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ドゥテルテが台湾にもたらす好機 - 岡崎研究所

 ドゥテルテの反米親中的言動について、台湾では、台湾にとってはチャンスであるとの論議があります。李榭熙ペース大学教授は、10月24日付台北タイムズ掲載の論説で、台湾の「南方政策」は経済的なものから戦略的なものになるかもしれないと指摘し、元中華民国国家安全会議諮詢委員・元国策顧問の黄天麟は、同18日付論説で、さらに踏み込んで米日台の同盟が必要である、と論じています。まず、李論説の要旨は、次の通りです。

ドゥテルテの狙い

 ドゥテルテは、米国との戦略的・経済的紐帯を絶ち中国との同盟を形成するとして世界中を驚かせた。これは、米国その他東アジア諸国政府を大いに困惑させる原因となった。

 ドゥテルテの宣言は、韓国による北朝鮮に対する米製THAADミサイルの配備や、中国の南シナ海への歴史的権利を認めないとする常設仲裁裁判所の7月の裁定など、外交的挫折の後遺症に直面していた中国に対し、地域への権利主張と軍事化の努力に新たなエネルギーを与えた。

 ドゥテルテは、ベニグノ・アキノ3世前大統領の海洋主権問題での強硬姿勢を完全に逆転させ、240億ドル相当の中国の投資と引き換えに南シナ海の海洋資源への中国の主張を認め、中国に対し、ハーグの国際裁判所の裁定という法的危機から逃れるためのメンツを与えた。

 ドゥテルテが中国と米日を反目させてさらに利得を引き出そうとしているのかどうかはまだ分からないが、地域の再均衡は米次期大統領に東アジア戦略の再考と新たなパートナーの認定を促し得る。

 この面で、台湾は、「南方政策」の優先順位を、経済から地政学的戦略に変更したいと考えるかもしれない。台湾は、商業的機会の追求に加え、自らを地域の新たな安定化勢力と位置づけ、海洋主権紛争を議論する多国間プラットフォームの設立において米国の同盟国を助けるべきである。そうすることが、台湾の孤立化をもくろむ中国の新たな国際的キャンペーンに対する唯一の効果的な対応である。

出典:Joseph Tse-Hei Lee [李榭熙],‘Duterte’s rebalancing could be an opportunity’(Taipei Times, October 24, 2016)
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2016/10/24/2003657792

 次に、黄論説の論旨は、以下の通りです。

状況は台湾有利に

 親中の学者やメディアは蔡英文に対し、中国の台頭を警告し、両岸関係を深化させることで対処するよう言っているが、世界で起きていることは正反対である。ここ1年以上、国際政治環境は台湾に有利になっており、台日米間の同盟への追い風となっている。これは、経済的にも軍事的にも当てはまる。

 経済的側面では、親中メディアは、中国の経済・軍事・技術部門が間もなく米に追いつくことを「一つの中国」政策の根拠とするが、昨年の米国のGDPは17.9兆ドル、中国のGDPは10.9兆ドルであった。中国のGDPが米国を間もなく凌駕するというのは確かだが、米国が対中政策を調整しなければならないのはまさにそのためである。それには、米日台の同盟形成が必要となる。米国は、経済的優位を維持するにはGDP3位の日本、同17位の台湾と組むほかない。

 軍事面からは、フィリピンのドゥテルテ大統領が、米国よりも中露と組みたいと言い、オバマに「地獄に落ちろ」と言って、全世界に衝撃を与えた。10月7日にフィリピンは、南シナ海での合同パトロールと米比年次演習の中止を米に通告した。他方、同氏の中国訪問は国賓待遇となった。フィリピンと中国は、南シナ海をめぐる両国間の事案への常設仲裁裁判所のフィリピンに有利な判決を覆す合意に達したように見える。

 ドゥテルテの変心は、米国の「第一列島線」への展開にとり痛い一撃だが、フィリピンの抜けた第一列島線は、台湾の軍事的役割をさらに重要なものにしよう。台湾は、日豪を除き、東アジアで最重要となるであろう。

 中国の軍事的拡張、フィリピンの変心を受け、米日台間の軍事同盟が必要となっている。東アジアは中国式の全体主義的資本主義と民主的資本主義の戦いの場となりつつある。

 フィリピンの変心は天の恵みではあるが、ヒラリー・クリントンも言ったように、対中依存は台湾を弱くする。台湾政府は、台湾を弱めるだけの中国との経済統合を改めるべきである。台湾政府は、米と日本に台湾の主権的地位と国際的承認の向上を求めつつ、国内投資に集中するべきである。これが、台湾の唯一の打開策である。

出典:Huang Tien-lin [黄天麟],‘The Taiwan-US-Japan alliance’(Taipei Times, October 18, 2016)
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2016/10/18/2003657387

 いずれも、ドゥテルテの暴走を他山の石としつつ、台湾はこの機会を好機と捉え、米国、日本とより接近した関係を構築すべし、と論じています。

 台湾の地理的位置は東シナ海と南シナ海に跨り、中国の規定する「第一列島線」の中にあります。戦略的に見て、台湾の帰趨は東アジアの安全保障に決定的な重要性を持ちます。フィリピンが米国から離れ、中国に接近しようとするこの機会に、台湾は米、日により接近し、フィリピンに代わって、米国の同盟国の一翼を担うべきだという内容です。

台湾の安全保障上のチャンス

 今日の台湾において、このような議論が直ちに多くの人々の共感を得るかどうかは分かりません。しかし、フィリピンの変化を東アジアにおける親中派の立場の強化とのみ見るべきではなく、台湾の安全保障上のチャンスと捉える発想は興味深いものです。

 ドゥテルテとしては、何よりも中国から240億ドルの経済支援を受けるため、習近平の立場に歩み寄り、中比共同声明の中では、ハーグ常設仲裁裁判所の裁定に一切言及していません。同裁定については、習近平との間では、「今は話すのに適当な時期ではない」と述べただけ、というのが帰国後の説明のようです。いずれにせよ、同氏の持つ不確実性は東アジアにおける大きな不安定要因です。

 米国のアジア回帰策「リバランス」は、オバマ大統領の優柔不断さも手伝い、スローガンとしては使用されてきたものの、実行の伴わないものでした。新大統領の下で、米国の東アジアへの戦略再構成が行われることになるでしょうが、「ドゥテルテの変心」は、フィリピンの抜けた「第一列島線」において、台湾の役割をより大きなものとして扱う可能性はあるでしょう。ヒラリー・クリントンはかつて、台湾の中国への依存度が高まることは、台湾の地位を弱くする旨警鐘を鳴らしたことがあります。

 現在の蔡英文政権は、馬英九政権と異なり、就任演説その他でも明らかなように、米・日・EUやASEAN・インド等との関係を強化し、中国への依存度を減らす方向の基本方針を鮮明にしています。そのような状況下でのフィリピンの変心をいかに台湾の地位向上(経済上、外交上、軍事上)のために活用するか、蔡の腕の見せ所かもしれません。

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