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- 2016年11月15日 17:25
今、米海軍で何が起こっているのか? 米海軍トップのA2AD(接近阻止・領域拒否)使用禁止令の真意 - 渡部悦和
3/3作戦部長の真意は何か?
ここまでA2AD使用禁止令に対して疑問を呈してきたが、“Deconstructing A2AD”を何回も読み返してみると、リチャードソン作戦部長の真意の一端が見えてきた。作戦部長の狙いを一言で言えば「米海軍の原点への回帰」なのであろう。具体的には以下の様な諸点を強調したかったのであろう。・A2ADという用語を使用する弊害として、人民解放軍のA2AD能力(例えばDF-21Dに代表される弾道ミサイルや対艦巡航ミサイル)に対する過度の警戒により、米海軍の発想が防衛的で縮こまったものになってしまっている状況を転換しなければいけない。
・A2ADを使用することにより、「一つのサイズを全てに適合するアプローチ」で思考を過度に単純化することなく、具体的な状況に基づき、「明確な思考(クリア・シンキング)」と決定的な行動により、現在および将来の脅威に対抗して任務を遂行することが重要である。
・米海軍の存在意義は、いつでもどこでも作戦し、言葉ではなく行動によって米国の戦略的影響力を行使し、米国の国益に寄与することである。 そのためには、米海軍本来の攻撃的で強い海軍に回帰することが急務である。
・リチャードソン作戦部長の考えは、同盟国による対中国A2AD論における米海軍の消極的な行動に対する批判であり、米海軍本来のより強くて積極的な作戦をアジアにおいて実施することを示唆する。もしもそうであるとするならば、日本としても歓迎すべき考えである。
更なる深慮遠謀はあるか?
さらに考えると、今回のA2AD使用禁止命令には、未だ明らかにされていないリチャードソン作戦部長の深慮遠謀があるのかもしれない。米海軍の将来について大きな構想があって、その手始めとしてA2AD使用禁止令を出したのであれば、作戦部長の言動には今後とも要注目である。以上が私の考察であるが、今回の禁止令は米海軍に限定されていて、米国防省全体にA2AD禁止令が出た訳ではないので、私は今後ともA2ADという便利な用語を使い続けることにしよう。十分にリチャードソン大将の真意に配慮しながら。
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[1]Steven Stashwick, “BEING REALISTIC ABOUT ENGAGEMENT WITH CHINA AND THE A2/AD THREAT”, Diplomat, September 23,2016
[2]Toshi Yoshiharaと James R. Holmes、“Asymmetric Warfare, American Style”、Proceedings Magazine-April 2012
(JBpressより転載)
渡部 悦和 Yoshikazu Watanabe
ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー、前・陸上自衛隊東部方面総監1978年 東京大学卒業、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。2013年退職
- 一般社団法人日本戦略研究フォーラム
- 外交安全保障を主軸としたシンクタンク



