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悪質業者の不正請求など懸念、内閣府vs.厚労省の攻防――唐突な混合介護規制緩和案

介護保険の対象となるサービスと、保険対象外のサービスを組み合わせる「混合介護」の拡充構想が、唐突に内閣府サイドから浮上してきた。規制緩和によって新たな需要を開拓し、介護市場の成長に結びつける思惑からだ。ただ、「悪質業者による不正請求」を懸念する厚生労働省は異を唱えている。導入の有無を巡って政府内の足並みはそろわず、省庁間の攻防が激しくなってきた。

きっかけは9月、「事業者の競争環境の整備」の一環として、内閣府外局の公正取引委員会が「混合介護の弾力化」を提言したことだった。これに同じ内閣府所管の旧規制改革推進会議から衣替えした「規制改革推進会議」(議長・大田弘子政策研究大学院大学教授)が飛びつき、同会議の「医療・介護・保育ワーキング・グループ」は11月8日に議論をスタートさせた。大田議長は「介護分野を厚みのある市場にしたい」と意気込んでいる。構造改革など、アベノミクスの「第三の矢」の目玉づくりに腐心する首相官邸の意をくんだ格好だ。

混合介護自体は、今も禁止されているわけではない。医療では原則禁止の「混合診療」と違い、「命にかかわる危険な保険外治療が横行しかねない」といった危惧は小さいからだ。ただし、介護保険対象のサービス(自己負担割合は1~2割)と対象外のサービス(全額自己負担)を組み合わせる時は、事業者に双方を明確に区分けすることを義務づけ、「同時・一体的」な提供は禁じている。

理由について厚労省は「趣味や理美容に至るまで保険外サービスは無数にある。保険サービスとの区分を曖昧にしたまま保険サービスと同時に提供されると、利用者が思わぬ料金を請求される恐れがある」と説明している。

これにかみついたのが、公取や規制改革推進会議だ。介護職員が、利用者本人分と帰宅の遅い家族分の食事づくりを頼まれた場合を例に挙げ、反論している。

「同時・一体的」提供を禁じた今のルールでは、介護職員は利用者分の食事(保険対象)と、家族分の食事(保険外)を同時に調理できない。同じメニューでも、利用者分とは違う時間に、別につくる必要がある。その点、まとめて調理できるようになれば、事業者は同じ時間でより高い収入を得られるようになり、利用者も選べるサービスの幅が広がる、というのが公取などの言い分だ。さらに、腕のいい介護職員への「指名料」など、サービスの質に応じた上乗せ料金の設定をできるようにすることも求めている。

【東京都が特区内で試行か】

「中身がめちゃくちゃだ」「公平な競争を妨げる者をただすのが公取の仕事。公取になんの権限があるのか」。10月13日の自民党厚生族の会合で、尾辻秀久氏、田村憲久氏の両厚労相経験者らは混合介護推進論者への不満をぶちまけた。「内閣府vs.厚労省」の構図をにらみ、厚生族が厚労省の援護射撃に回った格好だ。幹部は「利用者保護のため、混合介護の拡充など許さない」と息巻く。

しかし、規制緩和派も譲らない。厚労省によると、介護職員の平均月給(2015年9月)は28万7420円。前年より1万3170円アップしたとはいえ、介護業界は依然、低賃金を理由とした人手不足にあえいでいる。戦後ベビーブームの「団塊の世代」が全員75歳以上となる25年には、約38万人の介護職員が不足する――。公取などはこうした厚労省試算を逆手に取り、「保険外サービスの供給量が増えれば介護職員の賃金も増える」と、人手不足を解消できない同省の弱みを突く。

規制改革推進会議は、混合介護の弾力化を来年6月にまとめる答申に盛り込む方針。だが、政府内には今年度内に試行に踏み切ることを思い描く勢力もある。国家戦略特別区域会議の場で、東京都が近く、国に混合介護の拡充を求める見通しとなっているためだ。反発を強める厚労省・族議員に対し、規制緩和派は、まずは「地域限定の特区」という搦め手から攻めようとしている。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、11月18日号)

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