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人はなぜスケープゴートを作り出すのか? - 釘原直樹 / 社会心理学

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スケープゴートとは

災害や事故で大きな被害が出た時、あるいは不正行為や犯罪が明らかになった時、マスコミによる集中豪雨的な報道がなされることがある。そして往々にして、悪者探しが行われ、何が原因であるのかより、誰が悪いのかが追及される。すなわち、責任主体が不明確な場合でも、特定の人や集団がターゲットとして選び出されて非難されることもしばしばである。

これは、人が曖昧な状況やフラストレーションに長時間は耐えきれず、早急に責任者を選び罰することによって心の安寧を回復しようとするためであると考えられる。このような現象がスケープゴーティングであり、その対象となったものがスケープゴートと呼ばれる。

様々なスケープゴーティングが考えられる。例えば「いじめ」である。いじめられっ子の存在により学級の安寧が保たれている可能性があるため、その子がいなくなれば、別の子が対象として選び出される可能性が高い。それからいわゆる「バッシング」もスケープゴーティングの一種だと考えられる。子どもが自殺してそれがいじめによるものと認定されると、教師や校長に対する執拗な非難攻撃が繰り返される。

人々にとってスケープゴートがなぜ必要なのか

第1の理由は人が様々な煩悩をかかえていることである。それは例えば、「ズルをしてでも金持ちになりたい」「卑劣な方法を使ってでもライバルを押しのけて彼氏や彼女と結ばれたい」「自分の能力は低いが、他者には能力があると思われたい」などである。

精神分析理論によれば、スケープゴーティングは自分の中にあるこのような邪悪な思考や感情(不安、罪悪感、性的欲望、低能力、劣等感)を抑圧して意識外に追いやり、さらに、それを他者に投影することによって、解消しようとする無意識の試みであると説明される。

その邪悪な思考や感情が投影されたターゲットがスケープゴートである。ユダヤ人が、金銭欲が強いと思われていたのは、キリスト教徒に内在する金銭欲が抑圧され、ユダヤ人に投影されたためであると考えられる。また以前、白人は「黒人には強い性欲があり、白人女性によこしまな思いを持っている」と思っていたそうである。これも白人自身の中にある性欲が抑圧され、黒人に投影されたものと考えられる。

さらに、前東京都知事であった舛添氏がマスコミによりバッシングされたのも、人々の金銭欲が舛添氏に投影された結果であるとも考えられる。バッシングすることにより人々は自分の金銭欲を無意識に追いやることができる。そして自分は「舛添氏とは違い、金銭面でピュアであり、あのような恥ずかしい人間ではない」と思い込むことができるのである。

第2の理由は人生(他者、仕事などを含む)がままならないことからくる欲求不満である。人は人生を思い通りにコントロールしたいという基本的欲求を持っていると考えられる。しかし人生は多くの災難や不幸に見舞われ、予見不可能である。この脅威を小さくし、コントロール感を維持するために、人は不幸の様々な原因を少数に絞ったり、真の原因とは別の対象を見出すことが考えられる。その対象となるのが特定の個人であり集団である。

「権力は腐敗する」という表現も、その権力を倒した側や批判する側が、旧権力(敵)こそが社会に数々の不幸をもたらした主要な原因であると特定することによって、自分たちのコントロール感を高めようとする心理メカニズムとも考えられる。

敵の存在は、広範囲にわたる予見できないリスクに満ちた環境をより、コントロール可能なものとして知覚させるのに都合が良い。たとえ、敵の影響力と厄災との関連が明確ではなくても、コントロール感を喪失した人はそれを回復しようとして不幸の原因を過剰に敵に帰属することもありうる。

すなわち、人々が曖昧で脅威に満ちた状況に置かれた時、ある敵を見出し、脅威の源がもっぱらその敵にあると見なし、強大な力があると思い込む。そのことにより状況が理解しやすくなり、コントロール感を回復できると考えられる。これはテロリストの心理にも通じるものである。

マスメディアは連続殺人などの凶悪犯罪が起きると犯罪者の異常な行動について大々的に報道する。これは社会の敵のイメージ作りに貢献しているとも言える。コメンテーターは何か事件が発生した時、「信じ難い行為」「人間ではない」という言葉を繰り返すことがある。これも敵や悪者の像を巨大化させ、そのことにより人々のコントロール感を高めることに貢献しているとも考えられる。

この意味で人々にとって諸悪の根源である悪者の存在は必要不可欠であり、もし悪者が消えた場合、次の新たな悪者を見出さなければコントロール感が失われてしまう可能性がある。

コントロール感を高めるもうひとつの有力な方法は擬人化(人為化)である。イヌ、ネコのみならず、爬虫類にも「心」を見出している飼い主が多い。それは、われわれが動物やロボットを擬人化することによって理解し、コントロール可能なものとしてとらえようとするからであろう。

また日食のような天体現象でさえも、昔は人間のような意志を持った超自然的存在によって説明された。それに対して、現代は数学により定式化された物理法則で理解する。その意味で神と数式を入れ替え、より都合のよいもっともらしい説明をしているとも考えられる。

いずれにしても人為化は不明瞭な世界を理解するのに都合が良いのである。人知が及ばない世界を人知が及ぶ世界に転換するには人為化することが手っ取り早い。星座や台風に人間の名前をつけたり、幻に幽霊を見て人為化するのは人が環境を何とか理解しコントロールようとする努力の現れであるとも考えられる。

また大災害が起きるとマスメディアは「これは災害ではなく人災だ」と報道することが多い。どのような自然災害もそれに関わる人や部署はあるので、スケープゴートを見出すことは容易である。

そして、この人為化には文化の違いも見出されている。日本は擬人化に対する許容度が高い国であり、アメリカは低い国であることがわかった。アメリカ人の類人猿研究者は日本人研究者がサルを擬人化することを批判するそうである。アメリカ人は意識してそれを避けるが、日本人研究者は擬人化に対してそれほど抵抗がなく、また現象の理解に役立つため意図的に行っている面もあるということである。

スケープゴートのターゲット

スケープゴートの対象となりやすいのは先述した道徳観やコントロール感の回復に役立つ人や集団であることが考えられる。投影が容易で、不安や自尊心を回復しやすい対象が選ばれるであろう。

具体的には第1に多数者から嫌悪感を持たれている異質者・異端者である。これは歴史的・精神的・身体的特徴による。キリストを殺したとされるユダヤ人が差別の対象となり、中世ヨーロッパでは幻覚・妄想など重い精神症状を持つ人が魔女裁判にかけられた事例が少なくなかったということである。

第2は攻撃しても安全な対象である。マイノリティーや弱者(例えば、不況時のドイツのユダヤ人、9.11同時多発テロ発生時のアメリカのアラブ人、学級の中のイジメられっ子)は多数者の恰好のターゲットとなる。

ただし、完全な弱者はコントロール感の回復にはあまり役立たない。コントロール感の回復には相手が強い方が効果的である。ただし、強い報復があれば困るので、報復を回避しながらスケープゴーティングを行う必要がある。その意味では、もっとも良いターゲットは、過去において強者であった者や反撃が封じられている強者である。

例えば王侯貴族や上流階級、権力者は革命や敗戦によって社会体制が変わると処刑されたり追放されたりする。フランス革命ではルイ16世がギロチンにより公開処刑されたり、ルーマニア革命ではチャウセスク大統領が殺害されその無惨な写真が公開されたりした。

またドイツ敗北後、ヨーロッパ全域でナチスやその協力者に対する激しい追及が行われた。特に憎悪の対象となったのが、対独協力者で、群衆の面前でリンチされたり、絞首や銃殺により処刑された。

また金持ちや成功者、大企業の不祥事はマスメディアの恰好の攻撃対象になる。聴覚障害のため日本のベートーベンと賞賛された作曲家のウソや新しい万能細胞を作製したとされた若い女性研究者の論文剽窃に関してメディアによる大量報道がなされた。

このような対象を攻撃することは自尊心の向上に効果的なのである。すなわち今まで攻撃が許されなかった強者に立ち向かうことにより、弱者や正義の味方をしたという自己満足と過去のねたみや恨みを晴らしたという充足感を味わうことができるのである。

また、先述した弱者(ユダヤ人、アラブ人、イジメられっ子)も攻撃する側にとっては完全な弱者ではない。ナチス時代のユダヤ人は当時ドイツの経済を牛耳っていて、ドイツ社会を崩壊させる意図と力を持っていると考えられた。魔女も中世ヨーロッパでは得体の知れない不気味な力を持っていると思われていた。9.11の時のアラブ人もテロの意図をもっていると恐れられた。

イジメもイジメる側はイジメられっ子によって何らかの被害を受けていると思っている。このように多数者の妬みや羨望あるいは嫌悪の対象であり、攻撃しても反撃されない対象についてスケープゴーティングは行われるのである。

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