけではないので、人間に優位性のある他の職業に移ればよいことになります。それはAIをつくるような職業とは限りません。

わたしがよく例にあげるのは、最近駅前などにあるストレッチ専門店です。10年前には、ヨガの教室はあってもストレッチ専門店はなかったと思います。いずれにしても、AIは人間のような身体を持たないので身体知を持ちえません。したがって、身体性を必要とする仕事は残りやすいと思います。

本でも書きましたが、哲学者でAI研究者の西川アサキ氏は、ロボットにとってもっとも難しい仕事はヨガのインストラクターだといっています。ロボットはどのようなポーズをとったら心地よくなるのかを、自分の身体に問い合わせることができないからです。

――ほかにはどうでしょうか?

そうですね。さらにいうと、これから増える仕事というのは新種の職業とは限りません。スポーツ選手とかダンサー、フードファイターのような、人間が行うことに意味がある仕事はこれから増大していく可能性があります。

ダンスを踊るロボットは今でもありますが、もちろん人間のダンスとは別ジャンルで、まったく代替的ではありません。ロボットの早食い競争も同様でしょう。ただ、そういった職業に従事している労働者の数はそもそも少ないので、失業した人の受け入れ先としてはそれほど有望ではありません。

一定規模の産業で、今雇用が増大しているのはやはり医療・福祉関係ですね。高齢化は留まることがないので、これからも増え続けるでしょう。介護士がその典型ですが、介護の現場にロボットが導入されても、当面高度なコミュニケーションをとることができないので、やはり人間の仕事は残りつづけるし、その需要は増大するでしょう。

汎用AIにいたる過程でもっとも難しくて大きな課題が言語理解です。AIが言葉の意味がちゃんと理解できて、高度なコミュニケーションがとれるようになったら、かなり汎用的に利用できるでしょうね。

そういう点を見ても分かるように、特化型AIと汎用AIを完全に区別することはできません。特化型AIが言語理解を習得するなどしてだんだんと汎用性を増していって、汎用AIに近づいていくということになろうかと予想されます。本では分かりやすく、汎用AIが出現する2030年以前と以降ではっきり区切りましたが、実際の変化はもちろん連続的で、2030年以前から仕事の減少は少しずつ始まっていくと思います。

――身体知や欲望や感覚など、AIと人間との間には「生命の壁」がある、というお話はとても面白いですね。

たとえば、レストランでネズミが出たとき、AIロボットのウェイターはゴキブリと同じように平気で叩き潰すだろう。それはAIと人間の間には「感覚の通有性」が存在しないため、ネズミを叩き潰すときに人間に生ずる嫌悪感が分からないからだ、と。

しかし、AIが社会に普及していくにしたがって、AIの「無感覚さ」に人間の方が適応することで、生命の壁がなくなっていくことはないでしょうか?

その可能性はあります。しかも、若い人ほど人間的なものより機械的なものを好みます。最近マクドナルドのある店舗で、タッチパネルで注文する仕組みを取り入れたというニュースが流れましたが、人間のスタッフよりそちらの方がいいという声がたくさんネットにあがっていました。人間と喋るのはダルイというわけです。

また、バーテンダーはホスピタリティーを必要とするので、残りやすい職業だと本では書きました。しかし、若い人ほど機械が酒さえ出してくれればいいと思う傾向があります。変に話しかけないで欲しいというわけです。

感覚の通有性を持った人間が痒い所に手が届くようなサービスをしてくれる、ということに魅力を覚えない人が増えているといえますよね。機械的な応対で結構だと。ネズミへの嫌悪感は若い人の方が強そうですが、全体的に機械的なことはむしろ好ましいと思う傾向があるでしょう。

――AIが普及していくなかで人間らしさのようなものも縮減していくのか、それとも有り余る余暇時間のなかで自分と向き合う時間が増えることでむしろ高まっていくのか、そのあたりは興味深いですね。

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