- 2016年12月01日 00:10
この本がスゴい!2016(前)
1/2人生は短く、積読山は高い。
せめては「死ぬまでに読みたいリスト」を消化しようとするのだが、無駄なあがき。割り込み割り込みで順番がおかしくなる。読了した一冊に引きずられ、リストは何度も書き直される。
重要なのは、「あとで読む」は読まないこと。「あとで読む」つもりでリツイート・ブックマークしても読まないように、あとで読もうと思って読んだ試しはない。だから、チャンスは読もうと思ったそのときしかない。実際に手にとって、一頁でも目次でもいいから喰らいつく。勢いに任せて読みきることもあれば、質量と体力により泣く泣く中断する本もある。かくして積読山は標高を増す。
ここでは、2016年に読んだうち、「これは!」というものを選んだ。ネットを通じて知り合った読書仲間がお薦めする本が多く、それに応じてわたしのアンテナが変化するのが楽しい。わたし一人では、数学や経済学や歴史学、進化医学や認知科学の良本を探し出せなかっただろう(これ読んでるみなさまのおかげです、ありがとうございます!)。
特に今年は、生物学まで手を伸ばすようになり、地球科学と併せて学びたい知的欲望が高ぶっている。その一方で、「正しいとは何か?」という疑問の本質は、哲学と数学の合わせ目に解があるのではと踏んで、両方を深める議論に入りたい。徹夜小説に取り憑かれ、凄いマンガに殴られる。怒涛のリストをさあどうぞ。ご存知の作品があったなら、「それが好きならこれなんてどう?」とオススメしてくださいまし。
フィクション
『メイド・イン・アビス』
つくしあきひと
まんがライフWIN/WEBコミックガンマ リンク先を見るリンク先を見るリンク先を見る
少年少女が地下洞を冒険する話と思って手にとったが最後、かわいい表紙とは裏腹に、濃厚怒涛の展開に呑み込まれる。萌絵と物語のギャップに心裂かれる。第二次性徴期の女の子の 魅力をデフォルメして描く一方で、過酷な運命に投げ込んでゆく。読み手の胸をえぐるためにやってるのか? と疑いたくなる容赦のない描写に、思わず引く。それでも先を読みたくなるのは、どうなるか本当に分からないから。
誰も底を見たことがないと言われる巨大な竪穴「アビス」。そこに眠るロストテクノロジーや異形の生物を見ているだけでも興味深いのに、アビスが及ぼす「上昇負荷」という効果が一層おもしろくさせている。つまり、降りるのは問題ないが、上ろうとすると身体に変調をきたす。ダイビングの潜水病のようなものだと想像してたら、もっと酷い。上層部なら潜水病程度で済むが、深界へ行くほど酷くなり、戻ろうとすると死ぬ。つまり、還ってこれない旅なのだ。
かわいいキャラに襲いかかるえげつない展開のミスマッチ、練りこまれた世界設定と全く見えない先行きに、読めば読むほど、どんどん面白くなる。ロリ・グロ苦手でなければお薦め。
『グールド魚類画帖』
リチャード・フラナガン
白水社
[レビュー:『グールド魚類画帖』はスゴ本]
傑作という確信が高まるにつれ、頁を繰る手は緩やかに、残りを惜しみ惜しみ噛むように読む。先を知りたいもどかしさと、終わらせたくないムズ痒さに挟まれながら、読み返したり読み進めたりをくり返す。そんな幸せなひとときを味わう。
同時に、物語に喰われる快感に呑みこまれる。はじめは巧みな語りに引き込まれ、次に溶けゆく話者を見失い、さいごは目の前の本が消え、自分が読んできたものは一体なんだったのか? と取り残される。わたしが世界になったあと、世界ごと消え去る感覚。19世紀、タスマニアに流された死刑囚の運命が、猥雑で、シニカルで、ときにグロテスクな語り口で紡がれる。この傑作の読中感は、この本そのものに書かれている。
その混沌を要約するなら、決してはじまらず、決して終わらない物語を読んでいるような感じだった。変幻する景色を映し出す、魅惑的な万華鏡をのぞいているような感じ―――風変わりで、ときにもどかしく、ときにうっとりするような体験だが、良質の本がそうであるべきように、単純明快なものではまったくない。
決して尽きず、終わることを物語は拒否する。すばらしい傑作を、いつまでも読み続けたい・読み返したい人にお薦め。
『この恋と、その未来。』
森橋ビンゴ
ファミ通文庫
[レビュー:最高のライトノベル『この恋と、その未来。』───ただし完結するならば]
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「恋とは幻である」これに賛同するなら、最高のライトノベルはこれだ。
恋とは、求めるものを投影した相手に惚れてから幻滅するまでのわずかな期間のことを指すか、または一生醒めない夢を見続けること。だから、叶った恋は恋でなくなるから、ホントの恋は片想いになる。「この恋」を、ずっと大事にしていきたいのなら、決して明かしてはならないし、露ほども表にしてはならない。そのためには、周囲を騙し、自分を偽る。恋の本質は、秘めた幻なのだ。
性同一障害をテーマに、男でありたい女の子(未来)と、未来に恋してしまった男の子の、奇妙な共同生活を描いた青春物語。ライトノベルのパッケージだが、これっぽっちも「ライト」ではない。重く、切なく、苦しい恋なのだ。
5巻一気に読んだときは、未完で打ち切りだった(大人の台所事情らしい)。ところが、ネット経由でじわじわと人気が出てきて、ついに最終巻(6巻)が刊行されるとの噂を聞きつけてしばし踊った。5巻まで読んだ「未来」予想図は[レビュー]に書いた。どんな未来にせよ、最後はどうか、幸せな記憶を。



