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ダイヤモンドの夢と日本の現実

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 外国人を差別の対象とするものだけではなく、偏見に乗じて福島に関わるあらゆるものを排除しようとする言論もまたヘイトスピーチであるように、戦前戦中の日本像を塗り替えようとするものだけではなく、比較的近い年代における日本の記憶を歪曲しようとするものもまた歴史修正主義の一つではないかという気がします。案外、自分たちの生きていた時代のことでも誤って伝えられていたり、勘違いが重ねられたまま実態とはかけ離れたイメージが構築されているところはないでしょうか。

 少なからぬ日本人が忘れているように思えるのは、「リストラ」という言葉が流行り始めた時代のことです。不況が始まって真っ先に人員削減の標的とされたのは、相対的に給与の高かった中高年でした。この特定の年齢層を狙い撃ちとした首切りの横行とともに、リストラという言葉が一般に広まったわけです。しかるに、この中高年が犠牲にされた時代の記憶は、とりわけ経済について知ったかぶりをする人ほど忘却の彼方に追いやっている傾向があるように思います。

 日本人から失われた記憶のもう一つは、年功序列型の賃金体系や終身雇用制度が、限られた時代の限られた会社における男性正社員に限定されたものであったことです。それは出世への道を閉ざされた非正社員や女性にとっては昔から縁遠いものでしたし、明日をも知れぬ中小零細企業においてもまた同様だったわけです。そして、今となっては大企業においても廃れて久しい。にも関わらず年功序列批判、終身雇用批判が止むことはありません。それは共産主義を実践しようとする国や政党が絶滅危惧種と化した現代においても反共主義が衰えないことを彷彿とさせる、時代錯誤精神の発露と言えるでしょう。
経済学の常識からみると
派遣社員の賃金は正社員より高くすべき(DIAMONDonline)


 最近何かと話題の「格差」については、規制緩和や市場原理がその原因だとよくいわれますが、これはまったくのデタラメです。ボリュームの点で、日本における重大な格差は、大企業の中高年正社員や公務員と若年層の非正規社員との格差で、これは市場原理が働かないから引き起こされています。
 さて、今日は久々にお笑いダイヤモンドを読んでみましょう。まぁ、相変わらずと言うべきか進歩のない内容ではありますが、ツッコミどころには事欠きません。「派遣社員の賃金は正社員より高くすべき」と、おそらくは編集スタッフが付けたと思われる見出しにはもっともなことが書かれていますけれど(負わされたリスクの分だけ報酬は上乗せされてしかるべきですから)、どうも引用元の作文で著者が言いたいことは別物のようです。なんでも「規制緩和や市場原理がその原因だとよくいわれますが、これはまったくのデタラメです」とか。

 にも関わらず、同じ段落で「大企業の中高年正社員や公務員と若年層の非正規社員との格差」が問題視されているのは不思議な話です。まず、そこで挙げられている非正規社員の急増は、まさに規制緩和によって生み出されたもなのですが。公務員と民間企業との賃金格差は数値のトリック(常勤の公務員給与と、パートタイムを含めた民間企業全体の給与が比較されている等々)でしかないので無視するとして、では本当に差があるもの、例えば大企業と中小企業の従業員の格差などは気にならないのでしょうか。それはもちろん、市場原理によってもたらされたものです。
 そもそも派遣社員というこの日本で問題になっている雇用形態は、コストの面で見れば企業にとってそんなにいいものではありません。なぜなら派遣会社にピンはねされるからです。手取り20万円の派遣社員を雇うのに企業は40万円ぐらい負担しないといけません。

 それでもなぜ派遣社員を使うかというと、景気が悪くなった時に解雇できるからです。企業は派遣社員を使うことによって人件費を変動費にすることができます。そのためには少々割高な費用でも割に合うわけです。
 先だって、上記作文の著者が具体的に非正規雇用にどのようなイメージを抱いているか見てみましょう。何でも派遣会社にピンハネされるから、派遣社員は安くないのだとか。う〜ん、エメラルドの都ならぬダイヤモンドの都では、そういうことになっているのかも知れませんね。では日本の場合はどうなのでしょうか?

 まず派遣会社もまた立場は弱いことは認識しておく必要があります。基本的に派遣会社は派遣先企業の言いなりですから。一方的に派遣契約を打ち切られては、派遣社員だけではなく派遣会社だって収入のアテを失う、大損害を被るわけですが、それでも黙って引き下がるのが派遣会社と派遣先企業の一般的な力関係です。謂わば労働力という在庫を本社に変わって引き受ける下請け企業のような立場、というのもまた派遣会社の一面です。そんな派遣会社が、手取り20万円のために派遣先企業に40万円も請求するみたいなボッタクリが可能なのでしょうか。下請けに厳しくコスト削減を求めておきながら、派遣会社には言われるがままに支払うとか、そんな馬鹿な会社経営者がいるとは流石に考えにくいです(身内が偽装雇用のための派遣会社を経営してるなんてケースもありますけれど)。

 派遣社員と派遣会社の取り分は7:3が相場です(一般的な職種の場合どこも談合しているかのように7:3で、派遣社員側の取り分が多いことを売りにする派遣会社というのは激レアです)。手取りが20万円なら額面は23万くらいですから、派遣会社の取り分は10万程度になります。日本で手取り20万円の派遣社員を雇うのに必要な市場価格は33万円です。もし40万円も支払っている会社が実在するなら、その会社は無知に付け込まれてぼったくられています。ちなみに一般的な派遣社員(規制緩和によって増加した専門性の低い派遣社員)の給与水準は、だいたい派遣先企業の新入社員と同じくらいです。そこで手取り20万円の正社員を雇った場合の人件費はどれほどのものでしょうか? 人件費は給与だけではありません。従業員の社会保障費の事業主負担分もあれば、交通費や諸々の福利厚生費だってあるわけです。結局、手取り20万円の正社員を雇うには30万程度の人件費は必要になります。それに加えて正社員なら採用活動のためのコストも掛かる、真っ当な企業ならボーナスも出すでしょう、そして社員を会社に引き留めておきたいのなら、僅かなりとも昇給させてやる必要がある、マトモな企業ほど正社員は高く付くのです。

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