記事

特集:ドナルド・トランプ氏勝利!の謎を解く

2/2

●むしろクリントン支持者の方に問題

それではこの「忘れられた=嘆かわしい人々」は、どれくらいの規模で存在するのだろうか。トランプ候補は、共和党予備選で史上最高の1400万票を集めているが、本選挙の投票結果から浮かぶ数はそれほど多くないと思う。

次ページに掲げるのは、米選挙分析サイトであるelectral-vote.com が11月11日時点で公表したデータである3。開票作業は今も続けられているので、最新の数字はこれよりも増えているはずだが、大よその動向を掴むには十分であろう。

米国の人口は3億2000万人もいるのに、毎回、選挙に参加するのは1億2000万人程度である。2016年のそれは、ほぼ6000 万人ずつにキッチリ割れた。獲得した選挙人数ではトランプ/ペンスの290人に対し、クリントン/ケインは232に留まった(ミシガン州の16人はなおも集計中)。しかし一般投票(Popular Vote)では、クリントン候補がやや上回っており、これは歴史上4回目の現象だそうである4

これを2012年結果と比較してみる。共和党側は4 年前のロムニー候補の得票と変わっていないのだが、民主党側はオバマ大統領のときに比べて約10%、600万人近くも減っている。この結果を素直に読むと、トランプ候補が新たに掘り起こした票はそれほどの数ではない。むしろクリントン候補が失った票の方が大きかったことになる。

4年前は民主党州だったが、今回は共和党州に変じた5つの州(☑マーク)に着目すると、なるほどフロリダ州とペンシルバニア州では、共和党票が有意に増えていることが確認できる(44万票と23万票)。この分がトランプ支持層だとしても、畢竟その程度である。むしろオハイオ州、アイオワ州、ウィスコンシン州などでは民主党票が大きく減っている(51万票/17万票/23万票)。こちらの方がはるかに勝敗に直結している。

後知恵になってしまうが、クリントン候補は中西部にもっと足を運ぶべきであった。僅差で敗れたペンシルベニアとウィスコンシン州、それに現在集計中のミシガン州を併せると選挙人数は計46人に及ぶ。この3州を加えると、232+46=278人で過半数を超えて余裕で当選となる。この3州を併せると、民主党票は共和党票に比してトータル10万票ほど足りなかったに過ぎない。トランプ氏の勝利は実は紙一重のものだったのだ。

ところが彼女は、投票日の数日前まではミシガン州での世論調査も実施しなかったし、ウィスコンシン州に至っては1度も足を運んでいない。トランプ氏が「ラストベルトで勝負を懸ける」と言っていたにもかかわらず、である、確かにこれらの州は伝統的なブルーステーツ(民主党州)であったが、つくづく惜しまれる判断ミスであった。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉通りではないか。



●民主党員はなぜ「家で寝ていた」のか

それでは、なぜ民主党票は「家で寝てしまった」のか。
すぐに思いつくのは、投票日直前に発生したFBI による「メール騒動」の影響である。

しかし州ごとの結果を見ると、なるほどカリフォルニア州やワシントン州などのブルーステーツでは、民主党票が前回比3割減となっている。が、それらは勝敗に無関係な動きであるはずだ。逆にテキサス州では、民主党票が大幅増になっていたりする。メール問題は、少なくとも全国的に影響したとは考えにくい。

やはり「クリントン氏を大統領にしたい」という熱意が欠けていた、というのがいちばん分かりやすい理由づけとなる。哀しいかなヒラリーは、4年前や8年前のバラク・オバマのようには愛されてはいなかった。むしろバーニー・サンダース上院議員の方が、民主党員の心を熱くする存在であった。結果として、特に中西部の諸州ではおそらく組合票がごっそりと抜け落ちて、僅差の敗北を招いたのではないだろうか。

よく、「民主党員は候補者に恋をする」と言われる。2008年や12年はまさにそうだったが、本気で候補者に惚れていないときの選挙は強くない。「トランプを大統領にするくらいなら、ヒラリーに投票を」と言われても、彼らは心から納得できなかった。逆に共和党員は、「ヒラリーを大統領にするくらいならトランプに投票を」と言われてその通りに行動した。今回の投票結果は、そんな風に語っているように見える。

●米国はやはり中道右派の国だった

もうひとつ、「米大統領選における2期8年のサイクルはやはり強かった」という見方もできる。次ページの表は、本誌2015年9月11日号で紹介したものだが、そこでは以下のように解説している。
第2次世界大戦以降の歴史で、同一政党が3 連勝したことはこの1988年の1回だけである。
その1980年代は「保守主義の時代」と呼ばれた。ルーズベルト大統領が築き上げたリベラル派の天下を、レーガン大統領の時代にひっくり返したというわけである。それから30年、仮に次の選挙で民主党候補(例えばヒラリー・クリントン)が勝てば、もう1 回振り子が触れて、リベラルの時代が到来した、という評価になるだろう。

他方、共和党の候補が勝った場合は、今までのサイクルが続くことになり、「やっぱり米国は中道右派の国」ということになりそうだ。少し大袈裟な言い方になるが、2016年選挙で問われるのは、「時代はどっちに向かっているのか」である。
米国社会の世代交代や人種の多様化を考えると、「リベラルの時代到来」説には説得力があった。若い世代やマイノリティ層は民主党支持者が多い。逆に共和党支持者が多い白人男性は、人口動態的にはどんどん少数派になっていく。ただし今回の結果を見る限り、「米国はやはり中道右派の国であった」ということになる。

2016年選挙の結果、共和党はホワイトハウスを得たのみならず、議会では上下両院で多数を得ることとなった。このことは、最高裁において空席となっている9人目の判事として、トランプ次期政権によって保守派がの判事指名されることを意味している。従って最高裁判事は再び5対4の保守派優位となる。行政、立法、司法の3 権を共和党が支配することになるわけで、リベラル派にとって2016年選挙は手痛い敗北となった。



一例をあげれば、オバマ政権は気候変動問題に対する思い入れが深かった。このことはパリ協定の早期発効を可能にしたが、岡目八目の感想を言わせてもらえば「米国って、それほど環境問題に真剣な国だったっけ?」ということになる。今のようにガソリン価格が低下すると、いきなりハイブリッド車が売れなくなってSUV が売れる、というのがわれわれの知る米国社会である。オバマ政権の方が異端だったのではないだろうか。

トランプ政権は、おそらくパリ協定から離脱するか、気候変動問題を極端に無視する態度を取るだろう。もう一度、州ごとの選挙結果をご覧願いたい。ケンタッキー州やウェストバージニア州など、石炭産業の盛んな州で共和党票が伸びていることが分かる。トランプ次期大統領にとって、「化石燃料復活」政策は炭鉱関係者など典型的なトランプ支持者への絶好のプレゼントとなるはずだ。同時にそのことは、新興国への援助額を減らし、オバマ大統領のレガシーを台無しにし、中東に対するエネルギー依存度を低くすることにもつながる。つまり保守派にとって、いいことづくめの選択ということになる。

今後の米国を予測する上では、「中道右派路線への回帰」ということが鍵になるだろう。

1 @tameikekanbei ですが、フォローしても意味ないです。
2 同社HP のHow do you define “Likely Voters”(Frank Newport/May 23, 2000)を参照。
3 http://www.electoral-vote.com/evp2016/Pres/Maps/Nov11.html#item-1
4 これに対し、「選挙を一般投票にすべき」との声も上がっているが、トランプ氏は「だったら俺はNYとフロリダとカリフォルニアで選挙戦を展開して、もっと簡単に勝っている。Electoral College は小さな州も含めてすべてが参加できる優れた制度なのだ」とツィートしている。こっちの方が正論であろう。

あわせて読みたい

「アメリカ大統領選」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。