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マツコ・デラックスはなぜ嫌われないか

榎本博明 構成=伊藤達也

今の日本は正論を言いづらい世の中になっています。どう見ても正しいと思えるようなことを言っても、その発言をした人は周囲から嫌われたり、疎まれたりしてしまう。それが顕著に表れているのが、ネットの世界です。有名人がSNSで書いていることが正論でも、どうにかして難癖をつける。酷いときは、その人を攻撃するコメントが何百、何千件も殺到して「炎上」してしまいます。

組織における大人のやり方とは

正論が嫌われるのは職場も同じです。たとえば、会社の会議を思い出してください。正論をぶつ人をうざったく感じたり、もしくは自分自身が正論を話したつもりが、周りから顰蹙を買ってしまったという経験があるのではないでしょうか。

日本の会社組織では、体面を保つことが何より重視されます。これは、組織の中で敗者をつくらないための戦略とも考えられます。正しいことを言ったり、間違ったことに反論するにしても、言い方を考えるのが、美徳とされているのです。たとえば、A案とB案のどちらを採用するか議論するとしましょう。どう見てもA案が優れていたとしても、B案を軽々に切り捨てるのは、B案を考えた人の体面を傷つけてしまう。A案とB案の両方とも立てるため、折衷案をつくったりするのが、日本の組織における大人のやり方なのです。

対して、会議で誰かが「A案のほうが絶対に正しい」「その証拠としてこんなデータがある」などと言ったらどうなるでしょうか。なまじ正論だからこそ、周囲は反論もできません。しかし、上司や取引先、いろんな人を慮って折衝してきた過程というものがあります。それを無視して、正しいことだけを言ってしまうと疎まれてしまうというわけです。

さらに、「有能さをひけらかしている」と反発を買ってしまうこともあるでしょう。会社組織の中では、誰もが常に他人と比べられたり、理想通りにいかない自分に焦ったり、コンプレックスを抱えているものです。派手に正論をぶつことで、同僚や上司のコンプレックスを刺激してしまい、嫌われてしまうのです。

ネットの炎上も同じ構図があります。あの自信満々な態度がムカつく。それに比べて自分は……。そんな理由で有名人を炎上させてしまう。社会的な地位が高い人を引きずりおろしたいという心理が働くのです。

しかし、正論を言っても炎上しない、むしろその人の正論を聞いてスカッとしたいと思わせる人気者もいます。それが、マツコ・デラックスさんや、有吉弘行さん、坂上忍さんです。どう見ても彼らは優れた人たちなのですが、マツコさん自身が、「私みたいなデブのオカマを世間様が面白がっている」というように、どこか横道にそれたキャリアを歩んでいると自他ともに認めています。

そんな正統派でない人たちを見ると、視聴者はどこか「自分のほうがマシ」と許せてしまうのです。そうして、その人たちの正論に快哉を叫ぶ。職場でも、本流から外れた人がこぼす正論のほうが受け入れられやすいものです。嫌われない人とは、「相手のコンプレックスを刺激しない人」なのだといえるでしょう。

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