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東京電力は関東軍と似ていた

 池田香代子さんのブログ記事「原発てんでんこ?」と、翌日の動画紹介を含めた「補遺」とは、一読の価値があります。福島原発で爆発が起きた直後に、東電の関係者には緊急避難の情報が流されて家族は早期に避難できたのに、その情報は、ふだん親しくしていた主婦仲間にさえ伝えられなかったという報告です。

 誰もが予想しなかった非常事態でしたが、最も強い衝撃を受けていたのが当の原発関係者であったことは容易に想像できます。何重にも安全装置があるので絶対安全だと、人にも言い自分も信じていた「神話」が、目の前であっけなく崩壊して行く姿は、「万事休す」の、この世の終りとも思われたことでしょう。

 神話が崩れた以上は、拡散するであろう放射物質の怖さをよく知っているのも、また原発関係者でした。最悪の事態になったら逃げるしかない。これが菅首相の怒りで撤回されたとされる「保安要員以外は全員退去」の判断にもなったのでしよう。関係者家族への避難勧告も、その文脈で出されたと考えてよいと思います。その際に「事態が流動的だから不用意に発表しては混乱を大きくする」というのが、当面の言い訳になります。

 この話を読み、関連動画も見て私が連想したのは、敗戦時の関東軍の行動でした。ソ連軍の全面的侵攻が始まったら防戦できる戦力がないことを、誰よりも熟知していたのは関東軍司令部でした。そこで何よりも優先したのは、人体実験で細菌の研究をしていた731部隊関係者をはじめとする「重要人物」を、すみやかに安全地域へ撤退させることでした。その中に高級将校とその家族が含まれていたのは言うまでもありません。

 軍から見捨てられた「満州開拓民」たちに似た苛酷な運命が、原発周辺で逃げ遅れた人々を襲う可能性も、当時はゼロではなかったのでしょう。すべての情報を握って、本当の危険をよく知っているのは、常に当事者の中枢にいる人たちなのです。その情報を、どうしたら独占させずに、公共の安全に役立てることができるかが、この問題のポイントだと思います。

 池田香代子さんも書いています。私たちは敵を見誤ってはならないと。いちはやく逃げた東電社員の家族を非難攻撃すれば気が済むという話ではありません。権限と情報を持つ中枢に高い倫理性を持たせるのは、システムと民主主義の問題、つまりは政治の問題なのです。

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