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- 2016年11月15日 17:45
「大国間の競争」を否定するホワイトハウスの問題点 (中国とロシアへの対処こそ重要) - 渡部悦和
2/2中国にいかに対処するか?ホワイトハウスと国防省の確執
オバマ大統領と国防省との関係は良くない。この背景には相互の不信感がある。オバマ大統領には国防省や軍が過去何度も犯してきた作戦上の失敗に対する不信感がある。一方、国防省にはオバマ大統領及びその側近から不当な干渉を受けているという思いがあり、史上最低の両者の関係であると批判する者もいる。●国防省に対するマイクロマネジメント
オバマ大統領と彼に仕えた全員の歴代国防長官(ロバート・ゲーツ、レオン・パネッタ、チャック・ヘーゲル)の関係は良好ではなかった。特にゲーツ氏とパネッタ氏は、国防長官辞任後に出版した回想録[5]の中でオバマ大統領を厳しく批判している。軍の最高指揮官としてのオバマ大統領の資質に対する批判がその根本にある。つまり、危機に際してのオバマ大統領の優柔不断さ、自らの戦略に対する自信の欠如、発言の背後にある意思の欠如、国防省に対するマイクロ・マネジメント(本来ならば国防省に任せるべき部隊運用などに関し、細かいことにまで干渉すること)などがその原因である。
一方で、オバマ大統領には、円滑に進展しない軍事作戦に関し、国防省及び軍首脳に対する不満があり、大統領の対外政策は外交主導で運営され、国防省は冷遇される傾向にある。 当然ながら、オバマ大統領とカーター国防長官との間にも意見の対立がある。特に、中国、ロシア、ISILに対する対処案ではしばしば意見が対立している。例えば、ロシアのクリミア併合とウクライナ東部での紛争に際し、カーター長官は、ウクライナへの武器の供与を進言したが、大統領は拒否した。
カーター長官は、南シナ海における中国の人工島の建設に伴う「航行の自由作戦(FONOP)」の実施を2015年の5月の段階で進言しているが、大統領はその進言を受け入れることがなく時が過ぎ、2015年の10月27日にやっとFONOPは実施された。この半年の間に中国の人工島の建設はほぼ完成してしまった。
この大統領の優柔不断さは米海軍の士気に悪影響を及ぼした。そしてイラクやシリアにおけるISILとの戦闘においても、地上戦力のより積極的な活用を進言する国防省とそれを拒否する大統領の意見の相違は明白である。
カーター国防長官及び相殺戦略の主務であるロバート・ワーク国防副長官は前述のように、中国とロシアの脅威を強調し、大国間の競争を打ち出すことによって、両国に対する軍事的技術的優位を確保しようとした。オバマ大統領は、声高に中国やロシアの脅威を強調することを好まない。中国とロシアに対する脅威認識の相違が事あるごとに大統領と国防省のぎくしゃくした関係を惹起させてしまっている。
●ハリス太平洋軍司令官の度重なる意見具申を却下するNSC
9月26日付のNavy Timesは[6]、ハリー・ハリス太平洋軍司令官による中国の人工島建設に対処する太平洋軍の作戦に関する度重なる意見具申を、NSC特にスーザン・ライス大統領補佐官が拒否している状況を生々しく報じている。ホワイトハウスとしては、他の案件で中国の協力が必要であることを理由に中国との関係を緊張させないことを優先している。一方、太平洋軍は、もう既に南シナ海においては現状変更が行われていて、今後、スカボロー礁での人工島の建設や軍事基地化が懸念される状況に危機感を募らせている。このような双方のやりとりが、「大国間の競争」「中国との競争」の表現をしないようにという指示につながったのであろう。
結言
世界情勢を客観的に観察すると、イアン・ブレマーが主張するGゼロの世界(世界の諸問題を解決する国や組織が存在しない世界)に段々と近づいてきている。その大きな原因は、米国の相対的な影響力の低下と中国やロシアの米国に対する挑戦にある。まさに大国間の競争が激化してきているというのが普通の見方であろう。オバマ大統領は、世界一の軍事力を世界の平和と安定のために上手く利用することなく、世界が混沌とした状況のまま大統領の任期を終えようとしている。 願わくは次期米国大統領には、中国とロシアに対して適切に対応してもらいたいものである。_________________________________________________________
[1] David B. Larter,“White House tells the Pentagon to quit talking about competition with China”
[2]Ian Bremmer, “SUPERPOWER”, P40
[3] 10月7日付のWSJ
[4] Thomas Graham, Matthew Rojansky,“America’s Russia Policy Has Failed”
[5] Robert M Gates,“ Duty: Memoirs of a Secretary at War”, VintageLeon Panetta, “Worthy Fights”, Penguin Press
[6] David B. Larter,“4-star admiral wants to confront China. The White House says not so fast. ”
(JBpressより転載)
渡部 悦和 Yoshikazu Watanabe
ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー、前・陸上自衛隊東部方面総監1978年 東京大学卒業、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。2013年退職
- 一般社団法人日本戦略研究フォーラム
- 外交安全保障を主軸としたシンクタンク



