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「クオリティ・インディケーター(QI)」を用いて医療の質を測り、改善を目指す

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アメリカでは何が起きているのか?

アメリカでは2つの大きな変化が起きています。一つ目はQIの公表であり、もう一つはQIによって医療費の支払い額が変動する業績に伴う支払い制度(Pay-for-performance: P4P)です。このいずれに関しても、推進しているのは公的保険の保険者であるCMS(Centers for Medicare & Medicaid Services)です。

アメリカでは65歳以上の高齢者は実は皆保険制度が達成されており、ほぼ全員公的保険であるメディケアに加入します。CMSはメディケア全米で5,500万人分の支払いを一手に引き受ける巨大な保険者なのです。このCMSはQIの公表やP4Pを導入することにしました。それに決めるにあたって病院や医師の意向はパブリックオピニオンは集めましたが、その影響は限定的だと考えられます。CMSのスタンスとしては、患者には医療の質を知ってそれを元に医療機関を決める権利があり、医療サービスに対価を支払っているCMSにはどのような形で支払うか(量に対して支払うのか、質に対して支払うのか)決める権限があるというものであると、いうものであったような印象を受けます(この部分に関してはあくまで私の印象であり、CMSが正式にそのような声明を出した訳ではありません)。

QIの公表とは、要は医療の質に関する「情報の透明化」です。患者と医療機関との間には大きな情報の非対称性があるため、それを患者に情報を提供することでできるだけ小さくしよういう試みです。CMSのHospital Compareというホームページに行くと、全米でメディケアから支払いを受けいてる全ての急性期病院のQIを、誰でも見ることができます。リスク補正後の各病院のQIが全米平均と比べて、統計学的に良いのか悪いのかということも分かります。さらには、QIの項目が多過ぎて何を基準に選んだら分からないという人のためには、複数のQIを総合的にまとめて一つの指標として、それを5つ星システムで評価してくれています。つまり、ホテルやレストランのように、「5つ星の病院を選ぶ」なんて言うことも可能で、この星の数は、専門家が主観的に選んだものではなく、客観的に評価されたQIの重み付け平均に基づいたものなのです(この5つ星システムに関しては過去のブログをご覧下さい)。

表1.Hospital Compareのホームページ画面(2016年11月13日時点)

(A)心筋梗塞患者のリスク補正後の30日死亡率

AMI mortality.jpg

*ボストン市内の3つの病院における心筋梗塞患者のリスク補正後の30日死亡率のデータ。全米平均は14.1%であり、各病院の95%確信区間(ベイズで推定される)は黄色の四角で示されている。どの病院も全米平均と変わらないという結果が示されている。

(B)ICUおよび選択された病棟における尿道カテーテル関連の感染症の頻度

CAUTI.jpg

*全米平均を1とした場合の、各病院の感染症発生率を示している。マサチューセッツ総合病院とブリガム・アンド・ウィメンズ病院は全米平均よりも統計学的に有意に発生率が低いことが分かり、それは緑色の四角で示されている。一方で、ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センターは全米平均よりも統計学的に有意に高く、そのことは赤色の四角で示されている。ちなみにマサチューセッツ州の平均は0.674であり、全米平均よりもかなり低いことも分かる。

QIを用いたP4Pもかなり進んできています。この背景にあるのは、量に対する支払である出来高払いでは、最適なレベルよりも多い量の医療サービスが提供されてしまうと言う問題があります(医師誘発需要に関しては過去のブログをご参照下さい)。医療経済学的に量に対する支払いに問題があると分かっている以上、代わりの支払い制度が必要であり、理論的には質に対する支払い(アメリカでは価値[Value]に対する支払いと表現されますが同義です)は医療の質を高めることにつながるため、量から質へと支払い制度が移行してきています。オバマケアの下で、2000年にはほぼ100%量に対して医療費は支払われていたものの、2016年には約30%は質に対して支払われるようになってきています。この割合は2018年までに50%に達する予定でしたが、トランプが大統領になったら大きな変更が加えられる可能性があります。

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