記事

吉岡斉「原子力の社会史」を読む(2)

 原発推進が国策通りの成果をあげる一方で、技術開発部門は苦闘の連続でした。おもなテーマは国産のウラン濃縮、核融合炉の研究、高速増殖炉の実用化、使用済み核燃料再処理の4つでしたが、核燃料再処理だけが超スローペースで実用化されつつある以外は、すべて立ち枯れの状態になりました。

 ウラン濃縮は、アメリカからの濃縮ウラン輸入により意味を失いました。核融合は水爆と同じく安価な材料で大きなエネルギーが得られますが、燃料として管理するには巨大な装置が必要になり、無謀な発想でした。一時は「常温核融合」が話題になりましたが、それも一過性でした。発電しつつウランからプルトニウムを生成する高速増殖炉は、本来は原爆を作るための装置でしたが、これも難問続出で世界に成功例はなく、日本の「もんじゅ」は1兆円あまりの予算を消費しながら停滞しています。商業化の前提となる実証炉にはなりませんでした。

 唯一生き残っている核燃料再処理も、プルトニウムを安全に消費するサイクルが確立しておらず、さらに外国に依頼したプルトニウムも引き取るので、将来の重荷を増やすばかりです。核燃料リサイクル構想は、経済的にも破綻しました。

 この本では、少しですが放射能を除去する核技術にもふれていました。たとえばプルトニウムを無害な安定物質にする変換も可能なわけです。しかしそのためには、また別な原子炉を作り巨大なエネルギーを注入しなければなりません。結論として、高レベルの核廃棄物は、冷温停止の状態で地中に埋めるのが最善の最終処理になるようです。低レベルの廃棄物は、中間処理で体積を減らした上で埋めることになります。

 この本は1999年に書かれたものですが、著者は最後に原子力の今後について4つのオプションを示し、それぞれの評価を下しています。①脱原子力路線  ②軽水炉・直接処分路線 ③軽水炉・再処理路線 ④高速増殖炉路線 の4つの路線ですが、これを「実現可能性」「平和・人道」「環境・安全・健康」「経済競争力」「資源長期安定供給」の5項目で評価しているのです。その総合評価が、きれいにABCDの順になっているのは、今の私たちには自明のことに思われます。

 国をあげた巨大プロジェクトでも、誤ることはあります。方向転換がどれほど苦痛であっても、未来のない路線からは撤退しなければなりません。
(追記・放射性物質を無害化する核種変換技術を別系統で調べてみたのですが、日本でも「オメガ計画」なるものがあったとのこと。ただし高速増殖炉と酷似したもので、要するに「速く燃え尽きさせる」方式です。その燃料にプルトニウムを使うというのですから、ヤブヘビになりそうです。)

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。