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国立大学の現状についての基本的な4つの誤解について

 なぜ日本の大学政策は国内外からの指摘にもかかわらず運営費交付金削減と競争的資金政策に拘り続けるのか(西田亮介)- Y!ニュース 
今月前半、主に国立大学に関する上記の記事を書いた。筆者自身が国立大学に勤務し、日々大学で教育研究に携わっているなかで感じる違和についてまとめた記事だが、それなりに多く読んでいただいたようで、ポジティブなもの、ネガティブなものをふくめていろいろな反応があった。そのなかで幾つか典型的な誤解のパターンのようなものがあったので、少々時間がたったが、この問題を考えるにあたって基本的な補助線にもなりそうなのでさしあたり4点まとめておくことにした。

1.若手のポストがないというが、競争的資金で雇用すればよいので恒常的予算である運営費交付金の増額は必要ない。
競争的資金は科研費を筆頭に、現状、数年から10年程度の時限付きの予算が中心で、その予算を通じて直接、各部局の基幹教育研究のための教員は雇用できない。

2.若手のポストがないなら、年長世代の教員を解雇できるようにすればよい。
「優秀な人材が逃げる…」地方国立大、人件費削減に悲鳴:朝日新聞デジタル

最近、朝日新聞の教育関係の取材班が国立大学の問題に関心を持っているようで、立て続けに関連の記事を出している。世論形成やこの問題の周知にとって有難いことである。奇しくもその記事のなかで、山本行革大臣「山本幸三・行政改革相『学長は教授をクビにできるのか』」という主旨の発言をしたことが書かれているが、確かにネットでもしばしばこのような発言を見かけた。しかし少々日本の労働法規を思い出してほしいのだが、日本では整理解雇は原則として最後の手段となっており、民間企業でも実質的にはなかなか踏み切ることはできない(というよりも、かなり困難である)。

大学でも同様で、若年世代の雇用を確保する必要はあるが、だからといって、年長世代を解雇したり、新規に流動的な契約に強制的に変更することはできない。それどころか、意識されることも少ないが、従来の給与体系からの変更を要求することさえかなり難しい。このあたりの認識が混乱していることもあって、現状、ポストが不足する若年世代を中心に、任期付き、年俸制を前提とした流動性の高い環境に置かれることになってある意味では本末転倒な状況が生じている。ちなみに任期付きでも特任等の職位でなければ、教授会や全学関係、入試関係の管理業務も担当する。

3.恒常的予算が減少しているなら、新しい収入源を見つけるべき
なかでももっとも簡単に思えるのが学費の値上げだろう。しかし大半の国立大学はそれをしていない。なぜか。国立大学は、その性質上、いわゆる学費(授業料)、入学料、検定料が制度で定められている。授業料についていえば、約54万円と規模やコスト、大学の学部等にかかわらず一律に定められており、「特別の事情があるときには」1.2倍まで値上げできるとされているが、ほとんどの大学で標準額のままになっている。この点は私立大学と国立大学との違いでもある。

また定員や教員数についても、文科省に届け出た数字に拘束されているので、コストカットには限界がある。そもそも非営利組織であることからして、その性質上、社会との利益相反や特定企業等への利益供与にならないようにするといった点も考慮しなければならないなど、一般の企業よりも安定的な収入の拡大のための条件は多く、実際かなり難しいといえる。寄付やクラウドファンディングも、一時的なプロジェクトや研究費の調達には一定程度貢献するが、人件費や建物の老朽化対策等に適しているとは言い難い。

4.民間同様のマネジメントや評価手法を導入すべき
これも上記の朝日新聞の記事のなかの、山本行革大臣の「企業経営的な運営ができていない」という主旨の発言に象徴されているが、実態は国立大学法人化以後、かなり企業経営的な手法が導入されている。筆者もそうだが、近年採用された国立大学の准教授以下の職位の教員は年俸制と任期付きがかなり多くなっているはずだ。

だが民間企業でも外資系などを除くと、年俸制と任期付きが最初からセットになった雇用はさほど主流になっていないはずだ。その意味では民間企業よりも踏み込んだものになっているともいえる。年俸制ということは、毎年かなりの数にのぼる評価項目を含んだ自己評価と部局長評価を踏まえた査定があり、給与の見直しが行われる。こちらも、一時期民間企業でも流行ったが、最近では効果が曖昧だということで見直しも進んだとされている。

またすでに各所でいわれているように、財政的に逼迫しており、年俸制のなかに業績給の要素が含まれるものの、大幅な給与増や継続的な改善も望めず、適切なインセンティブ設計になっているとは思えない。給料とは別に研究費に入るが、国立大学全般の財政的制約のなかで、競争的資金を獲得したときの研究費のインセンティブが減額される傾向にさえある。


最近では河野太郎内閣府特命担当大臣が、競争的資金の実態や国立大学の問題に関心を持ち、研究者にブログで課題の集約を呼びかけたりするといったこともあった。

一連の朝日新聞の記事といい、少しずつ社会の関心が向きつつある雰囲気は感じる一方で、たしかに大学や当事者からの情報発信が十分ではないのも事実で(そもそもここで書いたような誤解がまかり通っていることにも、やはりこれまで十分な周知を行ってこなかった影響も少なくないように感じる)、それらを払拭するためにも当事者のひとりとしてこの問題を考えるための基本的な補助線を提供したいと考え、このエントリを書いたが、この問題の理解の一助になれば幸いである。

大学改革に関して、意外と規制による制約が多く存在し、大学内部での試行錯誤や創意工夫の余地が制約されていることを知ってほしいという願いがある。とはいえ、恐らく、今後大規模な運営費交付金の増額等は望めず、だとすればまさに本質的な改革のために大幅な規制緩和が必要ではないか。現状は予算も増やせないが、工夫のための権限も各大学には渡せないという状況で、国の政策に現場は右往左往せざるを得ない状況になっている。ある意味、三位一体改革以前の(しかし今も続く)地方分権改革の「失敗」と似ている。

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