- 2016年11月21日 18:26
タクシーの日本交通とトヨタが組んだワケ - 中西 享
自動運転やライドシェア(相乗り)といった新しい移動手段が登場する「移動革命」が起きつつある中で、タクシー・ハイヤー業界最大手の日本交通の川鍋一朗会長は、このほど日本記者クラブで講演、「配車アプリなどITを活用して世界最高のタクシーサービスを提供できるようにしたい。これからのタクシー業界はスマートフォンを使って呼べる時代に、さらには自動運転の時代になっていくだろう。今後10年、15年かけてこの変化を乗り越えていかなくてはならない」と述べた。
「ウーバー追撃」
日本交通はタクシー業界の規制緩和が進む中で、国際的にも高いとされる東京都23区(武蔵野市、三鷹市を含む)のタクシー初乗り運賃を現在の730円を410円に引き下げる申請するなど、タクシー業界を新しい方向にリードしてきた。来年10月にはタブレット型パソコン端末を積んだ「ジャパンタクシー」が東京に登場するそうで、このタクシーは外国語の自動翻訳が可能で、利用者がタブレット上で行き先を指定すれば目的地まで行ってくれて、クレジット決済ができる。川鍋会長は「タクシー専用にトヨタ自動車が開発した。車内のスペースは広く、お客様に送風する風を調整でき、座席暖房もできるなど細かいサービスが行き届き、しかも初乗りが410円で、間違いなく世界一のタクシーサービスが提供できる。
ロンドンの『ブラックキャブ』やニューヨークの『イエローキャブ』と比較しても価格競争力がある。(この車の開発には)東京都からも予算をもらっており、東京オリンピックまでには東京で走っているタクシーの3台に1台はこの車に変えたい」と抱負を語った。配車アプリの現状については「日本交通はボディーに『アプリで呼べる』と書いたタクシーを走らせている。すでに日本のタクシーのうち4万台がアプリ配車のできるタクシーだ。来年の2、3月にはこれに東京無線のタクシー4千台が加わるし、個人タクシーも入ってくる。配車アプリでいまはウーバーが先行しているが、どんどん追いついている」と指摘、「ウーバー追撃」の動きが強まっている。
このほか、規制緩和とアプリ配車の実現により、来年以降には乗車前に運賃を事前に決める「前決め運賃」や、急に雨が降ってタクシーが捕まらないときに少し割増料金を払うことにより捕まりやすくなる「ダイナミックプライシング」、相乗りなどのタクシーの新しいスタイルが登場してくるという。
東京五輪までに自動運転タクシー
自動運転車については「自動運転の車が出て来ると、タクシーは要らなくなるのではと思われるが、お客を運べるのは旅客運送事業の免許をもらっている我々しかできないので、タクシー会社が自動運転をやれば勝てそうと思った。そこで、自動車メーカーで最も強くてタクシーの8割の比率があるトヨタと全国ハイヤー・タクシー連合会が今年8月に自動運転車の開発に関して覚書を交わした。20年の東京五輪までにトヨタが開発した自動運転タクシーのデモを行う。
自動運転に必要なデータは毎日4千台のタクシーを走らせている日本交通が最も蓄積しているので、トヨタのデータリサーチ会社に送って分析してもらう。これを使って再来年までに東京の3D地図を作成する」と述べ、自動運転タクシーの実現に向けて準備を進めていることを明らかにした。
自動運転のタクシーは、今年9月に米国のベンチャー企業がシンガポールで試験走行を開始、ウーバーも同月に米ピッツバーグの路上で試験走行を開始している。
AI(人工知能)の活用については「渋滞した際にどの道を走るかはこれまではドライバーの経験に頼っていたが、AIを使えば簡単に最適のルートを選択することができ、テスト段階の現在、AIを活用することで売上が10%上がってきている。タクシーのコストの73%が人件費なので、AIを使って効率的に管理すれば、圧倒的な人件費比率を下げられる余地がある。その意味でタクシー業界はローマージンではあるが、新しいテクノロジーを使えば利益が拡大するチャンスがある。これを生かせるかどうかは経営者の私の才覚にかかっている」と述べた。
アプリを武器に業界を再編
日本全体で24万台あるタクシー会社はオーナー企業が多く、その多くは先代の経営者が残っているため、アプリについての理解が乏しく、なかなか新しい時代に対応して動いてくれないという。川鍋会長は「その中で戦いたい人にはアプリという武器を渡して、業界再編をしていく中でタクシー業界をもう少し強くしたい。市場規模は年間1兆6千億円あるが、業界トップの日本交通の売り上げは5百数十億円でシェアは3%しかない。トップ企業のシェアがこれほど低い業界はほかにはない」と述べ、最新のテクノロジーを積極的に導入することで新しい時代を生き抜きたい方向を示した。
配車アプリサービスでウーバーとの違いは「日本交通はタクシーなので、ウーバーよりも圧倒的に捕まえやすい。ウーバーはハイヤー車両なので素敵ではあるが、料金はわが社の方が安い」と話し、競争力は十分あることを強調した。
リスク許容度に違い
ライドシェアが日本の都市部で認められない点には「ウーバーはタクシー事業者ではあるが、事故が起きた時などの事業者責任は負わないと言っている。このため、政治家や国土交通省は事業責任をだれが負うのかについて非常にリスクを感じている。国交省は今年1月に軽井沢で起きたスキーツアーバス事故以来、安全面などの規制を強化してきている。インターネットの世界なら、事業者責任を取らなくてもいいのかもしれないが、事故が起きたらだれが責任を負ってくれるのかということになるので、東京ではなかなか難しい。これが認可されない最大のハードルになっている。米国は車検もないし、国によって交通に関しての抜本的なリスク許容度が異なる。ウーバーのアプリは素晴らしいので良い面は吸収したい。しかし、素晴らしくないのは事業責任を認めないことだ」と述べた。
今年5月に京都府京丹後市でスタートした自家用車を使ったライドシェアについては「京丹後市か京丹後市が委託したNPO法人が事業責任を負うということで事業責任が担保されたので認可されている」と説明、ライドシェアが認可されるためには事業責任の明確化が求められるとの見方を示した。 自動運転車の登場によりタクシードライバーが必要なくなることに関しては「ドライバーは1年間に10%は入れ替わるので、10年間採用しないと、2、3割しか残らない。自動運転車はいきなり出てこないが、自動運転になってもヘルパー、ベビーシッター、観光案内など人間が関与する部分は残るので、若い新卒のドライバーにはキッズ(子供)、介護、観光のうちのどれかのプロになるように指導している」と述べた。
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