- 2016年11月13日 15:06
「クオリティ・インディケーター(QI)」を用いて医療の質を測り、改善を目指す
3/4オバマケアの下で導入されたP4Pには主に2つあります。QIに応じて支払い額が変わるHVBP(Hospital Value-Based Purchasing)と、再入院率に応じて支払い額が変わるHRRP(Hospital Readmission Reduction Program)です。実は、2018年からは医師個人に対するP4Pを規定したMACRA(Medicare Access and CHIP Reauthorization Act)が実施される予定だったのですが、こちらもトランプが大統領になったら変更が加えられる可能性があります。
HVBPによって全ての急性期病院が強制的に参加させられ、QIに応じてボーナスやペナルティが課されるようになりました。QIの項目としては、入院後30日死亡率(リスク補正後)などのアウトカム指標に加えて、数々のプロセス指標も採用されていました。さらには、QIの達成率だけでなく、改善率も計算式に含まれており、当初の達成度が低い病院にもきちんとインセンティブが与えられるように設計されていました。一方で、HRRPは特定の疾患において患者の退院後30日以内の再入院率(リスク補正後)に応じてボーナスやペナルティが課されました。
QIの導入が実際に患者のアウトカムが改善したのか、という研究も行われています。HVBPは残念ながら患者の死亡率を改善させるというエビデンスは得られませんでした。(Ryan, 2015; Figueroa, 2016)これはQIの測定項目に問題があった、ボーナス・ペナルティーの額が小さすぎたなどの原因が考えられていますが、答えは明らかになってはいません。英国の例でも同様のP4Pは患者のアウトカムを改善させなかったというエビデンスがあり(Kristensen, 2014)、P4Pをどのようにデザインすれば期待通りに患者のアウトカムを改善するのか関しては分かっていません(P4Pのエビデンスに関しては過去のブログ1、ブログ2もご覧下さい)。
表2.HVBPの患者の死亡率への効果

*HVBP導入の前と後で患者の死亡率は変わっていないことが分かる。
一方で、HRRPは再入院率を統計学的に有意に減らしたというエビデンスがあります。再入院率のようにシンプルな項目に関しては病院側も比較的対処しやすいのですが、死亡率など実際に下げるにはかなりの努力と工夫が必要なアウトカムに関しては思ったような効果が上がっていないというのが現状のようです。
表3.HRRPの再入院率に対する効果

*当初,HRRPの対象となったのは心筋梗塞,心不全,肺炎の3疾患であった。オバマケアが導入された翌月の2010年4月から再入院率は減少し始めたが,12年10月ごろから下降のスピードは鈍化している。HRRPの対象でない疾患でも再入院率は減少したが(波及効果),2つのグループを比較すると対象疾患のほうが統計学的に有意に再入院率が下がっている。
QIは測って公表するべきなのか?それともリスク補正が完ぺきになるまで待つべきなのか?
アメリカでは上記のようにQIの公開や、QIを用いたP4Pが次々と導入されてきており、QIそのものを疑問視する声はもはやあまり聞かれません。アウトカム指標に関してはリスク補正の精度が昔までは悪かったという問題に関しても、今はかなり改善してきており、(未だ改善の余地はあるものの)ある程度信頼できるものになっているというのが共通見解です。しかし、日本ではまだQIに懐疑的な人も多いようです。
医療の質研究の第一人者であるハーバード公衆性大学院のアシシュ・ジャ教授は、「QIには2つの考え方がある。一つ目は、リスク補正やその他の測定の精度が完ぺきではないので、完ぺきになるまでQIに関する公表や支払いは控えるべきであると言う考え方である。もう一つは、患者には医療の質を知る権利があるので、今できるベストなリスク補正をしたQIを公表したり、P4Pに用いて、同時に今後もリスク補正の精度を高める努力を続けて行くという考え方である。私は後者の走りながら改善していくと言う方法の方が良いと考える。」と言います。私もこの考え方に同意しています。



