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成果なき「官製クールジャパン会社」の信じ難い実態 「経営は順調」とされる公開はおろか撮影すらない映画企画開発会社 - ヒロ・マスダ

 近年、クールジャパン政策が叫ばれている。日本のコンテンツの海外展開分野においても、これまで数百億円の税金や財政投融資など公的資金が注がれている。コンテンツ政策におけるクールジャパンの目的は、単に日本コンテンツの輸出額を増やすだけでなく、ソフトパワーによる観光振興などのインバウンド獲得を狙う「クールジャパン効果」も重要な目的になっている。

 しかし、巨額の公的資金支出にもかかわらず、公的資金拠出の意思決定や成果の評価は著しく客観性に乏しい。本来、クールジャパン効果とは客観的な外部評価が基準であるべきだが、税金を使う側である当事者の主観的な内部評価が基準となっている。この思い込みが、国民財産の毀損と無駄遣いの温床になっている。その顕著な例が2011年に「日本を元気にするコンテンツ総合戦略」のもと設立された株式会社All Nippon Entertainment Works(ANEW)である。

 ANEWは、日本のIP(知的財産)を用いてハリウッド映画を作ることで、日本のコンテンツの海外展開を図り、その利益を日本国内に広く還流することで日本のエンタテイメント産業を再生するという目的で設立された。官民ファンドである産業革新機構から100%、60億円の出資を受け設立された映画企画開発会社である。

 また、ANEWの設立には監督官庁の経済産業省も企画から深く関わっており、設立後に職員を出向させるだけでなく、クールジャパン官民有識者会議、首相官邸コンテンツ強化専門調査会、国会経済産業委員会でANEWの取り組みを推進してきた。

 16年10月27日で会社設立から丸5年が経過したが、これまで7作品の開発を発表しているものの、これらの映画が公開され配当を得るどころか、撮影に至った作品すら1本も存在していない。また、官報に掲載されている決算公告によれば、15年12月31日時点までの損失は14億4517万円に上り、何ら成果のないまま毎年赤字を垂れ流している経営状態が続いている。

 映画製作の専門性を持たない産革と監督官庁の経産省はどのようにして60億円もの公金投資を決めたのだろうか? ANEW設立時、代表取締役は産革の執行役員が務め、社外取締役は執行役員と共にプロジェクトチームでANEWを設計したその部下、監査役も産革役員という構成であった。当然、株主も100%産革である。

 さらにANEWを監督する立場の経産省も職員を出向させていた。国民財産の運用がこうした専門性に乏しく、ガバナンスも効きにくい体制の中で行われ、「クールジャパンらしさの追求」という主観的な内部評価の基準の中だけで60億円もの公的資金を注ぐ決定をしたのである。この件に関し経産省に情報公開請求を行うも、こうした官民ファンド等の株式会社を経由した公的資金に関する公文書は存在しない、もしくはすべて不開示となっており、国民に対し情報公開が行われない制度になっている。

 産革には客観性、中立性を保つための社内組織・産業革新委員会が存在しているが、ANEWへの投資決定を見る限り、この組織が客観性と独立性を持っているようにはうかがえない。これについては、14年の産革投資先の監査未実施に対する改善要求に関わった財務省職員も「ANEWのような自分で自分に出資するような投資は通常公的ファンド運用のルール違反にあたる」との見解を語る。

 ANEWの5年間の事業評価についても客観性を欠いている。経産省は「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」に基づき「産業革新機構の業務の実績評価」を行っている。これによると、経産省は投資実行後も各投資先企業についての財務情報、回収見込み額、出資に係る退出(EXIT)方針、投資決定時等における将来見通しからの乖離等を精査していることになっている。

国会で行われた「経営は順調」の答弁

 しかしこの間、同メディア・コンテンツ課課長、大臣官房審議官は、ANEWについて「映画が実際に作られ、配当により3年で投資回収が始まる」とあたかも経営が順調であるかの旨の報告を国会等で答弁している。

 しかし、映画の専門性に基づく客観的な外部評価を基準にする場合、ANEWの「ハリウッド映画化」の発表は映画製作成立の根拠には値しない。「ハリウッド映画」の定義とは、厳密にはビッグ6と呼ばれるユニバーサル、ウォルト・ディズニー・カンパニー、ワーナー・ブラザース、20世紀FOX、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント、パラマウントのハリウッドメジャースタジオ製作の映画を意味する。

 これらの映画会社には製作費に充てる資本があり、映画を適切な形で売り出すための事前のマーケティングプラン、世界に売るための配給網、また投資を一定の期限内で回収するために2、3年先の公開日も決定している。

 一方、ANEWが自社リリースで発表する「ハリウッド映画化」はこれと似て非なるものである。「日本IPでこんな映画企画開発をやります」という自社発表は、原作の映画化権を持つ者なら誰もが発表できるものであり、投資家に対して実際に映画が作られる保証をするものではない。

 しかし、経産省の内部評価基準では、「順調な経営」と評価し、設立から3年で公金投資の回収ができると勘違いしている。こうした経産省の「虚偽的」な経営報告の答弁もあってか、ANEWは14年11月28日に資本金及び資本準備金合わせ11億円の追加投資を受けている。すでにそのほとんどが非効率な映画企画開発を行う赤字経営によって消えている。

 ANEWの企業理念は「グローバルモデルによるイノベーションによりニッポンのエンタテインメントが生まれ変わる」だ。経産省もANEWの「社会的ニーズへの対応」「大きな成長と公的資金投資回収の高い蓋然性」「新しいビジネスモデルを確立する革新性」を認め推進した。

映画産業で存在感高める中国

 しかし、映画産業で日本を豊かにしたいのであれば、世界のエンタテイメント資本、投資家、映画産業プロに作用する客観的な評価を基準に考えなければならない。主観的な理念など、評価に値しないものである。

 映画製作における真の「イノベーション」とは、秀でたタレント人材や映画テクノロジーによる創作面の効率性の向上や、利益を出すためのプロダクション運営の経済的効率性の向上である。官民癒着で公金を引き出すために使われた「ニッポンのイノベーション」であれば、日本再生の切り札どころか自らの持続的経営の将来見通しすら破たんした今の結果は、始まる前から分かっていた当然の結果だといえる。

 日本政府は日本IPに由来のある、もしくは日本に関係のあるハリウッド映画のプロデューサーや監督に対するクールジャパン表彰をロサンゼルス日本総領事公邸で行っている。13年には日本の玩具をモチーフにした映画「トランスフォーマー」のプロデューサーも受賞した。しかし、14年に公開された「トランスフォーマー」第4作は中国共同製作で製作され、ワールドプレミアイベントをロケ地の香港で行い、中国人俳優が出演し、中国の銀行や電気製品などのプロダクトプレイスメント(映画のなかで企業のロゴや製品を自然なかたちで出す広告手法)も行われた。

 映画におけるクールジャパン効果とは、一般客の普通の感覚で映画を鑑賞したときにどう感じるかという客観性を基準に考えるべきで、この場合、中国共同製作の「トランスフォーマー」を見た一般の観客がこの作品からクールジャパン的印象を強く感じ、それが日本へのインバウンド効果に繋がると考えるのは的外れだと言える。

 世界の映画産業においてはハリウッドだけでなく、中国の存在感も増してきている。ハリウッド版「ゴジラ」を製作したレジェンダリー・ピクチャーズの親会社は、今や中国企業である。「ゴジラ2」はレジェンダリー・エンターテイメントを買収した大連万達グループが青島にオープンさせる総工費約80億ドル(約8000億円)の世界最先端の施設で撮影されることも決定している。また同社はソニー・ピクチャーズとの提携も発表している。ANEWが発表している海外パートナー企業にも中国からの巨額出資を受けている映画会社が含まれる。

 映画産業自体も変化しており、技術革新によるインターネットの定額配信サービス、ビデオ・オン・デマンドサービスの普及に伴い消費者行動も変化し、かつて映画でしかかけられなかった高額予算をTVドラマにかけられるようになった。これと同時にハリウッド俳優、監督らもTV産業に活躍の場を移している。

 このように世界の映画産業を取り巻く環境も国際競争も劇的に変化している。一方、日本が公金投資に対する客観性についての学習を遂げるまで、世界は決して待ってくれない。

 日本がクリエイティブ産業で食べていくということは、日本に投資を獲得し、また産業を支える現場に質のいい産業雇用創出をすることが重要である。ソフトパワーによるインバウンド効果を得たいなら、まずこの国でインバウンド効果を生むいいコンテンツが生まれる環境がなければそもそも達成できない。

 ANEWが夢見る「いつか、ハリウッドの誰かが叶えてくれる」では解決しない問題である。残念ながら多額の公的資金が散財される「クールジャパン」は産業の未来にいない人たち、また成果がなくとも困らない人たちの主観的な内部評価を基準に実行されている。この分野で本当に日本を豊かにするには日本の公的資金相手の商売ではなく、世界市場相手の商売であることを認識する必要がある。

 日本のクリエイティブ産業の発展に対し無責任な人たちが無責任な未来を設計するような政策は次世代のためにも許してはならない。

現在発売中のWedge12月号では、以下の特集を組んでいます。こちらの書店や駅売店にてお買い求めいただけます。

■特集「クールジャパンの不都合な真実」
 【PART1】設立から5年経過も成果なし 官製映画会社の"惨状"
 【PART2】チグハグな投資戦略 業界が求める支援の"最適化"
 【PART3】これでいいのかクールジャパン 不可解な投資、疲弊する現場
 【PART4】「クールジャパン」×「地方創生」 危険なマジックワードの掛け算
 【PART5】覚悟のない産地への支援は「伝統工芸」を滅ぼす
 【PART6】「Superdry極度乾燥(しなさい)」が世界中で大ウケするワケ
 【PART7】最優先の国家プロジェクトはクリエイターの救済と海賊版対策
 【Column】すしの築地、アニメの秋葉原 「聖地」で学びたい外国人が殺到
 【Interview】リオ五輪閉会式演出の立役者 MIKIKO

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